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【超短編小説】雨

現在40歳前後の方には共感していただけると思うのですが、こういったどこの馬の骨かわからない人間が文章を書いたりする行為の原体験は【mixi】にありませんか?

当時の僕は比較的に夢中になり日記なるコーナーで駄文を大量に日夜投稿する日々を送っておりました。

そんなmixiから20年近く前に書いた超短編小説を引っ張ってまいりました。
これは、当時東野圭吾にハマっていた僕が東野圭吾っぽい文章を書くってテーマで挑戦したものです。

サクッと読めるので東野圭吾っぽいワードをぜひ探してみておくんなまし!


雨は嫌いだ。
窓から見える色とりどりの傘の流れを見ながら、彼は思い出していた。
いつも決まって、雨の日にはあの日の事を思い出す。
 
靖が3歳の頃の話だ。

この日も冷たい雨が降っていた。
母親の由香里に手をひかれ、靖はお気に入りの赤い長靴を履き、いつもとは違う別の公園へと出かける。
靖は得意気に水溜まりの中でジャンプをしたり、泥団子を作って遊んでいた。
 
由香里の方に目をやると、アーモンド型の大きな瞳から一筋の雫が頬の下を濡らしている。
幼い靖は由香里に、

「ママ!雨で顔が濡れているよ!」

と、おどけて見せた。
 
由香里は縦に手刀を切り、何度も「ごめんね」と言っている。
不思議に思った靖は、由香里の元へ作りかけの泥団子をそのままにして駆け寄った。
靖は由香里に、

「どうしたの?」

と不安気な目で問いかけた。
由香里はかぶりを振りながら、

「うん。何でもないのごめんね。ちょっとママ、トイレに行って来るから、いい子にしてるのよ。」

と、靖に優しく微笑んだ。


彼の由香里への記憶はここでプツリと途切れている。
由香里は靖を冷たい雨が降る公園に置き去りにし、そのまま行方をくらませた。

彼は、短くなったマルボロを深く肺に吸いこみ灰皿の中に荒っぽく押し付けた。
無意識に世話しなく左足が床を叩いていた。
考え事をするときの彼の癖だ。
彼は「チッ」と小さく舌打ちをして左足を叩く。

彼は財布の中から、皺くちゃになった一枚の写真を取り出した。
そこには、あの頃のままの由香里の優しい笑顔があった。
彼は、マルボロの箱に手をやった。
中身は既にさっきの一本で空になっているらしい。
マルボロの箱を握り潰し、ゴミ箱へ投げ入れた。
写真を財布の元あった定位置へそっとしまい、コンビニで買った透明のビニール傘を手に取り玄関の扉を開ける。


道行く人々は皆、一様に足早に歩き心なしか焦燥した顔付きに彼には見える。
少し歩くと花のいい匂いが彼の鼻孔をつく。
花屋のショーケースには、赤いカーネーションが所狭しと綺麗に並べられている。
彼の目に『母の日』と言う文字が飛びこんだ。

体温が上がるのを彼は感じた。

この世の音が一切無くなったような感覚になり、何も考えずに花屋の店内に足を踏み入れる。
店内では、人柄の良さそうな60歳ぐらいの女性が慣れた手つきで花束を作っていた。
その女性が彼に気付き声をかけてきた。

「いらっしゃいませ。母の日のカーネーションですか?」

突然声をかけられ音のある世界に引き戻された彼は驚いてしまい、首を縦に振るので精一杯だった。
手際よく花束を作りだそうとしていた店員に、焦って彼は声をかけた。

「カーネーションを一本だけで結構です。」


彼は部屋に戻りガラスのコップに水を入れ、カーネーションを生けた。
財布の中から長らく定位置になっていた由香里の写真を取り出し、コップの横に立てかける。
妙な安堵とともに母親の由香里への憎しみは霧のように不思議と薄れていた。


由香里


テーブルの上を眺め、彼は頭を掻きむしり一人で呟いた。

「慣れない事をするもんじゃないな。」

彼は、ビニール傘を手に取り買い忘れたタバコを買いに玄関を出て行った。




まさかの顔オチ短編小説でした!
いかがだったでしょうか?
東野圭吾うんぬん以前にボケんのかい!って内容でした。

自画自賛する頭お花畑野郎で大変恐縮ではございますが、久しぶりに読んだわけですがやっぱり笑っちゃったんだよなー。

どうですが?
お口に合いましたでしょうか?


note創作対象2024が案の定過ぎるぐらい何も起こらなかったので、悔しさ余ってこんな暴挙に出た次第でございます。

最後まで読んでくださったそこの優しいあなた!
うっかり笑ってしまったそこの笑いの分かるあなた!

人に言ったら駄目ですよ!
良い大人はこんなことで笑ってはいけませんからね。
それでは、またどこかでお会いしましょうさよなら!

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