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1回戦負けの弱小チームから常勝チームへの軌跡②—卒業生へ贈ることば
卒業生へのことば(3年目)
5年前、中学1年生だった君たちと出会えたことで私の人生が変わりました。君たち6人と本当のチームになりたくて、君たち6人と本気で夢を目指したくて、君たち6人との約束を果たしたくて、高校の教員になりました。
アップルのC E Oスティーブ・ジョブズやスターバックスコーヒーのC E Oハワード・シュルツは世界一のコンピューターやコーヒーを作りたかったわけではありません。彼らのその情熱はその先にある「ヒト」に向けられています。
『私達が夢を追うことによって、どれぐらい世界を素晴らしいものに変えることができるのか』『どれだけのヒトの人生をさらに良いものに影響を与えることができるのか』ということです。
フランスは世界一のデザインの国です。フランスでは素晴らしいデザインの服を作って一番売って大金持ちになったとしても評価されることはなく、『どれだけ文化に影響を与えることができたか』ということが最も大切な価値観になります。
今年度、私達の高校の入学志願倍率がK高校を圧倒的に越え、推薦入学希望者は1.7倍。職業科、総合学科以上の希望者数で、“全道2番目”の倍率です。校舎が古くて寒い・汚い、校則が厳しい、制服がダサい…そもそも新興住宅街が遠く、一時期廃校か、とまで言われていた私達の高校が!です。
このニュースは北海道中に大きな衝撃を与えました。その1番の要因は「女子バスケットボール部の希望者が一気に増えた」ことによります。つまり、君たちに憧れて「君たちのようになりたい」「君たちのような高校生活を送りたい」という小中学生が本当にたくさんいるということです。面接でたくさんの中学生が「先輩達が優しくてカッコ良くて強くてそんな風に私もなりたいと思った」「公立高校で環境は私立高校より厳しいかもしれないけど、全道優勝するのはこの高校でしかできないと思った」「先生と生徒の距離が近くてそんな風に楽しくても強いのがすごくて私もその一員になりたいと思った」と語ってくれていました。
昨年、あと1点・あと1秒…で涙を飲んだウインターカップ全道大会。そこでベスト4に入っていれば校内で最も影響を与えた部活動に送られる『沖口杯』が受賞できたんじゃないか…とさらに落ち込んだのを覚えています。今年、初めて栄冠の沖口杯を受賞しました。しかも、全校の3分の1以上の生徒が「女子バスケ部」と書いてくれ、教員の9.5割が「女子バスケ部」と書いてくれていました。
その理由には、「毎日、溌剌と笑顔で過ごしている。規律の良さが先輩から受け継がれていてそれが学校全体に良い影響を与えている。」「強いのはもちろんだが、全道大会前日に朝練習に来たのに、雪が積もっているのを見るや、みんなで雪かきをしていた。そういうところ。」「大会での活躍はもちろんだが、日頃から明るくひたむきに取り組んでいる。部員のKeep Smiing!!素敵です。」と書かれていました。
つまり、君たちは地元の小中学生に夢を与え、私達の高校の生徒・教員に楽しんでもいいんだという勇気を与え、そして、私に挑戦する覚悟を与えてくれました。君たちはバスケットボールを通して地元の文化に大きな大きな影響を与えてくれたのです。もうわかると思いますが、全道優勝することができなかったから失敗などというのは、自分のことや地位や名誉しか考えられない二流・三流の人生を送る人の思考です。毎日にベストを尽くして、心からやり切ったと満足して人生の最後を迎えることができることこそが、成功であり、人生の勝利者になるということです。世の中にどれだけの人が必要としてくれるかが夢の価値を決めるのです。
これから社会に出る君たちに、先生から最後に一つだけ伝えます。私達が取り組んできた「最強のチームではなく最高のチームでありたい」ということ。一番楽しんで一番努力すること。最高に仲が良くて最高のライバルであること。これらのことを社会に出ても忘れないでください。
バスケットをする上ではとことん合理主義であり、絶対に不思議なことは絶対に許さない。ところが一歩練習を離れれば、その対極にある仏の世界など精神的な領域も信じる。この力のことを「ANDの才能」と言います。その反対にある、勝つためには楽しいことは我慢してただひたすらに鍛えなければいけない。逆に楽しむためには勝たなくても別にいい。そんな風にどっちかにだけに振ってしまうことを「ORの抑圧」と言います。君たちならどちらが良いかわかると思います。
素晴らしい仕事をしていくためには、科学者としての合理性とともに、「この人のためなら」と思われるような人徳を備えていなければいけません。大きな成果をあげている会社や人にはこの「ANDの才能」を兼ね備えた人が多いのです。
M
新しく生まれ変わった姿を見せて欲しいという願いを込めて「ネオ」と名付けました。一歩下がって冷ややかに見ていたのが、先頭切ってアホにもなれる本当の優しさと責任を持った最高のキャプテンでした。
