10. BOSS事件を現代風にアレンジしたらこういう問題になります
航空会社甲は、指定役務を「ジェット機による旅客輸送」とする登録商標「ジェットストリーム」の商標権者である。甲は、自社のジェット機を利用した搭乗客に、登録商標「ジェットストリーム」を当該ジェット機を模したボールペンに付して無償で配布した。
文具メーカー乙は、指定商品を「ボールペン」とする登録商標「ジェットストリーム」の商標権者である。乙は、甲が配布しているボールペンが自社の商標権を侵害するものとして警告を行うことを検討している。
なお、両商標は同一であり、指定役務「ジェット機による旅客輸送」と指定商品「ボールペン」は類似しないものとする。
(1)乙が、当該警告を行うに際し検討すべき事項を挙げ、警告の妥当性を論ぜよ。(30点)
では、次のような問われ方ならどうでしょうか。
(2)乙は、インターネット上に「このジェットストリーム書き味悪すぎww」「これニセモノでしょ」という書き込みが複数投稿されている事実を確認した。この場合において、乙は甲に対し差止請求、並びに損害賠償請求を行うことを検討している。乙が、当該請求を行うに際し検討すべき事項を挙げ、乙の請求が認められるか否かについて、その妥当性を論ぜよ。(30点)
商標法には特許法のように「権原等なき第三者が、他人の特許発明の技術的範囲に属する発明を、業として実施することをいう」といった、定型的な定義文がありません。
そのため、特許法等創作三法のノリで商標法を考えると、BOSS事件のような使用とか商品の定義といった内容で結論を出した事例の理解が難しくなります。
特に、商標法で画一的な判断基準を持ち出すことは危険です。商標法には周知性と登録主義と使用主義の混在、需要者の利益保護という独特の検討事項がたくさん内包されているため、唯一無二の正解を出すといった態度は法の不理解を疑われかねなくなります。
結論よりも、その結論を導いた道筋を正確に説明できるようになれば、近年の難化する弁理士試験にも十分対応できるようになるでしょう。
フィラー特許事務所(https://filler.jp/benrishi/)
弁理士・中川真人