ビデオゲームとコンセプトとコミュニティとバズ。

筆者が最近考えていたことをノンジャンルでまとめました。
※一部宣伝あり。

かつてインディーゲームはゲームジャンルの王道や古典として扱われてきたモノをストイックに作りきる路線が目立っていましたが、直近はゲームっぽくない題材をネタに取り入れてヒットする事例や、独特のコミュニティを形成して話題性を維持する事例が目立つようになりました。一番の要因は出自がゲーム系ではないスキルを持つ人がインディーゲームに参入したことによる開発者の多様化と、コアでない人もインディーゲームに触れられるようになった環境の変化でしょう。

そういった多様なインディーゲームが普及する一方で、インディーゲームが成功するためのノウハウや創作論なども定期的に求められます。この記事ではそういったものを軽くふりかえりつつ忘れてみようと思います。

筆者紹介:本名は渋谷宣亮(Shibuya Nobuaki)、ハンドルネームはぱソんこ(@Passonco)。ゲームライター兼ゲーム開発者。VRを専門とするが、ビデオゲームは全体的に好き。メタバースの専門家ではない。記事の主な寄稿先はIGN JAPAN、AUTOMATON、電ファミほか。

コンセプト至上主義

バンダイナムコスタジオで初代アケマスや戦場の絆といったアーケードゲーム、VRアミューズメント施設「VRZONE」を手掛けたコヤ所長とタミヤ室長がClubhouseで布教活動を行っていたのが「コンセプト至上主義」でした。直近ではゲーム開発者向けメディア「ゲームメーカーズ」が主催したイベントでも目玉講演として取り扱われています。

コンセプト至上主義とは、「このゲームを買うことでお客さんにはこういったメリットがある」といった指針を決めて開発を行うことです。詳細は記事を読んでいただくとして、コヤ所長は「”コンセプト”=お客さんの隠れたニーズを満たすために、画期的なアイディアを用いる」としています。つまり、アイディアというのはお客さんの(隠された、珍しい)ニーズを満たすための手段であり、アイディアそのものは主軸ではないという話です。ここでいうアイディアというのは、だいたいはゲームデザインに置き換えることができます。つまり、ゲームデザインにオリジナリティがあるということは、お客さんのニーズを満たすこととは直接的には関係がありません。

筆者は自分がゲーム会社で働き始めた直後のタイミングにコヤ所長とタミヤ室長のお二人がポッドキャストを始めたこともあって、二人の配信に熱心に耳を傾けてこの主義に傾倒していた時期があります。筆者はわりとゲームデザインにこだわる性質の人間であり、それが裏返って”どうやって他人のウケを取るのか”を必死で考えるようになりました。そういった「ゲームデザインに甘えない」姿勢が「プロっぽい」と思っていたことはあるでしょう。

まあ、ゲーム開発現場では昔から「ゲーム雑誌に載ったときにどんな見出しがつくか想像しながらゲームを作れ」といった指南が言われていましたし、ゲーム開発者が会社の役員に対してどのような資料(文字なり動画なりデモなり)を見せてゲーム開発を説得させるかという問いもあります。コンセプト至上主義が周知されていない時代から商業のゲーム開発者は昔から似たようなことを考えて実行してきたはずです。

悩ましいのは、自由にのびのび作ることを目的としていたはずのインディーゲーム開発者でさえ、お客さんのことを考えて自分の作りたいものを自由に作れなくなってしまうケースが少なくないことです(実際、コヤ所長は”自分のためにゲームを作るのがアマチュア、客のためにゲームを作るのがプロ”としています)。そして、ゲーム開発というのは趣味としてはあまりに重すぎるので、その結果として対価をつけてしまいます。というか現代において対価を設けずにゲームを公開する方が珍しいぐらいです(私がフリゲ文化のことをまったく見えていないだけかもしれません)。

また、コンセプト至上主義は「ゲーム開発のディレクションをスムーズに進める」ために存在します。この点は忘れられがちですが、筆者としてはこちらの理由の方がコンセプト至上主義が生まれた必然性のように見えます。ゲーム開発現場のディレクターが迷わないように自身と開発現場に課す戒めのようなもので、「お客さんのニーズを満たす」という指針を制約とすることで開発現場の混迷や手戻りを事前に防ごうとする試みです。