Y
指揮者のようにチームをコントロールし、士気を高めて欲しいという願いを込めて「シキ」と名付けました。強気なプレーと乙女な心のギャップでファンを増やし、チームのエースとして活躍してくれました。
W
もっともっとできる選手。もっと自分の可能性に気づいて欲しいという願いを込めて「モア」と名付けました。体の大きな赤ちゃんでしたが、気づけば中も外もプレーできる大黒柱になってくれました。
H
臨機応変に対応できるような選手になって欲しいという願いを込めて「リン」と名付けました。入学当初は自信がないと言っていましたが、周りが何をしても凛として動じず、大きな成長を見せてくれました。
K
頼りになるNo.1ガードになって欲しいという願いを込め「ヨリ」と名付けました。バタつくことも多々ありますが、細やかな心配りもチーム1番でした。持ち前の元気でらしさを貫き、チームに勢いを与えてくれました。
K
過去ではなく今という今を頑張らなければいかんと願いを込め「ナウ」と名付けました。間違いなく問題児ランキング1・2を争いますが、それ以上にチームを笑顔にするランキングもNo.1の振り幅の大きい楽しい選手でした。
私達の高校10年ぶりの優勝から始まり、地区大会完全制覇の18連覇。「この地区から全国へ」本気で挑戦してもいいんだという勇気を子ども達に与えてくれたこと。何より3年前、選手が次々と辞めていって結果も何も出していない一番苦しい時に信じて入学してきてくれたこと。部活動も担任も一緒で、遠征から見学旅行(の朝練)まで全ての行事を一緒に頑張ってきたこと。君たちと過ごした時間、本当に楽しい3年間でした。卒業を間近に迎えた今、感謝の気持ちと寂しさで一杯です。これからもいつまでも応援しています。チームは家族。たまに家に帰ってきてくださいね。
卒業おめでとう。そして、本当に本当にありがとう。君たちはいつまでも私の夢です。
監督より
卒業生へのことば(4年目)
7名の卒業生のみんな、卒業おめでとう。君達と過ごした楽しく辛く笑って泣いた3年間を振り返り、お祝いの言葉を贈ります。
<人生の11時台>
時計の長針と短針は1時間に一度だけ重なることができます。1時であれば1時5分ぐらい、2時であれば2時10分ぐらい、3時であれば3時20分ぐらい・・・
という感じで10時までは全て長針と短針が重なるのですが、11時だけは重なることができません。短針が逃げ切ってしまい長針が追いつけないのです。そして、次に短針と長針が重なることができるのは12時ちょうど。つまり、12時の鐘が鳴る時に重なることができるのです。
この話から何を言いたいのかというと、12時の鐘が鳴る(何かを成し遂げる)前に「人生における11時台」という人生で報われない時間というものも必ず存在するということです。何も起きていないように見えても必ず前に進んでいます。そして、その不安な11時台にその人の本性が見えるものです。信じて歩みを止めず前に進む人、重なることはないのは壊れているからだと考えて捨ててしまう人、重ならないのを誰かのせいにして怒り出す人、冷静に分析してその原理を理解しようとする人・・・。
君達は原理を理解し、信じて前に進みました。原則に従って生活し、バスケットに取り組んでいました。高校入学当初からは想像もできないぐらい本当に素晴らしい生徒・選手・大人になってくれました。
全道新人大会から帰ってきて、当たり前だった学校生活やバスケットボールができなくなりました。あと、2週間、あともう少し・・・と月日が経っていき、臨時休校になり、長い歴史の中で初めて高体連がなくなり、今1年が経ちました。
あの時、電話で話したことやzoomでトレーニングしたこと、ミーティングしたこと、自主トレしたこと、久しぶりに体育館でみんなでバスケットできた日のこと、本当に忘れません。3年生の強さとチームを愛する気持ち、伝えてくれたこと、心から感謝しています。
これも今ではよく3年生とする笑い話ですが、君達が入学してからの1年間。私が毎日思っていたことは「なんでこんなに無表情で無反応で無気力なのか」ということです。だからと言ってやることをやらない訳ではないし、バスケットが嫌いな訳でもない。何度ミーティングをしてもその答えがずっと見えないままでした。(後ほどAが言うには、その時は本当に普通にやっているつもりだった。けど、今考えると「無」すぎて本当に終わっている人間でした。笑)
指導者として生徒達と過ごしていて、「人間が変わる瞬間」というのが確実にあります。
その多くは、極限の状態を乗り越えたと自覚できるほど、限界を越える努力を自分に課すことができたと、自分で自分を認めることができる瞬間のように感じます。そのように「自分が変われた」と思えることこそが、夢を追って努力する理由なのだと言えます。
あなた達7人が大きく変わり、一皮も二皮も剥けた瞬間は初めて行った大阪遠征でした。全国の強豪とぶつかり合ってヘロヘロになりながら、あの涼しい顔をしてバスケットをしていたあなた達が、気持ちをむき出しにして本気で勝ちを取りに行って、九州の全国出場のチームから圧倒的に勝った姿に感動したのをはっきりと覚えています。
