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光害関連ニュースまとめ 2024年10月

2024年10月の光害関連ニュースです。今月は日経新聞や朝日新聞で光害に関連する特集記事が多く掲載されたのが目を引きました。まだ多くの人には知られていないけれど重要な問題、と認識されているということでしょう。何事もまずは知ることから。光害は大気汚染や水質汚染に比べると対応がしやすい部類の公害ですから、認知度を上げていくことによって社会全体で光害対策に取り組む勢いを増していきたいところです。


地上の光害に関するニュース

UFO出現の前触れか!?赤いオーロラか!?白河市の夜空が赤く染まるナゾの現象 驚きの真相はトマト農園

2024年10月4日に福島テレビウェブサイトに掲載された記事。福島県白河市の夜空が赤く染まっていますが、その元がトマト農園とのこと。光合成を促進するために赤いLEDの光を当てているのだそうです。「秋から冬にかけて日照時間が短くなるため、農園では夜11時頃から翌朝の日の出頃までLEDライトを点灯させている。」とのことで、かなり長い期間にわたって一晩じゅう空が照らされることになるのでしょうか。

このLEDを納入した企業のプレスリリースは以下にありました。

照明装置の画像では真上には光は出ない構造に見えますが、葉にしっかり光を当てるために照明の設置高度を下げ、少し上方向にも意図的に光を出すようですね。これが空まで届いているのでしょう。空に逃げる光は無駄になっているわけですから、夜はハウスの屋根を布で覆うような構造になっていればよいのですが、そうはなっていないようです。これは残念。

福島テレビの記事は、以下の文章で締められています。

この現象は、最新の農業技術が思わぬ形で夜空の景観に影響を与えた興味深い事例といえる。福島県白河市の夜空を彩るこの赤い光は、近代農業と自然が織りなす新たな風景として、人々の記憶に残るだろう。

福島テレビ

赤い光が環境に悪影響を及ぼさなければよいのですが、その評価もなく「新たな風景」としてポジティブにとらえるのは危険だと思います。余分な光が害になることもあるという意識を、メディアも含めて持っていただきたいと思います。

星空保護区の魅力 全国へ 大野など3自治体 協議会設立 世界最大級の  旅の祭典でPR

2024年10月11日に中日新聞に掲載された記事。星空保護区を擁する福井県大野市、東京都神津島村、岡山県井原市が「星空保護区認定地連携協議会」を設立し、東京で開催されたツーリズムEXPOジャパンでアストロツーリズムをアピールしたとのこと。日本にはもうひとつ石垣市も星空保護区のはずですが、協議会には入っていないようですね。町の明るさがその町の繁栄の度合いを示す時代ではないので、星空保護区をきっかけに地元経済が上向くような流れを作って「暗くても栄えている町」ができてくることを願います。

星空保護区シンポジウム in やんばる

2024年9月28日に沖縄県国頭村で開催された星空保護区シンポジウムの様子が、ダークスカイ・ジャパンのYouTubeに掲載されていました。ダークスカイ・ジャパンの代表を務める越智信彰 東洋大准教授による講演のほか、星空の明るさ調査や観望会を実施している星空公団、環境省やんばる自然保護官事務所、JTB総合研究所、星空保護推進機構、国頭村商工観光課の方々が講演されています。国頭村は星空保護区への申請間近だそうで、地元でこうしたイベントが開かれて、暗い夜空の重要性とその価値を地元の皆さんと共有する機会となったことは、今後にとってもとても意義のあることでしょう。

日経「データで読む地域再生」に星空観光や光害の話題

2024年10月25日、日経新聞ウェブサイトの「データで読む地域再生」に、全国各地の星空や光害と地域経済の関係を取り上げる記事が一気に9件掲載されました。有料記事なので全部読めてはいませんが、星空ガイドツアーや移住増、ライトダウン、望遠鏡博物館など多彩な話題が取り上げられています。暗い夜空や美しい星空の価値の認知が広まりつつあるということでしょうか。ありがたいことですね。

人間が作った光のせいで“ウミガメ”が犠牲に…野生動物や星空に影響を及ぼす「光害」の実態

2024年10月29日にAbemaに掲載された動画。先ほどは日経新聞の大型記事でしたが、今回は朝日新聞GLOBEでの光害に関する記事をもとにした動画ニュースです。フロリダの海岸沿いで、産卵に来るウミガメを守るために光漏れを抑えた照明が取り入れられていることを入り口に、生態系に対する光害の影響が紹介されています。またパリでの事例として看板照明などを23:45までに消灯する条例があること、東京での光害調査の様子も紹介されています。さらに、天文学への影響として衛星コンステレーションによる光害の話題にも触れられています。

朝日新聞GLOBEの光害に関する記事は紙面には10月20日に掲載され、オンラインには順次公開されるようです。来月の光害関連ニュースまとめで改めてご紹介しますが、カバーページを以下にリンクしますので、チェックしておきたい方はぜひ。

天文学と衛星コンステレーションに関するニュース

中国の衛星コンステレーションもやはり明るい

2024年10月5日にspacenewsに掲載された記事。「中国版スターリンク」とも呼ばれるQianfan(千帆)の衛星の明るさを測定したという文献がプレプリントサーバarXivに掲載され、これを紹介するニュース記事です。日本語でもITmediaに掲載されています。

