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光害関連ニュースまとめ 2024年11月

2024年11月の光害関連ニュースです。今回は朝日新聞GLOBE+の記事をまとめて紹介しています。これ以外にも、星空保護区の話題や衛星コンステレーションの話題がたくさんありました。衛星コンステレーションと天文学の影響についてイギリス議会で話題になっていたのには少し驚きました。


地上の光害に関するニュース

朝日新聞GLOBE+の光害特集

先月終わりから始まった朝日新聞GLOBE+の光害特集。新聞紙面には10月20日に掲載されましたが、オンライン記事は10月末から散発的に8本掲載されました。テーマは人工衛星美星町の街路灯交換篠原ともえさんインタビュー夜間光の動物への影響と農作物への影響人の健康への影響フランスの光害対策の法律そしてダークスカイ・ジャパン代表の越智信彰さん(東洋大学)へのインタビュー。これほど網羅的な記事は珍しくて、大変価値ある特集だと思います。無料で読めるのも重要。以下にリンクを置いておきますので、光害に関心のある皆さんはぜひお読みください。

星空保護区のひとつとなっている岡山県井原市美星町。光害対策が施されたパナソニック製の防犯灯・街路灯を導入した成果が紹介されています。町の皆さんにも受け入れられているのが何より重要ですね。

急増する人工衛星の反射光によって夜空にたくさんの「人工の星」が見えるようになったことを紹介する記事。アリゾナでの取材に加えて、私のコメントも掲載されています。

星空をテーマにしたラジオ番組も持っている篠原ともえさん。「光害」の存在に気づくことがまず大切で、それが次の一歩につながる、とお話されています。広いネットの片隅でこうしてnoteを書いているのも、まさに同じ想いからです。

ウミガメの産卵、孵化した子ガメの行動に人工の光が悪影響を与えるという事例をフロリダで取材した記事。照明の改修によってその影響が軽減できているという証言もあります。光害は、照明を質の高いものに取り換えればすぐにその影響を抑えることができる、というのも重要なポイントですね。

人工光の影響は動物だけではなく植物にも。記事内にあるイネの写真は光害の影響がはっきりわかって衝撃的です。街灯の光が当たる部分だけきれいに稲穂が出てないのです。イネへの影響を抑えるために高速で点滅する照明器具を開発した山口大学の研究室が取り上げられています。が、イネ以外の植物や動物への影響も気になります。

そして人間の健康への人工光の影響も。奈良県立医大の調査では寝室が明るいほど肥満の割合が増すという結果が出たそうです。光以外の生活環境もおおいに影響する複雑な話ですが、光が体内時計を制御するメラトニンに影響するのは確か。明かりを消すのはコストもかからないなら、安全サイドに倒して考えてみるのもよさそうです。

夜間の人工光に対するフランスの法規制の話。深夜1時以降の街頭広告や看板の消灯が定められており、パリでは23時45分には消灯することになっているとのこと。観光都市でもあるパリでこうした規制ができるのは関係者の努力の賜物ですね。

ダークスカイ・ジャパン代表の越智さんへのインタビュー。「必要なのは、光害に関する教育も含め、「明るいことは良いこと」といった意識の転換です。」はまったく同意です。生活に必要な明るさと光害のない夜は両立できるはずです。

大野の美しい星空を観光資源に モニターツアー初開催、内容充実へ 南六呂師エリア「星空保護区」認定から1年余り

2024年11月4日にFBC NEWS NNNに掲載された記事。星空保護区になって1年の福井県大野市南六呂師地区でのモニターツアーの様子です。単に光害を抑えるだけでなく、そこで価値を生み、その価値に共感する人の輪を広げていくことはとても大切。その一歩になるといいですね。

「闇」のススメ、暗い夜がなぜあなたにいい影響をもたらすのか

2024年11月13日にナショナルジオグラフィックに掲載された記事。体内時計と関連のあるメラトニンの分泌を人工光が抑えてしまうこと、メラトニンが減ると睡眠障害他いろいろな影響があること、メラトニンはDNAの修復機能を促進することなどが紹介されています。さらに、畏敬の念を持って宇宙を見上げることはメンタルヘルスの向上につながるという証拠も出てきているとのこと。いいことばかりで逆に注意が必要にも思いますが、明るすぎる光が人間に与える影響に関する研究も様々に行われているようです。

