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パートナーの依存症に気づいたら ― 脳科学から見る依存のメカニズムと家族の対処法
はじめに
前回(第1回)では、「やめたいのにやめられない」という依存症が、いかに夫婦や家族の生活を破壊し得るのか、その深刻な影響をお話ししました。
僕がカウンセリングで関わってきた中でも、配偶者がオンラインゲームやギャンブル、アルコールにのめり込みすぎてしまい、気づいたら家計が火の車だったり、子どものケアがおろそかになっていたり……といった事例を何度も見聞きしています。
では、いったいなぜそこまでハマってしまうのか?
「家族や夫婦でちゃんと話し合っても、聞く耳を持たないのは意志が弱いから?」なんて思うかもしれません。でも実際には、脳のメカニズムや心理的要因、さらには周囲の環境など、複数の要因が複雑に絡み合って発症するというのが依存症の特性なんです。もし「自分には関係ない」と思っている方も、この第2回の記事を読めば「気づかぬうちに依存への道を歩んでいるかもしれない……」とハッとするかもしれません。
そこで、今回は前半で「依存症の主な要因」を整理し、後半で「依存症になる前にできるドーパミン依存回避策」を具体的にお話しします。ちょっと意外な方法で防止できるものもあるので、ぜひ最後まで読んでみてください。
1.依存症の主な要因:心理・環境・生物学
「どうしてそんなにのめり込むの?」と、夫婦や家族からすると理解に苦しむ行動パターン。でも、当の依存症当事者は、「いや、別にそこまで深刻じゃないんだよ」「今がちょっとしんどいだけ」と思いがちなんですよね。実はこうした自己認識のズレは、複数の要因が相互に作用しているからだと考えられています。
(1) 心理的要因
ストレスやトラウマ、孤独が引き金
大きなストレス源やトラウマがあると、人はそれを忘れるためにお酒やゲーム、買い物など、手軽な快感刺激に手を伸ばしがちなんです。最初は「息抜き」程度だったものが、徐々に快楽回路を強化して深みにハマっていく。僕のカウンセリングでも、かなり真面目な人が仕事の責任に耐えかねて、帰宅後にお酒を飲み続けていたらアルコール依存状態になってしまった……なんて例が珍しくありません。
アダルトチルドレンや自己肯定感の低さ
子どもの頃に複雑な家庭環境で育った方、いわゆる機能不全家庭で育ったアダルトチルドレンの方は、心の中に満たされない空白を抱えがちです。その寂しさや不安を埋めるために、何かにのめり込む傾向が強いと言われています。例えば、過度な恋愛依存やショッピング依存、あるいはギャンブル依存など、「自分を肯定したい」という欲求を満たす手段として依存行動に走ってしまうんですね。
完璧主義・頑張りすぎの反動
「仕事も家事も全部しっかりやらなくちゃ……」と自分を追い込んでいる人ほど、ちょっとした失敗やストレスで一気に苦しくなりやすい。すると、唯一の息抜きとしてアルコールやゲームに逃げる。でも日を追うごとに深みにはまり、夫婦仲がギクシャクしてしまう。それでも「これくらいの楽しみは許されるはず」「私は頑張ってるんだから」と思い込むのが依存症の特徴のひとつです。
(2) 環境的要因
身近すぎる“誘惑”
日本は世界有数のギャンブル大国とさえ言われるほどパチンコ店が多く、スマホさえあればオンラインゲームやSNSに24時間アクセス可能。僕たち夫婦カウンセラーの視点から見ても、これだけ手軽に依存対象が手に入る国は、ある意味とても危険だと感じています。
社会・文化の影響
「お酒はコミュニケーションの潤滑油」みたいな企業文化を持つ会社もまだ多いですよね。断れずに飲み会へ行くうち、飲む量が増えてアルコール依存に進んでしまう人も。家庭では妻や夫が「ほどほどにしなよ」と言っても、「これが会社の付き合いだから」と拒否するから悪循環に入りやすいんです。
(3) 生物学的要因
遺伝や体質も無視できない
お酒を分解しやすい体質の人は、自然と飲む量が増えがちですよね。そうするとアルコール依存リスクが高まるとも言われます。ギャンブル依存のご家族が複数人いる例も、「脳が快楽に敏感な体質」が関係している可能性があると専門家は指摘しています。
2.「まず認知を変える」――気づかないうちに進む依存状態
先ほど挙げた要因を「知ること」自体が大事なんですが、当事者本人は「え?自分には当てはまらない」と思い込みがち。そこで、家族が一歩先に情報収集して、何らかのアクションを起こすケースが多いんです。
(1) トリガーを洗い出す
何がきっかけで行動しているか、**“引き金”**をリストアップすると、本人も「自分はこういうパターンでやってるんだな」と気づきやすくなります。たとえば「給料日になるとパチンコに行きたくなる」「上司に叱られた日の夜はヤケ飲みしている」「家族とケンカした後はゲームに没頭」など、具体的な場面を洗い出してみるんです。
(2) 代替行動を準備する