Qianfanは最終的に1万4000機を超える衛星からなる通信衛星コンステレーションで、今年8月に衛星打ち上げが始まりました。公開された想像図では、その形はスターリンクによく似ているようです。測定された明るさは4等級から8等級とのことで、肉眼でとても目立つ明るさというわけではありません。が、国際天文学連合のガイドラインである7等よりは明るい場合が多いようです。スターリンクは一部の機体にコーティングをして反射光を地球ではない方向に逃がす工夫がされていますが、Qianfanにはそうした処理をしたという証拠は無いようです。国際的な枠組みが無い現状では、反射光や衛星から漏れ出る電波の対応については企業と天文学側が一対一で向き合わなくてはなりません。スターリンクを運用するSpaceX社は天文学側とも比較的良いコミュニケーションが取れているようですが、他の企業が同じように対応してくれる保障はありません。国連の宇宙空間平和利用委員会でも話題には上っているようですが、規制の枠組みまでたどり着くのは簡単ではなさそうです。Qianfanの今後についても、要注目です。

スターリンク衛星とauスマホの直接通信に初成功–沖縄久米島での実証を現地取材

2024年10月24日にUzhuBizに掲載された記事。SpaceXはスターリンク衛星と携帯電話を直接つなぐ取り組みを進めていて米国でも通信試験を行っていて、今回はSpaceXと連携するKDDIが日本国内でも衛星との直接通信に成功したというニュースです。1時間に15機のスターリンク衛星が上空を通過し、1回の接続継続時間は数分程度とのこと。これだと会話は難しいのかもしれませんが、SpaceXもひとまずはテキストメッセージから始めることにしているようです。逆に言えば、携帯電話での衛星越しの通話を実現するにはもっと衛星の数が必要、ということでしょう。スターリンクの打ち上げ総数は7200機を超え、運用中の衛星も6500機超に上ります。最終的にはこの4倍以上となる約3万機を目指していますので、まだまだ衛星は打ち上がりますし、飛行試験を重ねている超巨大ロケットStarshipが実用化されればスターリンク衛星も大型化される見込みです。反射光はどうなるか、漏れる電波はどうなるか、天文学のための環境保護の観点からも目が離せません。

ASTスペースモバイル、通信衛星BlueBirdを5機打ち上げ、そして展開

2024年10月25日にbusiness wireに掲載された記事。衛星コンステレーションはスターリンクだけではありません。人工衛星とスマートフォンの直接通信を目指すASTスペースモバイルは、商用通信衛星BlueBirdを5機打ち上げ、アンテナの展開に成功しました。BlueBirdは1辺8mのアンテナを持ち、スターリンクより大型です。同サイズの試験機BlueWalker 3は1等星並みの明るさで見える、と話題になりました。その後運用で工夫をしているのか少し暗くなっているようですが、アンテナが大きいぶん反射光も強く、スターリンクよりは明るくなってしまいます。BlueBirdについては、以下のようにGIZMODEでも記事になっています(この記事の書き方は当初の明るさを念頭に置いているようですが)。今後どんなペースで打ち上げられて、どれほどの明るさになるのか。推移を見守る必要があります。

米国の電波静穏領域のほとんどの地域でスターリンクが利用可能に

2024年10月25日、米国立電波天文台(NRAO)からのニュースリリース。アメリカ東部のバージニア州とウェストバージニア州にまたがって、九州に匹敵する面積の電波静穏領域(National Radio Quiet Zone, NRQZ)が設定されています。ここには口径100mを誇るグリーンバンク望遠鏡や国家安全保障局の施設があり、広い範囲にわたって電波の発信が制限されています。しかしそこにやってきたのが、宇宙から電波を降らせるSpaceXのスターリンク。当初はNRQZはスターリンクのサービスエリア外でしたが、NRAOとSpaceXの3年に及ぶ協議の結果、NRQZの大半のエリアでスターリンクのサービスが使えるようになりました。人口カバー率で言えば、NRQZ内の99.5%の人がスターリンクにアクセスできるようになったとのこと。その背景には、これまでこのnoteでも何度か取り上げてきた"boresight avoidance"という新しい仕組みがあります。これは、NRAOの電波望遠鏡が向いている方角と観測している周波数をリアルタイムにSpaceXと共有し、望遠鏡の視野に近づくスターリンク衛星から直接電波望遠鏡に電波が入らないように制御するというものです。これでも漏れてくる電波はあるので、電波望遠鏡にとって理想的な観測条件が保たれるわけではありません。「さようならNRQZ」と扇動的に書きたくなりますが、とはいえこの地域にお住いの方々のネットワークにつながる権利を保障する必要がある、というのも理解できます。
ただ問題は、衛星コンステレーションはスターリンクだけではないこと。中国も1万機クラスの衛星コンステレーションを打ち上げ始めたことは先に紹介しました。これからどんどん出てくる衛星コンステレーションに対して、毎回こうした協定を結べる保証は無いのです。産業振興の妨げになるとして規制には反対の立場を示す国もあります。どこかで折り合いがつけられるのか、難しい交渉です。


今回も、ヘッダのイラストはDALL-E 3 (Microsoft Bing Image Creator)によるものです。


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