【法律相談】「隣家の庭から放たれる野外照明が眩しすぎる…」“光害”防止のための規制はないのか、弁護士が解説

2024年11月14日にマネーポストWEBに掲載された記事。暗い環境が保たれていた別荘地で明るい照明をつけた家ができてしまい住環境に悪影響が出ているという訴えに対して、弁護士の方が回答しています。環境省の光害対策ガイドラインや長野県の「良好な生活環境の保全に関する条例」などが挙げられていますがいずれも罰則がなく、法規制の観点からは対応が難しいだろうとのこと。理解を広げていくしかない、というのはもどかしさしかありませんが、今後も注視していきましょう。

この冬、ぜひ訪れてほしい!東京の秘境「神津島」で“星降る”ロマンティック体験を

2024年11月15日にWalker Plusに掲載された記事。PR記事のようですね。神津島は星空保護区に指定されていて、星空の観察・撮影スポットがいくつか紹介されています。冬のきらびやかな星空を楽しむ場としての誘客を目指しているのでしょう。海に囲まれていることもあってか、本州に比べると冬の最低気温があまり下がらないようです。もちろん冬は防寒対策は必要ですが、少し気楽に星を楽しめそうですね。

「星取県」の39地点で天の川がハッキリと…観光資源PRに「星空保全地域」の明るさ調査

2024年11月19日に読売新聞に掲載された記事。「星取県」を名乗る鳥取県は星空保全条例を定めて光害の低減に取り組んでいます条例全文はこちら)。なかでも空の暗い地域は「星空保全地域」に指定されていて、星空保全照明基準が設定されていたり、夜空の明るさを監視することが定められています。今回の記事はその調査の結果を報告するもののようですね。星空保全地域は鳥取県全体の1/3の面積を占めるそうで、その範囲で夜空の明るさを継続的に調査するというのはとても大切です。環境省も夏と冬に明るさ調査をやっていますが、これとは独立のようですね。せっかくなら環境省のほうにもデータを出すと、全国の中での位置づけが見えて面白いと思います。

地球との約束 ~心に刻む景色~ 東京都神津島村 満天の星

2024年11月19日にフジテレビで放送された2分弱の番組。星空保護区 神津島が紹介されています。光害対策のために街灯の交換を行って暗い夜空を守っていることが取り上げられています。国立天文台の出張授業「ふれあい天文学」の写真も使われていますね。

街明かりと夜の暑さでミツバチが睡眠不足のピンチに?

2024年11月24日にGIZMODOに掲載された記事。暗いところでしっかり寝たミツバチと明かりを当てて寝不足状態にしたミツバチを比べると、長時間明かりにあたっていたミツバチの概日リズム(体内時計)が乱れて行動障害が見られたとのこと。ミツバチが花粉を運ぶことで実をつける植物や作物がたくさんあることを考えると、光害によって食糧生産に影響が及ぶことになります。自然界は様々な生き物がつながって成り立っていますので、その一部だけでも欠けると全体が崩れてしまいます。広い範囲を見渡した光害対策が必要です

令和なコトバ「ノクタルジア」 暗闇の喪失を悲しむ心情

2024年11月30日に日本経済新聞に掲載された記事。暗闇の喪失を悲しむ心情として「ノクタルジア」(ノクターン+ノスタルジア)という言葉が紹介されています。ダークスカイ・ジャパンの越智さんのインタビューも含まれていますね。この言葉、以前このnoteでも紹介しました。2023年9月の光害関連ニュースまとめに、Scientific Americanに登場したこの言葉を取り上げました。無駄な光が出ていることにはなかなか気づかないものですが、そこに気づいて暗闇を取りもどす動きを進めていきたいものです。