あれから、あれだけ避けていた先生ともよく笑って話できるようになり、裏表なく本音で相談しあえるようになりました。練習でも笑ったり大きな声を出したり、バカをやったり、雰囲気を作れるようになりました。
先輩達がよく「どうして3年生は先生とあんなに仲良く話せるのかと思って1・2年生を過ごしていた」と言っています。しかし、その答えは「上級生になったら自然と与えてもらえる」のではなく「自分自身が限界を乗り越えるほどの努力を課すことができたか(裏表や言い訳なくそれほどの思いを持てたか)」ということだと感じます。
本気の人は本気の人といると居心地が良く、そうでない人はそうでない人といると居心地が良く、そこに年齢や立場や性差は関係ありません。ビジョナリーカンパニー(大きな成果をあげている企業や組織)とは、誰にとってもどんな人にとっても居心地の良い組織ではありません。その組織の発展に本気の人にとっては心から居心地が良い場所ですが、そうでない人にとってはとことん居心地の悪い場所です。本気で向き合い、君達と共に戦った最高の1000日間を心から誇りに思います。
M
何があっても真っ直ぐで一生懸命で、こんなに頑張れる子がいるのかというほど努力を重ねてくれました。尊敬に値するものでした。1・2年生の頃はガードとして怒られ、キャプテンになってからはあなたは全く悪くなくても後輩達が悪いと怒られ、めちゃくちゃ頑張れば一人で頑張りすぎと怒られ、どんな理不尽に対しても、常にチームのお手本となり続けてくれました。ナイチンゲールの生まれ変わりですね。こんなに素晴らしいチームを作ってくれてありがとう。
R
何百人もいる教え子の中で最もわからなかったのがあなたでした。わかったことは無だったということです。影の番長と皆に恐れられていました。頭が良く物事の考え方にキレがあり、正しいことは正しいと誰に対してもハッキリと言えるところに、何度も救われました。あなたの言葉には人の心を動かす力があります。教師という仕事、天職なのかもしれません。その力でたくさんの子ども達に夢と希望と未来を見せてあげてください。常にチームを正しい道に引っ張ってくれてくれてありがとう。
M
問題児①としてやさぐれていた1年生の頃をよく思い出します。何かある度に、どうでもいい、別にいい、何でもいい、とため息をついて投げやりになっている姿と、先輩達のためにみんなのために、勝利のためにとよく笑い、よく涙を流している姿を見てきました。後者があなたの本当の姿だとわかっていました。素直に自分のことを認めてくれる仲間と出会い、成長し、チーム1番の盛り上げ番長になってくれました。看護師として患者さんを怒っている姿が想像つきます。笑顔と活気をありがとう。
S
1年生の頃は手押し車や雑巾など、体幹トレーニングが全くできずフラフラしていたのが、骨折しても捻挫しても弱音を一切吐かずに体を張ってプレーし続けてくれました。話せば出てくる言葉は本当に天然すぎて何度も笑いましたね。しかしながら、理解の速さや深さは確かなもので、その様々なギャップによく驚いていました。きっと看護師としてもいい加減そうに見えて丁寧な仕事ぶりで信頼を得ていくことと思います。縁の下の力持ちとしてみんなを支えてくれてありがとう。
Y
問題児②としてやらかしていた1年生の頃をよく思い出します。もう先輩達と会いたくないとふてくされたり、大会前に問題を起こして計画していたモチベーションビデオを台無しにしました。しかし、持ち前の明るさとパワーでチームを活気づけてくれました。親元を離れ、下宿しながら本気でバスケットに取り組んでくれたこと、心から感謝しています。大学生になってからチャラさが増さないか心配しています笑。どこでもどんなこともできる子だと確信しています。元気と勢いをありがとう。
M
何事にも全力で、Mと並んで真面目2枚看板として活躍してくれました。よく話される「K先輩に連れてこられて、右も左もわからずにバスケ部に入っていた」日からは全く想像がつかないほど上達し、体もガッチリと鍛えらえれ、そのみるみる成長していくあなたの姿を見て、取り組みは間違っていないと確認できました。コツコツが一番強い。芯の強さと素直さを兼ね備えている選手でした。看護師としても一つ一つクリアして看護師長になっていくと思います。勇気と努力をありがとう。
S
いつもニコニコしている裏のブラックさがなんとも言えず楽しかったです。チームのことを想い、我慢しながらも笑顔で精一杯の応援や関わりを持っている姿に、真の強さと輝きを感じていました。みんなの気づかないこともパッと動いていたり、先生がこう言うだろうなということを先回りして指示していたり、チームをうまく回していた影のリーダーでした。保母さんとして、きっと子ども達はもちろんその家族まで元気にしてくれる先生になると思います。思いやりと誠実さをありがとう。
監督より
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