「静寂~娘との10年ぶりの再会~」ラジオドラマの脚本①
〔登場人物〕 辻井邦彦(小説家・40歳)
佐藤真理 (実娘・12歳)
ソムリエ (35歳)
M:モノローグ SE:効果音
SE:ジャズ・スタンダードの名曲が流れているフランス料理店
真理 お母さんと何故別れたの?
邦彦(M) 10年ぶりに、別れた妻から電話があった。娘が会いたい
という。何から話せばいいのだろう。偽りのない言葉で、
ありのままを話そう。自分自身に言い聞かせるようにし
て、娘と会うことにした。
ソムリエ ご希望の食前酒は?
邦彦 この〈シランス〉という名のシャンパンをお願いします。
〈シランス〉とはどういう意味なんですか?
ソムリエ フランス語で〈静寂〉という意味でございます。
邦彦(M) 会話のない、今の雰囲気にはぴったりかもしれないな。
SE: シャンパングラスで弾ける泡の音
邦彦 真理。グラスにシャンパンを注ぐと、泡が弾ける音がする
だろう。昔の人は〈天使の拍手〉と呼んだんだ。
真理 えっ、どんな音。聞かせて。
邦彦(M) グラス越しに真理のうなじが見えた。そっと、私も耳を近
づけた。〈静寂〉が優しく二人を包み込んだ。