天文学と衛星コンステレーションに関するニュース

米国のRadio Quiet Zoneでスターリンクが利用可能に

2024年11月2日にars technicaに掲載された記事。アメリカのウェストバージニア州には、世界最大の可動式電波望遠鏡であるグリーンバンク望遠鏡(口径100m)などいくつかの観測装置が設置されています。その周囲には、ウェストバージニア州とバージニア州にまたがる広大な"National Radio Quiet Zone (NRQZ)"が設定されていて、電波の発信が制限されています。ここには以前noteの記事「スターリンクのエリアマップで見る、世界の電波静穏領域」にも書いた通り、NRQZはスターリンクのサービスエリアから外されていました。宇宙を見るのが電波望遠鏡ですから、宇宙にある衛星から電波が降ってきては困るからです。が、この間、アメリカ国立電波天文台とスペースXの協力によって衛星電波が観測に(致命的な)影響を与えないような対策(衛星からの電波が望遠鏡近辺に向かないように制御する"Telescope Boresight Avoidance")が取られたため、望遠鏡の直近を除くNRQZのほとんどの範囲でスターリンクが使えることになったそうです。人口で言えば、NRQZ内に住む人(約26万人)のうち99.5%の人が使えるようになったことになります。アメリカ国立電波天文台もプレスリリースを出しています。

しかし、人口の0.5%にあたる人はスターリンクは使えません。実は、このエリアの人たちも移動先で使うタイプのスターリンク(Roam)はこれまで使えていたそうなのですが、今回新たに使えなくなるのだそうです。これまで使えていたものが使えなくなるのは抵抗が大きいはず。実際、地元の危機管理事務所は「受け入れられない」というプレスリリースを出しています。スターリンクに限らず救急や警察のための無線も制限されるNRQZの仕組みそのものに反対しているようです。ウェストバージニア州はこのエリアで光ファイバーによる高速インターネット回線を敷設するための補助金を出していたりもします。米国の他の地域と同程度の接続の自由度を求める気持ちもわからないではないのですが、世界的に見ても貴重な電波静穏領域の価値もわかってほしい、というのが正直なところです。

天文学者、衛星コンステレーション打ち上げの停止を連邦通信委員会に要請

2024年11月4日にspace.comに掲載された記事。多数の衛星からなる衛星コンステレーションが環境に与える影響をきちんと評価すべきであるとして、打ち上げを管轄する連邦通信委員会FCCに打ち上げの停止を求めるオープンレターに100名を超える研究者が署名したとのこと。このnoteでもこれまで何度か取り上げていますが、役割を終えた衛星が大気圏に突入するときに酸化アルミニウムが放出され、これがオゾンを破壊するのではないかという懸念が出ています。米国政府機関は国家環境政策法に従って環境アセスメントを実施する必要がありますが、1986年の決定によって人工衛星はその対象外となったまま。このまま衛星の打ち上げが急激に増えていけば、その影響も無視できなくなるかもしれません。現時点では打ち上げは止まっていませんのでFCCが対応するかどうかわかりませんが、天文学への影響だけでなく広く環境への影響が危惧されるということであれば、少なくとも打ち上げのペースを落とす必要があるように思います。

イギリス貴族院でDark Skyの話題

2024年11月20日、イギリス貴族院で人工衛星による光害と天文学への影響に関する質疑がありました。上のリンクは録画映像で、ページ右側のAgendaで15:29:50の"Oral questions: The adverse effects of large numbers of satellites to astronomy"をクリックすると質問のあたりに飛べます。質疑の書き起こしはこちらで読めます

多数の人工衛星による影響から天文学を守るために国王陛下の政府はどのような対策を取るか」という質問(スタンスゲート子爵)に対し、ヴァランス科学技術イノベーション大臣が「悪影響を回避する重要性を認識している。国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)でも、光と電波の天文学を守るためにDark and Quiet Skyが議題とすることに英国は重要な役割を果たした。政府は天文学者や産業界と協力して影響回避策を開発し、国際協力にも積極的に関わる」と回答しています。国会の場で大臣がこのような発言をしてくれるのは、天文学側としては心強いですね。その回答の後は、イーロン・マスクのスターリンクが現役の衛星の2/3を占めること、イギリスに本部を置くSquare Kilometer Array (SKA)への影響が懸念されることを子爵が指摘し、大臣はUNCOPUOS等の場での働きかけを行ってきたことを答えています。その後は英国の宇宙産業振興や地球周回軌道の持続可能な利用などへと話題が広がっていったようです。イギリスは、通信衛星コンステレーションのひとつOneWebが本拠地を置く国でもあります。宇宙産業と天文学のどちらかに偏らない発展を目指してほしいと思います。


