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被災地支援のメンバーシップでなにを目指していくのか⑥
parubooksの佐古田です。今週末の天気予報に雪マークがつき、いよいよ本格的な冬の到来です。今も外は雨風が吹き荒れています。富山にやってきてもう13年目、この時季の荒天には慣れたようで未だに慣れません。次に太陽が顔を覗かせてくれるのはいったいいつになるのでしょうか・・・。
さて、長々お話ししてきた2010年のアニメ『true tears』公式ファンイベントについてですが、そろそろ締めていこうと思います。ファンイベントを主催することになった「真実の涙をもう一度」有志会は、ほとんどのメンバーが富山県外の人たちでした。PAさんに企画の説明を終え、いろいろと宿題をいただいて企画をブラッシュアップ、そのやりとりを重ねている間に、気がつけば城端むぎや祭が行われる9月中旬を迎えていました。開催タイミングは2010年12月と決めていたので、このタイミングでいろいろと決まっていないと、開催のお知らせもできませんし、参加していただけるファンの皆様を集めることも難しくなります。そこで主要メンバーが祭に合わせて全国から城端に集まり、協力いただける観光協会さんや市のみなさんにも集まっていただき、「みんなが集まったこの場で決めましょう!」会議を開くことになりました。
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アニメの関連イベントは、都市部で開催されることがほとんど。それは交通の便が良く集客が見込めること、イベントに適した会場や関連業務を依頼できる先がたくさんあること、出演者が集まりやすいことなど、イベント成功のための条件が揃っています。よく「イベントはいつも首都圏やその周辺ばかりで開かれる、自分の住むところでもやってほしい」という声をSNSなどで見かけますが、主催者の側に立って考えると、低いリスクで実現できる都市部以外でイベントを開催するには、何か明確な理由が必要になってきます。『true tears』公式ファンイベントの会場は南砺市城端。作品ゆかりの地で、みんなの力で実現したBlu-rayを鑑賞しましょう、という明確な理由はありましたが、それでも実現に向けたハードルは決して低くはありませんでした。そこでPAさんにも助言いただき、地元で物的・人的ネットワークを持っておられる組織のお力を借りることにしました。
例えば参加者の足の問題。城端へは高岡からJR城端線を使えば行けるのですが、当時は北陸新幹線もまだなく、東京からは上越新幹線と特急「はくたか」を乗り継いで高岡へ向かう時代でした。加えて、ファンイベントの目玉として「Blu-rayに収録されたアニメ全13話を上映」を掲げていたので、それを考えると朝10時くらいからイベントを始める必要がありました。当日の朝に首都圏や関西圏を出発しても開始には間に合わない、どうしようかメンバーで頭を抱えていると、観光協会の担当の方が「それなら東京と大阪からバスを走らせれば?バス会社紹介してあげるよ」と助け船を出してくださいました。あれよあれよという間にバス会社とも話がまとまり、入場チケットが付いた貸切バスプランが誕生したのでした。
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また、イベントを開催する12月はすでに冬で、城端ではかなり冷え込む時季です。城端に住んで長い今なら、12月にイベントを設定すること自体なかなか決断できませんが、現地のことをよく知らないメンバーは、そこまで考慮できていませんでした。朝10時過ぎから始まるイベントで、東京や大阪からのバスの到着時刻は朝8時頃。会場になっているじょうはな座はイベント準備の真っ最中で、バスで来たファンのみなさんが寒さを耐え忍ぶために立ち入ることは難しい状況でした。そこで市の方が「じょうはな座の向かいにある庁舎の3階に大きなホールがある、そこを使えばいい」と言ってくださいました。実際、イベント開催前日は霰が降る荒天で、当日は極寒の天候となったため、大勢の参加者が凍えずに済みました。
そして前回ご紹介した、「麦端踊り」を再現された西上町の若手有志のみなさんにも、上映会の間に舞台で踊っていただくことができました。私が『true tears』のイベントを城端で開催したい、と思うきっかけをくださった皆様、イベント開催前1ヶ月を切った時点でのお願いにも関わらず、快く協力してくださいました。イベント前日には、事前に募集したファンのみなさんに善徳寺横の公民館に集まってもらい、「麦端踊り」の講習会を開催。祭装束に身を包んだ西上町のみなさんとファンのみなさんが一緒に舞台へと上がった瞬間は、鳥肌が立ちました。
イベントはいろいろなトラブルも起こったものの、快くご出演いただいた作品関係者の皆様の熱いトークもあり、2009年の公式イベントに続く盛り上がりを見せ、成功裏に終わりました。何より嬉しかったのが、じょうはな座の2階席に設けていた「南砺市民優先席」に、アニメファンではない市民の方も大勢足を運んでくださったことでした。「城端がモデルになった作品と聞いて観てみようと思った」「初めて観たけれどとてもよかった」などの声を聞くと、自分たちが大好きな作品が、地元の人たちにも受け入れられたんだ、それを自分たちのイベントが後押しできたんだ、という感慨に浸ったのでした。
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私が常日頃扱っている「アニメーション」というメディア作品は、強固な意志を持ったコアなファンが、作品への愛情を表現するためにグッズを買ったり、イベントに参加したり、Blu-rayを購入するなどして支えてきました(方法は他にもあるのであくまで一例です)。その過程で自分の好きな作品を応援している人が他にもいることを知り、ファン同士親交を深めることで、アニメ作品を軸にしたコミュニティを形成してきました。そこは強固な結びつきを持つが故に、その外にあるコミュニティと交わることはあまりなかったと言っていいと思います。それは地方に今でも残る住民同士のつながりにより形成されたコミュニティの姿と、形は違えど通底するものを感じます。2010年12月に開催された南砺市城端での『true tears』ファンイベントは、わずか一日ではありましたが、そのコミュニティを構成する人たち同士が協力し、お互いのことを尊重しながら実現した時間でもありました。そしてイベントから1年4ヶ月後、私は京都での仕事を辞め、単身城端へ移り住んだのでした。イベントでご一緒した地元のみなさんは、今でもお目にかかる方もおられれば、別の地域へ移られた方もおられます。時の移ろいを感じつつも、私が今でも城端の地でアニメに関わる仕事を続けられているのは、多くのみなさんの支えでイベントを開催できたからだと断言できます。そしてこのことを今後も折に触れ、いろいろなところで語っていくことが、自分に課せられた使命だと思っています。
長々と話してきましたが、気がつけばメンバーシップ開始まで一ヶ月を切ってきました。既にこのnoteをフォローしてくださった皆様、本当にありがとうございます。開始まで金曜日は残り3回、そこでの更新でメンバーシップの目指す方向性を少しでも解き明かしていければと思います。