ただ、ゲーム開発というのは生モノであり、世界には「コンセプト通りに作っていたら生まれなかったであろう名作」がいくつもあります。例えば、「プレイヤーは警察官になってパトカーで強盗犯の車両を追いかける」というコンセプトで開発していたゲームが開発中に行き詰まり、思い切って「プレイヤーは強盗犯になって車両でパトカーから逃げる」というテーマにしたことで世界でもっともヒットしたシリーズとなった『Grand Theft Auto』というゲームがあります。

https://www.youtube.com/watch?v=kMDe7_YwVKI

筆者としては、「当初は予定していなかったのに偶然生まれた、めっちゃ面白い要素があるゲーム」の方が、爆発力や熱気のようなものを帯びている気がしてなりません。もちろん、筆者がそういった”ストーリー”を求めているだけ、つまり筆者のゲームに対する信仰や祈りの問題でもあります(まれに桜井政博氏のようにゲームの企画書を書いた時点で頭の中に製品版と同じ完成系があり、それがめちゃくちゃ面白いというディレクターもいることにはいるそうです)。筆者は言語化しづらい面白さをゲームデザインで築き上げたゲームが売れると、自分ごとのようにうれしいのです。TGA2024はBalatroが優勝してほしいです。

コミュニティ形成とDiscord

筆者はコミュニティに参加するのはよいけどコミュニティを運営する側になるのは面倒なのでやらないテイカー気質の人間なのですが、ここ数年はとにもかくにもDiscordがホットです。Discordでコミュニティを形成して、その熱量を味方にせよという話です。ちょうど「プレイヤーの声が個人開発者に直に届くと開発者に害をもたらすノイズになることがあるので、開発者が管理する公式Discordにコミュニティを形成して、そこでコミュニティ同士でユーザーの問題を解決させられる」という例が話題となっていました。

筆者はDiscordのヘビーユーザーで、Discordで友人や仲間と毎日しゃべっています。ただ、個人的には同好の士や知り合いの集まりがDiscordに集まるのはともかく、プラットフォームを通して開かれた存在であるビデオゲームのコミュニティや議論の場がDiscordという閉鎖空間にどんどん集約されてしまうのはいささか不満を覚えます。なぜなら、Discordの中にあるものは外部から見えなくなって秘匿されてしまうからです。少なくとも商業の場で提供されているビデオゲームの議論や質疑応答は開かれた場所で行うべきではないかと思わなくはないのですが、Steamの掲示板がそれを担う面がある一方でSteam以外のユーザーはSteamの掲示板に参画することができません。どうにか特定のプラットフォームやツールに依存せず特定のゲームについてのみ議論や雑談ができるサービスって現れないもんですかね?一方でコミュニティは秘匿されているからこそ内輪っぽさと団結力が生じて面白いこともあります。悩ましいと思うのは筆者だけでしょうか。

バズとの距離感

これは宣伝ですが、筆者は2024年10月末にリリースされた『Crowbar Climber』というVRゲームを開発しました。パブリッシャーが発行したプレスリリースを通して日本のメディアでも数百リツイート規模のバズは起きましたが、それ以上にRedditとTikTokで話題となりました。TikTokはあくまでパブリッシャーによるものですが、Redditにスレを立てたのは筆者の判断です。Redditで3つの板にスレを立てたところ、合計で29万ビュー、3800の高評価、270コメントです。Redditを見たことがなくても、なんか大きい数字なのは雰囲気でわかるかと思います。なにぶん筆者が一番ビックリしました。

バズったときというのは、メダルゲームをしていたらジャックポットに突入したような感覚です。波に乗っているときはありがたいけど、そのボーナス期間はあっという間に終わってしまいますし、ジャックポットの再来を祈っても連続して起こることはまずありません。狙って起こすことはほんとうに難しいけど、いざ起きたら積極的に活用してバズの火を絶やさないように燃料をくべ続ける必要があります。バズの後は、ただひたすらに仕事をするしかありません。

大事なのは、自分の作っているゲームが本来届けるべき人々に届くかどうかです。筆者はVRゲームという特性から本作を北米ゲーマーや北米のティーン層に刺す必要があり、それらのユーザーに特化したRedditやTikTokで伸びたわけですが、このゲームの宣伝をX(旧Twitter)だけで終わらせていたら大したバズは起きなかったはずです。幸いにも、RedditとTikTokのバズが転じて本作をある程度の軌道に乗せることができました。プロモーション動画を撮影、編集してくださったパブリッシャーのすべての方々に感謝を申し上げます。

https://www.reddit.com/r/virtualreality/comments/1gg9njp/my_first_vr_game_crowbar_climber_has_been_released/

日本のゲーム開発者は日本のインターネット、特にTwitterでいかに話題になるかばかり考えがちですが、そもそも自分の作っているゲームを求めているユーザーはどこにいるのか、それならばどこで宣伝をするのが適切なのか、対象と場所のことは考えたほうがよいかもしれません。世界は思ったよりも広いです。

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ぱソんこ
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