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「臭い仲」~西城秀樹と出会った意外な場所~【エッセイ】

 20代前半の頃に、私は日本テレビでアルバイトをしていた。正確には、局内にあった俳優座劇場の舞台美術部に雇われ、小道具全般の作業に従事していた。1978年から1979年までの短い期間だった。

 仕事場は地下にあった。華やかなイメージのあるテレビ業界だが、当時活躍していた歌手やタレントに会う機会もなく、地道な作業の繰り返しで毎日が過ぎていった。そんなある日、テレビスタッフからお呼びがかかった。

 スタジオで使っている小道具に不備が見つかり、手直しを依頼されたのだ。青い水性塗料を入れたバケツを持ってスタジオに入った。

 現場では特殊撮影(ブルーバック合成)の準備をしていた。人物の背景を別の画像と合成するために、ブルースクリーンがセットされ、近くにあった約80cm正立方体(キューブ)も青い塗料で塗られ、その上に二人の女性が腰掛けていた。

「ブルーバック合成」
映像の合成技法の一つ。青または緑の背景を使い、抜き取りたい被写体を背景から分離し、別に撮影した背景にはめ込むこと。

引用:デジタル大辞泉 (コトバンク) から

 一瞬思考が止まった。視線の先には、ホットパンツ姿のピンク・レディーがいたのだ。局員から塗料が剝がれた部分を直してほしいと言われ、私はキューブに向かって歩き出した。二人に軽く会釈をしてから作業に取り掛かったのだが、緊張のためか口が渇き、⾆なめずりする自分がいた。

 キューブの下部に引っ掻き傷があった。絵筆に青い塗料を含ませ、直そうとした時に、私の右上方向に大腿部が間近に見えた。脚線美が眩しかった。

 未唯かケイだったかは憶えていないが、ため息が出そうになった。20代前半の私にとっては目に毒だったのだ。5分の手直しが倍以上に感じられた。作業が終わり、仕事場に戻る途中でも大腿部の残像が目に浮かんだ。

 数少ない出会いの中で最も印象に残った、ある人物との遭遇を紹介したい。仕事場がある地下にトイレがあったのだが、歌手やタレントに出会う機会は滅多にない場所だった。

 ある日、いつものように用を足していた時に奇跡が起こった。右隣に長髪の人物が後から並んだのだが、横顔を見て固まってしまった。西城秀樹だったのだ。気まずい空気が流れ、私は軽く咳払いをした。

 驚いた。間髪を入れずに彼も咳払いをしたのだ。会話はなかったのだが、二人で交わした「咳」の意味を今も時々考えてしまう。

 あの頃は「失われた30年」と言われる今現在から眺めれば、時代も人も輝いていた。ピンク・レディーの脚線美のように。