それでも僕はやっていない

今日、5年ぶりの免許更新に行ってきた。

5年前の記憶がないのでどのくらいかかるか全くわからなかったが、更新のお知らせのハガキに「講習時間30分」と記載されていたため「よかった、30分で終わるんだ」と思い、始業時間の朝10時に間に合うと踏んで受付開始時間8時30分に最寄りの警察署に到着するよう向かった。

8時31分に到着すると、免許更新の受付窓口にはすでに長蛇の列ができており「警察署にくるのに受付時間のルール守らないってどういうことだよ」と内心もやもやしながら受付を済ませた。

・・・遅い。

当然人がたくさん来ているので時間はかかるが、それにしてもスタートからゴールまでの所要時間がアナウンスと違いすぎる。
どうやら「講習時間30分」はマジで講習時間だけの情報らしく、受付、視力検査、写真、免許交付は分量外のようだ。
次第に「これ、仕事間に合うか・・・?」という不安といら立ちにおそわれ(ちゃんと余裕を持って時間をとらなかった私が悪いのだが)、警察権力へのせめてもの抵抗として、漫画アプリで読めるちょっとエッチな漫画を警察署内で読むというパンクを見せつけた。

そんなこんなで過ごしていると写真撮影の時間になった。
担当は東進ハイスクールの社会科担当・村瀬先生みたいなおじさんで、慣れたようすでパンパンとさばいていく。
私の前の人なんて
「はーい、じゃあ荷物とマスクそこにおいてくださーい。ここの赤く光ってるとこ見てくださいね。はい、終わりでーす!ばっちりです!」
と電光石火のはやさで撮影が終わっていた。

「よかった、あまり時間かからず済みそうだ」

そう思って席に向かうと、同じように
「はーい、じゃあ荷物とマスクそこにおいてくださーい。ここの赤く光ってるとこ見てくださいね。」
と言われ、うながされるがままに姿勢を正した。

シャッター音ののち、村瀬先生から「こっちきて」と言われた。
「さっきの人にこんな時間なかったけど・・・」と思いながら、招かれた場所へいくと私の顔写真がディスプレイに映っていた。
「こう、もっとアゴ引いた方がイケメンに映ると思うけどどう?」
「はぁ・・・(そんなこと言ってくるんだ、警察の人)」
「もう一枚、とろうか?」
「はぁ、じゃあお願いします」
そうしてさっきよりあごを引いて座り、再びシャッター音がなると村瀬先生がまた「こっち来て」と私を手招きした。
「ほら、イケメンじゃない?さっきの写真と比べてどう?こっちのがいいでしょ?」
「あの、どっちでもいいです」
「あ・・・なんかごめん」
「いえ、ありがとうございました」
まさか警察の人に「なんかごめん」という理由をうまく言葉にできないような感情で謝罪させる日がくるとは思わなかったし、それが免許更新の日になるとも思わなかった。

そして夕方。
仕事から帰った妻は私の新しい免許の写真を見るのを楽しみにしていたようで、家に入るや否や「免許どこー!」と言って財布から抜き取っていた。
きっと変な写真写りを馬鹿にする気だったに違いないだろうが、残念ながら今回は鬼才・村瀬先生がこだわりにこだわった1枚だ。馬鹿にされるわけがない。
そんな私の顔写真が入った免許証を見た妻が
「人殺しの顔してるじゃん」
と言ってきたので「嘘だろ!」と思い免許を確認した。
そこにはアメリカで少なくとも3人は殺している男があごを引いて写っていた。

警察がこだわり抜いた写真がまさか殺人犯と言われるなんて。
冤罪とはこうやって生まれるのかと怖くなった。

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