スペースX「スターリンク」、スマホとの直接通信が可能に–FCCが条件付きで承認

2024年11月27日にUchuBizに掲載された記事。スペースXは携帯電話と直接通信する能力を持つスターリンク衛星の打ち上げを進めていますが、連邦通信委員会FCCがこれを実際に使用する許可を出したことになります。FCCの承認文章も公開されています。米国立電波天文台NRAOはスペースXの申請を認めることに反対の意見を出していましたが、すでに米国科学財団(NSF)やNRAO自身とスペースXとの間の調整が行われていることから反対意見を退けています。他にも別の通信会社からの反対意見が出ていたようですが、条件付きとはいえ形態との直接通信が承認されました。
なお、スターリンクと携帯電話の直接通信については日本でも総務省の委員会で審議が進められています

イーロン・マスクのスターリンクが宇宙への視界を遮る

https://www.thetimes.com/article/b2340982-b55c-4634-85c9-8dab404899fc?shareToken=64158ba92f09ebbe5e4a8243556534e8

2024年11月27日に英国のThe Timesに掲載された記事。王室天文官(Astronomer Royal)であるマーティン・リース卿は、通信衛星コンステレーションの価値は認めつつもそれが宇宙の謎を解き明かすための努力をより複雑なものにしている、とコメントしています。実際、遠方天体からの電波を観測する天文学者が、衛星から漏れ出る電波の影響を受けているとコメントしています。低周波電波天文台であるSKAやLOFARにスターリンクが影響を与えているのに加えて、非公開の衛星(おそらくスターリンクの"軍事版"であるスターシールド)も見えているのだとか。一方で、SpaceXは電波天文コミュニティとの話し合いも続けていて、上で紹介したように電波望遠鏡を衛星からの電波が直接照らさないようにするなどの対策を取っていることも紹介されています。記事にもある通り、イーロン・マスクが熱烈に支持していたトランプ氏が大統領になることでアメリカの宇宙政策は大きく変わる可能性がありますが、こうした話し合いの場は持ち続けてほしいものです。


電波天文学の観測環境に関するニュース

ミリ波帯で人工衛星の熱放射を検出

2024年11月5日に、プレプリントサーバarXivに投稿された論文です。これまで人工衛星が電波天文観測に与える影響は比較的低い周波数でよく議論されてきましたが、高い周波数(95~220 GHzのミリ波)でも電波望遠鏡で人工衛星が見えているという報告です。観測に使われたのは、南極点でアメリカが運用する南極点望遠鏡(South Pole Telescope、SPT)。人工衛星がミリ波を通信に使っているわけではなく、人工衛星の機体自体が放つ熱放射が捉えられたとのこと。ビッグバンの証拠である宇宙マイクロ波背景放射を観測するために打ち上げられた人工衛星COBE、デブリになったロケット上段、スターリンク衛星とイリジウム衛星が観測されたとあります。重要な結論は、SPTで何度も空の同じところを観測して感度を上げるタイプの観測では、人工衛星は重大な影響を与えるには至らない、ということ。ただし、急に明るくなる天体など大きな時間変化を伴う天体現象を相手にする場合は、その信号が人工衛星によるものでないか注意深く調べる必要があると述べられています。しかも、公開されている軌道データと実際の衛星の飛行位置がずれていることも指摘されており、軌道データだけでは判断できない可能性があります。人工衛星運用側には最新の軌道データを公開することが求められます。

しかし注意すべきは、この論文が検証したのはあくまでの南極点からの観測であるということ。スターリンクは南極上空を飛ぶ極軌道衛星もありますが、大多数は南極の上まで行かない傾いた軌道を持っています。つまり、南極点以外に位置する電波望遠鏡による観測では、その影響はより大きくなると想定されます。実際、プレプリントの図(Fig.16)では南極から見て地平線近くのあたりで衛星の影響が大きくなる結果となっています。低い緯度の地域に立地する電波望遠鏡でどんな影響があるか、きちんと確かめる必要があります。


ヘッダのイラストはDALL-E 3 (Microsoft Bing Image Creator)によるものです。

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