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Prozímリリースです!
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【Prozím】
Style:Pilsner
ABV:5.0%
チェコ産の原料と伝統的なトリプルデコクション製法で仕上げたボヘミアンスタイルのピルスナー。芳醇なモルトの味わいと、香り強くも上品なホップの苦味を楽しめる、世界を席巻した黄金のビールです。
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チェコ産の原料と伝統的なトリプルデコクション製法で仕上げたボヘミアンスタイルのピルスナーができました。
「日本で飲まれているビールのほとんどがピルスナーという1種類のスタイルなんですよ」
これは、クラフトビールの多様性を表現する時によくでてくるフレーズ。厳密にはピルスナーというか、様々なラガースタイルなんじゃないか?と思いますが、それらのビールの元祖とも言えるのがチェコのピルゼンで産まれたピルスナーというビールであることは間違いありません。
それまで、褐色のエール中心だったビールの世界も1800年代に入り産業革命などによる工業や化学技術の発展に伴い大きな転換点を迎えました。ドイツでにわかに脚光を浴びていた低温発酵が可能なラガー酵母を用いた醸造法は腐敗のリスクが減少する冬季の仕込みを可能にし、また冷蔵機の発明なども経てビールつくりは工業化を加速させます。
そんな中、チェコのピルゼン地方のつくり手達が団結しドイツから技術者を招く形でラガービールの開発に取り組んだところ産まれたのが黄金に輝くピルスナーという訳です。ドイツの南部と比べても圧倒的な軟水や、ラガーつくりに向いた麦やホップの栽培が可能だったこと、また雪室のようなものを活かして低温+長期熟成による高品質なビールを量産することで、文字通り世界を席巻するビールとなっていったのです。
当然、その影では幾多もの地ビールが黄金の液体にシェアを奪われこの世界から姿を消していった、という悲しい事実もありますが、それほどまでにピルスナーというビールが人々を魅了したということは、確かなことです。
そんなチェコスタイルのピルスナーに敬意を表して、チェコ産の伝統的手法でつくられた麦芽、そして同じくチェコ産のSaazホップを主体として仕込みを行いました。
このスタイルの大きな特徴としてデコクションマッシングという製法があります。これはもろみの一部を煮沸しながら糖化をすすめていくのですが、機材の発達や麦芽の改良に伴いもはや古の手法とも言われています。ただ、チェコを代表するブルワリーは今でも頑なにこの製法をとっていることから、このビールもパシフィックの仕込み設備を活かし、トリプルデコクションマッシングを行っています。
仕上がりですが、ふんだんに使ったチェコ産ホップの華やかな香りと、麦芽由来のクリスピーさが鼻を抜け、しっかりとした苦味がありながらもデコクション製法による伸びやかなモルトのボディも感じられる、実にバランシングで満足感のある味わいです。
そして、ほんの少しだけ使用したアメリカンホップがもつ甘やかな香りが、一層これらの味わいを引き立てている印象です。現地のビアパブよろしく、大きなジョッキで飲むととっても気持ちが良いのではないかと思います。
ビール史を語る上で欠かせないピルスナーというビール、その本質に迫る力強い一杯を是非味わってみてください。
おまけ
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2023年にチェコに行った時に、プラハの酒場で飲んだピルスナーウルケル。これが本当に美味しくて、ぐっとチェコスタイルのビールに興味を持ちました。それまでは正直、そんなにピンとはきていなかったのですが、やはりオリジナルを現地で味わうという行為には魔力のようなものすらあるのでしょう。
このスタイルのビールの味わいを決定付ける製法にデコクションマッシングというのがあります。パシフィックのラガーつくりにも欠かせない製法で度々その名も登場することからなんとなく聞いたことがある、という人も多いかもしれません。
この製法はもろみの一部を煮沸することで、全体の温度を上げていくことを肝としています。これはまだ温度計がない時代に生み出されたテクニックとも言えるでしょう。温度計が無い環境で人間が判断できる温度は3つあると思っていて、それが0℃(凍る)、40℃(人肌)、100℃(沸騰)です。困ったことにビールつくりで1番大切な糖化を促進する温度というのは65℃前後で、温度計も無しにピッタリこの温度に合わせるのは至難の技だと思います。そもそも、この時代には65℃で糖化酵素が活性化する、なんてことは誰も知らないわけですが、なんとなくあの時うまくいったなあと感じる温度帯や製法などは存在していたのかと想像しています。
デコクションマッシングは実に巧妙なテクニックで、効率的な仕込みと高い再現性を誇ります。やり方はいくつかあるのですが、基本となるのは水を用いてマッシュイン→35-40℃まで昇温(人肌)→ここから1/3ずつ取り出して煮沸⇄もろみに再合流というのを3回繰り返します。これを経て50-55℃、62-66℃、73-75℃と現代のビールつくりにも通ずる温度帯の調整をすることができるのです。化学ベースではなく、経験則を基にした先人達のテクニックにはただただ感服。また、この製法は糖化温度のコントロールだけではなく、麦芽内のでんぷん質の溶けの促進も行うことで糖分の収量も上がるという訳です。
良いこと尽くめにも感じるこの製法ですが、今ではほとんど採用している人はいません。なぜかと言うと時間がかかってめんどくさいし、そもそもそんなことをする必要が無いからなのです。
糖化温度帯の再現性は温度計の登場で急激に高まりましたし、製麦技術の向上によりでんぷん質の溶けの促進も不要に。いやいや煮込むことで味わいが...と言いたいところですがメラノイジンやカラメルモルトで十分でしょ、というのが現代人の見解です。
確かに、数字や理論上はそうとも言えるのですが、やっぱり僕なんかは一見無駄とも言えそうな古典的な製法にしか出せない味わいがあると思うのです。
人が美味しいと感じるものというのは、意外と無駄なことや雑味のようなノイズがあった方がよいとも言えるでしょうか。例えば、ピザ。電気式のオーブンで完璧な温度管理をしたものと、レンガでてきた釜で薪を使って焼き上げるもの、どちらが美味しそうだと思いますか?前者は理論上完璧、後者は焦げや煙の香りなどマイナス要素もあるかもしれませんが、きっと味は格別です。
ビールだってきっと同じ。化学は結果しか証明してくれませんからね。
人の心を動かすのは、また人の心なのだと、僕はそう信じているのです。