【弁理士による解説】著作権法は特許法・意匠法・商標法の受け皿ではありません!
著作権は芸術家が自身の作品のお披露目の機会を自分自身でコントロールしたいという希望を叶えるための文化・学術的な法律です。著作権法で商品名やアイデアを保護できるという考え方は本当に信じてよいのでしょうか。
大阪梅田でフィラー特許事務所を経営している弁理士の中川真人です。フィラー特許事務所では、知財の本場である米国で広く一般的に用いられている知的財産戦略のメリットを日本の法律の枠内でも極力再現できるように工夫した知財経営のノウハウを提供しています。
今回は、著作権法についての基本的な考え方について説明してみようと思います。結論から言うと、著作権法を産業財産権法(特許法・意匠法・商標法)の受け皿のように考えてはいけません。
ネットの情報は間違いが多い
弁理士受験業界では「著作権について疑問があっても絶対にネットで調べてはいけない」という業界の常識があります。なぜかと言うと「間違いが多いから」です。ネットに書かれている著作権法についての解説は、弁理士業界でも「俺サマ著作権法」と言われてすこぶる評判が悪いと言うのが実情です。
ところで、この「間違いが多いから」と言う理由のうちでも法解釈を完全に間違っているものと、事例を過度に一般化している例の2パターンに分かれます。では、なぜここまで著作権法の解説に間違いが多いかと言うと、絶対的な正解がないという著作権法独特の事情があります。
ドラえもんを知らない人が描いたドラえもんそっくりのイラストは著作権法違反か?
著作権は相対的な権利と言い、万人に対して主張できる権利ではありません。極端な例を挙げますが、ドラえもんを見たことがない外国人が日本国内でオリジナルでドラえもんそっくりのイラストを描いて発表したところで、著作権法違反にはなりません。
日本国内でドラえもんのイラストを描いて発表することで著作権法違反が生じる場合は、コピー元のイラストがあり、それを複製権原のない第三者がそのコピー元のイラストに依拠して複写し、それが似ていて、コピー元のイラストの著作権者(複製権者)に無断で発表した時といった極めて限定的な場合のみです。
実は、頭の中にイメージしたドラえもんを思い出しつつ描いたイラストは複製物というより2次創作物という扱いの方がしっくりきます。実際に著作権法違反で事件になるような場合は、コピー元のイラストを完全に特定できて、かつ複写機など何らかの複製手段を用いたことが明らかな場合くらいに限られます。
では、ドラえもんのイラストを描いて著作権法違反になる場合を説明してくださいと言われて、あなたはこの問いに正解を用意できるでしょうか。著作権が相対的権利である以上、結局創作者の頭の中をかち割っても本当に著作権法に違反したかどうかなど、客観的な基準で論じることなどできないのです。
先の例でも、ドラえもんをみたことがない外国人の描いたイラストを複製した人が現れたら、その複製行為に著作権法違反を主張できるのはその外国人だけで、本来のドラえもんの著作権者(複製権者)には全く関係ないという話になります。
結局「要は創作した人次第ですね」というキラーワード
では、ネットに書かれている著作権法についての解説が本当に間違っているのかといえば、一概にそうとも言えません。どんなに極端な説明をしたとしても、複製した人の条件をさまざまに後付けすれば黒にもなるし白にもなるからです。
著作権が相対的権利である以上、どんなに客観的な説明を試みても、基準の提示を試みても、最後は「まあ、創作した人次第ですね。」で全てオチをつけてしまえる、これが著作権法です。
最後に、産業財産権法を取り扱う弁理士としてのアドバイスですが、本来特許法、意匠法、商標法で保護できる思想・アイデア、識別標識・営業表示を著作権法で守れるという説明は信用しないことです。
確かにこれらを侵害した人の状況を極めて都合よく条件付けすれば、著作権法で守れないこともないとは言えません。しかし、それ用にきちんと法律を用意しているのにもかかわらず、それらを使わないで著作権法違反だから保護してという主張は裁判所には通用しません。
著作権法を受け皿と思ってはいけない
そして、工業製品を始め芸術の分野ではなく産業の分野で利用される商品やサービスに、著作権法違反を主張することで解決するような事件はほとんどありません。あるとすれば、複写機を用いたコンテンツの複製行為くらいです。
ここは誤解がないように説明する必要がありますが、コンテンツ産業を行うにしても産業財産権法上保護すべき対象は特許庁に対して登録された権利を持ってきちんと公示しておかなければ、コンテンツ自体を適切に保護することは困難です。
法的安定性に優れ予見可能性の高い保護を受けつつ、安心して第三者との取引を行いたいのであれば、経済産業省特許庁が所管する産業財産権法を正しく活用するようにしてください。
著作権法をこれら産業財産権法の受け皿として考えて事業を行うことは、弁理士として決してお勧めすることはできません。
弁理士・中川真人
フィラー特許事務所(https://www.filler.jp)