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Hint リリースです!
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【Hint】
Style:Lager with Herb
ABV:4.5%
自家栽培のハーブを使ったラガー。小麦麦芽由来の柔らかな口当たりでありながらフレッシュなハーブからなる爽快な香りが鼻を抜ける気持ちの良い味わいです。
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自家栽培のハーブをつかったラガーのHintができました。
2024年の春にブルワリーからほど近いところにある30坪くらいの小さな畑を借りました。これは、お酒は農作物からできている、つまり、酒造りとは農業であるという考えをベースに原料のほぼ全てを外国産に頼っている僕たちが、農業を通して酒造りをより深く理解することを目的とした取り組みのためです。
手探りでの栽培を経て収穫した素材を使ってビールをつくることで、より本質的な酒造りとは何かということをこの身を持って体感していきたいと考えています。
ビールの主原料である麦やホップを育てるにはスペースが足りず、果樹を育てるにも年月がかかるためまずはハーブを複数種類栽培するところから始めてみることにしました。これは、野尻湖のYAMATOUMI farm & distillを訪ねた際にコンパクトな畑でありながら多様なハーブが育っている景色を見たことがきっかけの一つにもなっています。
農業1年生の僕たちは、見よう見まねで鍬を操り、畑を耕しては種を蒔いたり苗を植えるなどして実りの瞬間を待ち侘びました。週に何度か畑に立ち寄り、雑草や害虫との戦いを繰り広げながら、幸いなことに仕込みに使うのに十分な量のハーブを栽培することができました。
2024年夏のリリースのこのビールには採れたてでフレッシュなものを中心に6種類のハーブ使用しています。内訳はグレープフルーツミント、レモンミント、和ハッカ、ローズマリー、タイム、セージです。
ベースのビールは小麦を多めに使用した苦味が控えめのラガーで、仕込みの煮沸時と発酵終盤の2度にわたってハーブを直接漬け込みました。
仕上がりですが、小麦由来の穏やかな穀物感のある香りと奥ゆかしいハーブの印象があり、口に含むとどこか食欲がわくような清涼さに満ちています。後味は柔らかく、ふくよかでありながらラガーらしいキレの良さも感じられます。
派手さこそないですが、ホップともまた違った香りと味わいの表現ができたのかなと思っています。
まだまだ始まったばかりの小さな畑ですが、農と醸、ふたつの側面から酒とは何か?ということを考えるための良いきっかけになっているのは、確かなことなのです。
おまけ
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茅ヶ崎では半ば諦めていた農からの酒造り。土地も狭いし、夏は暑すぎるし、色々ハードルが高かった訳ですが縁が繋がり、なんとかこうしてひとつのビールとしてリリースできたことはとても嬉しいことです。
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2023年は1年を通して、ビール以外の酒造りの現場を特に多く訪ねた年でもあり、そこで見たものもまた畑を始める大きなきっかけの一つにもなりました。本文にもありますが、野尻湖のYAMATOUMI farm & distillのハーブ園は麦やホップの畑に比べるとコンパクトなものでしたがそれでもビールで使う分くらいのハーブであれば十分な量が栽培でき、また実際に分けていただいたハーブでAllightなどの仕込みもしたことでグッと具体的なイメージが湧くきっかけになりました。また鹿児島の焼酎蔵の芋畑や、長野のワイナリーのぶどう畑などは農と醸の密接な繋がりを肌身も持って体感するとても良い経験でした。
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ちょうど去年の夏くらいから栽培品目の選定や農地の確保などコツコツと準備をすすめ、地元の農家さんの協力を受けながらこの春に無事にスタートを切ることができました。一応、前職での農作業の経験や家庭菜園の手伝い程度の知識はありましたが、実際にやってみると分からないことも多く、本当に栽培できるのか?という不安も大きかったですが、植物の生命力に助けられなんとか収穫までこぎつけることができました。
種は風で飛びそうなほど小さいし、出芽直後はすぐにでも雑草に負けてしまいそうなか弱いものでしたが自然のエネルギーをしっかりと蓄えて成長していく様子は実に愛らしいものでした。
まだまだ農を語るほどのことはしていないですが、こうして自分たちの手で原材料を育てることで気付けたことも多分にあります。
季節の移ろいを日々感じられたり、雨が降るのがちょっと嬉しかったり。また植物の成長具合に併せて仕込みをすることや、狙った通りの量を確保することの難しさも感じました。
普段はレシピを書いて、そこから原料の調達をします。麦芽やホップはほとんど欠品などもなく好きな時に、好きな量を購入できます。能動的に選択していくような感覚です。一方このビールの仕込みに関しては、ハーブがこれくらい獲れそうだからそれを活かしたビールにしよう、という考えのもとレシピを逆算的に考えていきました。ある意味受動的に、その時のベストを尽くしていくイメージです。
仕上がったものは一杯のビールという点では同じものですが、このプロセスの違いというのは自分にとってもすごく新鮮なものだったと思います。
自然、農、酒。言葉のイメージからその境界も曖昧で誤解も多いことは確かです。自然風に見せかけた紛い物。工業的だけどうまいもの。
風に流されるだけでは、それはただの漂流です。でも、エンジンのついた船で強引に前に進むのは味気ない。できれば、帆のついた船で風と共に前に進みたい。風を捉えて、気ままな航路で目的地に向かうこと。これが醸造家のあるべく姿なのかなと、そう思うのです。