「仕事で叱られた直後にお酒」というパターンなら、「帰宅途中で15分だけ散歩する」「気心知れた友人にメッセージしてストレスを吐き出す」などの別プランを先に決めておく。これを**“置き換え行動”**と呼んでいて、依存症の治療ではとてもよく使われるテクニックなんです。
(3) イネイブリングを断ち切る
家族が尻拭いをしていると、本人は**“この程度なら大した問題にならない”**と思い込む。結果、気づかないうちに依存度が高まってしまうんですね。でも家族としても「放置して会社クビにでもなったら困る」とカバーしたくなる……。このジレンマをどう乗り越えるかは、次の記事(第3回)で詳しくお話ししようと思います。
3.依存症になる前に:ドーパミン依存を避ける生き方
ここからが今回のメインテーマの一つ。「依存症の手前で止められたら一番いい」というのが僕の考えです。仮に家庭内でちょっと怪しいなと思う行動があったとしても、事前に手を打てば夫婦関係や家族の絆を壊す深刻な状態を防ぎやすいんですよね。
3-1. セロトニン型&オキシトシン型の幸せをベースに
ドーパミンは一時的な興奮・快感をもたらす一方で、依存リスクが高いホルモンと言われます。ギャンブルで大勝ちしたとき、SNSで“いいね”が大量に押されたとき……その興奮は強烈ですが、すぐに冷めるので、もっと刺激を求めてしまうんです。
一方、セロトニンやオキシトシンは穏やかに心身を満たす幸福感で、依存性が低いとされます。たとえば、
セロトニン型の幸せ: 運動(ウォーキングや軽いジョギング)、朝日を浴びる、自然に触れる、呼吸法を意識するなど。
オキシトシン型の幸せ: 家族やペットとのスキンシップ、友人にやさしい言葉をかけ合う、みんなで食卓を囲んでほっとする時間を過ごす……など。
こうした習慣を増やすだけで、強い刺激を求めなくても**「毎日がなんだか幸せかも」**という感覚を作り出せます。依存症になりにくい生き方の土台になるわけです。
3-2. 良い依存=健康的な依存
僕は「人は何かに依存しないと生きられない生き物だ」と思っています。大事なのは、ひとつに極端にのめりこむのではなく、複数の依存先をバランスよく持つことなんですよね。
たとえば、仕事一本で生きてきた人ほど、退職するとすることがなくなってアルコールにハマる……なども起こりがち。
対策として、趣味や地域交流、習い事など、いくつか「ここに行けば自分を受け入れてくれる場」を確保しておく。そうすれば一つダメになっても別の場所が支えになるから、深刻な依存症に行きにくい。
3-3. 隠れてやらない・量や時間を決める
もしお酒やゲーム、SNSを嗜むなら、まずは**「堂々とやる」**こと。家族に隠れると「バレないスリル」がドーパミンを加速させ、依存度を高める要因になりがちなんです。
時間と量の制限: お酒なら「夜の晩酌は350ml缶2本まで」「週末だけ」など具体的に決め、守れないなら赤信号。
“ほろ酔い”を目指さない: 舌で味わいながら飲み物として楽しむ。アルコールそのものが目的になると、どんどん量が増えていく。
ゲームやSNSは時間をきっちり区切る: 1時間と決めてタイマーをかける。途中で「もっとやりたい!」と思うなら「危ないかも」と自覚する。
こうしたルールを家族と共有し、守れなくなった段階で「おかしいぞ」と認識するだけで、重度の依存症になる前に食い止められる場合が多いです。
4.まとめと次回予告
ここまで、(1)依存症の主な要因と、(2)依存症になる前のドーパミン依存回避策をお話ししてきました。改めて要点を整理すると、
依存症は心理・環境・生物学が絡み合う
ストレスや孤独感、身近に誘惑がある状況、遺伝的体質などが重なり、一気にのめり込む。
夫婦や家族から見ると「なんでやめられないの?」と思っても、実際は脳の仕組みが変化している。
認知を変えてトリガーを把握する
衝動が来る場面を見極め、代替行動で衝動をそらす。
イネイブリング(尻拭い)をやりすぎると、当人は本気で困らない。
ドーパミン依存を避ける生活
セロトニン&オキシトシン型の幸せをベースに、リラックスできる習慣や複数の依存先を用意する。
家族に隠れてやるのではなく、時間や量を決めて堂々と楽しむことが鍵。
ただ、実際に“やめられない”状態になってしまったら、こうした予防策だけでは足りません。専門的な治療や家族の適切なサポートが必要になりますし、尻拭い(イネイブリング)の問題もさらに複雑化します。そこで次回(第3回)は、いよいよ「家族がどう関わればいいか」「イネイブリングとは何か」「依存症からの回復プロセス」を深掘りします。
前回(第1回)にお話ししたように、依存症は放っておくと夫婦仲や家族の信頼関係をボロボロにし、経済的破綻や子どもへの悪影響まで引き起こしかねないもの。でも正しいアプローチを知っていれば、そこから抜け出すことは可能なんです。次回をお楽しみに。
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