Arc.5-令和3年度弁理士試験合格おめでとうございます。
大阪市でフィラー特許事務所を経営している弁理士の中川真人です。この度、令和3年度弁理士試験に最終合格された199名の合格者の皆さま、本当におめでとうございます。
さて、近年難化傾向が顕著な弁理士試験ですが、ついに合格者が200人を切るというレベルにまで絞り込みが進みました。少なくとも、産業財産権法の解釈能力と説明能力が試験委員の先生方の求める基準を上回ったというお墨付きをいただけたことは間違いありませんから、堂々と弁理士としてのデビューを果たしてください。
私は令和2年度に短答→論文→口述を一気に(免除なしで)合格したので、同じ試験委員の先生方が作成された問題を一貫して解答し合格しました。その時、どうも問われ方の傾向というか特徴をなんとなく感じていたのですが、どうやら近年の試験委員の先生方が求める弁理士像というものがはっきりわかってきました。
令和2年度では、特に商標で客観的な正解を求められていないという史上初の出題がされました。なんじゃこれとしか言いようがない「フィッシュ愛フィッシュ(FIF)」の問題です。
私はこのFIFなる文字列をみた時、ほぼ瞬殺でFIF≒FIT→3号?という推察をしましたが、案の定4条1項3号が題材の問題で、かつイ号ロ号の創設趣旨と事例が酷似していて、それでいてFIF側ではなく負ける側の「国際機関側から」説明せよとなんとも説明しづらく語尾をどう書けば矛盾なく説明できるのか、16時45分あたりに意識が朦朧となりながらなんとか書き切った記憶が今でもはっきり思い出されます。
そして、今年も「あなたが考える最高の選択肢はどの審判ですか?」という、なぜその審判を選んだのか、なぜその審判が最高の選択肢なのかを説明させるという問われ方がされました。
今までであれば、設問の文言と条文を当てはめて「この審判の請求要件を満たすからこれ!」でよかった回答が、「AとBとCの審判が請求可能ですが、私の一押しはAです。なぜなら、」という回答を要求されるようになったのです。
私は令和3年度の口述試験向け模試を有志で行っていましたが、その時も、論文試験の合格者の皆さまの多くが「きちんと回答できなかったのでなぜ合格したのか不思議だ」ということを多く仰っていました。
その「きちんと回答できなかった」というのは、予備校のレジメにない問われ方がされたので、その場で最適な回答を自分で考えて書いてきたから不安で仕方がなかった、というのが真相だと私は思います。
そして、今年の口述試験でも「何が正解かではなくなぜそれを正解と思ったかを聞かれる可能性が高いから、試験官の先生の語尾に気をつけてよ〜〜〜く質問の意図を探るようにしてください」というアドバイスを強めに行い、めでたく不安ながらも的確に質問に答えられてよかったという合格報告を多数いただきました。
特に二日目の意匠などは、関連意匠を9条の例外とみるのか、3条の例外とみるのかで答え方を変えなければいけない(分割の話ができない)流れになっていたようで、人によっては相当手厳しい問題になった模様です。漏れ伝え聞いたところでは、いろんな可能性を含みつつ最適なルートを自分で考えて一貫した回答が必要だったという点で、令和2年度の論文試験の意匠法と構成が似ているなという印象も強く感じました。
まとめると、別解が何個か作れる問いがされ、その中の一つのルートを矛盾なく説明し切れるかどうかというのが近年の問われ方のキモなのではないかというのが私の見解です。
令和2年度の論文試験の意匠法でも、関連意匠がらみで「(時期的要件を見ると)このルートでもいけるかも」という思わせぶりな問われ方もしていたのですが、2つのルートを並べて説明するにはどう考えてもスペースも時間も足りないので、確実に説明できるルートだけを一貫して書き切って、ものすごくもやもやした不安を抱きながら解き終えた感覚があったのを今でも覚えています。
私は、予備校で先生に習っていた時も「丸暗記ではどんどん受かりにくくなる。弁理士試験はみなさんが思っている以上に法律の試験だ。」ということを強く教えられ、一度勉強を一からやり直しています。そして「みなさんが思っている以上に法律の試験だ」という傾向はますます強くなっている気がしてなりません。
また、「「条文にこう書いてる」「こういう判例がある」なんて説明しかできない弁理士はこれ以上いらない。皆さんにはそうならないで欲しい。」という釘も刺されていましたが、「甲は、A審判とB審判が請求できる。以上」なんて答案はいらないというのが近年の弁理士試験のメッセージだと考えると、弁理士試験は法律の試験だ、弁理士の仕事は法律解釈だ、という認識がこれからの標準になっていくでしょうし、私もこの認識で合格し応援メッセージまで(口述試験の総括質問で)いただきましたから、「AとBとCの審判が請求可能ですね」ではなく、さらに続けて「その中でも私の一押しはAです。なぜなら、」を続けることができる弁理士であり続け、令和3年度弁理士試験合格という199名の猛者にも「その中でも私の一押しはAです。なぜなら、」を続けることができる弁理士として今後の活躍を期待したいです。
弁理士・中川真人
フィラー特許事務所(https://www.filler.jp)