見出し画像

光害関連ニュースまとめ 2024年9月

2024年9月の光害関連ニュースです。
今回も衛星コンステレーションの話題は盛りだくさんになりました。光害の影響の研究では、ゼブラフィッシュへの光害の影響が世代を超えて伝わるという発表はなかなか衝撃的です。他の生物種ではどうなっているのでしょうか。


地上の光害に関するニュース

世界遺産級の星空見えた⁉ 大野・南六呂師で観望会

2024年9月5日に日刊県民福井に掲載された記事。星空保護区に認定されている大野市南六呂師地区で天体観望会が開催されたことを報じています。認定1周年記念だそうで、時間がたつのは早いですね。星空保護区に認定されるには、街灯から空に光が漏れないようにする改修のようなハードウェアの対策に加えて、住民の皆さんの理解や応援が欠かせません。「認定されたら終わり」ではなく、地元の皆さんが愛着を持って暗い夜空を守っていくという意思を持つことが何より大切です。周年イベントも、認定の時の熱い想いをもう一度思い出すためには有効ですね。ぜひ今後も続けていってほしいものです。このニュースは、NHKでも報じられていました。

人工の光から生じる「光害」がアルツハイマー病の発症リスクに関係、研究結果

2024年9月8日にForbes JAPANに掲載された記事。人工光がアルツハイマー型認知症やある種のがんなどいくつかの病気と関連している、という報告です。同様の記事が他にもいくつか掲載されていましたので以下にリンクを置いておきます。私は医学の専門家ではないのでこれらの研究の妥当性を判断することができませんが、人工の光、特にLEDの光に多く含まれる青色光は概日リズム(体内時計)に影響があるとされている、というところまではおそらく確かでしょう。疫学調査によれば、概日リズムの乱れがホルモンバランスの乱れや病気と関連がありそうという結果もあれば、個人差が大きかったり発がんリスクと関連が無かったりという報告もあるようです。こういう害があるから人工光を避けるべき、と断定的に言う勇気は現時点でありませんが、今後も調査の結果には注目したいところです。

「光害」で天の川が見えなくなる? 宇宙物理学者が今『天文台浴』を勧める理由

2024年9月10日、Forbes JAPANに掲載された記事です。熊本県の南阿蘇ルナ天文台の長井知幸さんが、「気軽に立ち寄れる公開天文台で「天文台浴」をしよう」と呼びかける記事になっています。日本は何百もの公開天文台(研究用ではなく、お客さんに星を観てもらうための天文台)があり、世界屈指の天文台大国です。その天文台に行って星を観ることで「ウェルビーイング」の向上を目指そうというのが「天文台浴」とのこと。調査によれば、ある条件下でストレス軽減などの効果もあるそうです。「癒し」を求めて星を見に行く、というのはよくある話。人工光が増えて星空が見づらくなってしまえば、そうした癒しも得にくくなるわけですね。星空があることでより幸せに生きることができる(人もいる)という事実は、天文関係者にも勇気を与えてくれます。

【星空保護区認定地連携協議会】 始動!

2024年9月20日に星空保護区認定地連携協議会から出されたプレスリリースです。星空保護区に認定された地域を抱える東京都神津島村、岡山県井原市(美星町)、福井県大野市が構成自治体となっているようです(あれ、石垣島は…?)。4つの星空保護区はこれまでも共同でパンフレットを作るなどの活動をしてきています。観光振興についても地元理解についてもおそらく似た課題に直面することはあるでしょうから、情報共有が進むのは良いことですね。

ゼブラフィッシュに対する光害の影響は、世代を超える

2024年9月27日にearthsky.orgに掲載された記事。熱帯魚のゼブラフィッシュに夜間に人工光を当てると、泳ぐ量が減ったり互いにくっついておよぐようになったり、あるいは水槽の壁に近づいたりするなどの「不安」の兆候を示すことが分かったそうです(マックスプランク動物行動研究所のプレスリリース)。青色光でその兆候はより大きくなる、というのは人間にとっても青色光が体内時計に対する影響が大きいのと共通ですね。さらに驚くべきことに、人工光を当てて不安の兆候を見せた個体の次の世代の個体も同じような兆候を見せるとのこと。次の世代の個体たちには夜間に人工光を当てていないにもかかわらず、です。夜間に人工光を浴びると睡眠が阻害され、これが不安の兆候につながるのではないかと研究者は考えているようですが、世代を超えて光害の影響が伝わってしまうのは衝撃的です。
このゼブラフィッシュでの実験結果が他の生物にも当てはまるのかどうかはわかりません。が、不要なところを無駄に照らさない、特に青色光は避ける、という対策を真剣に取るべきではないでしょうか。

そういえば、神戸市では「イネへの影響が少ない」として青色LEDの防犯灯を採用しているところがあります。イネには影響が少ないかもしれないけれど、そこに暮らす他の生物に対する影響は調べられているのでしょうか。調査が必要だと思います。


天文学と衛星コンステレーションに関するニュース

衛星が夜空を明るくする - ロケット射場を持つニュージーランドの責任

2024年9月3日にspace.comに掲載された記事。ニュージーランドと言えばテカポなど美しい星空が有名な場所がいくつもあり、国全体としてDark Sky Nationを目指すという話もあります。一方、新興の小型衛星打ち上げロケット企業であるRocket Lab社はニュージーランドにも射場を持っています。昨年はニュージーランドからの打ち上げが7回あり、これは日本の2回を大きく上回ります。ロケット打ち上げによる収入も17億ニュージーランドドル(約1500億円)に達していて、一大産業となりつつあります。国も、宇宙開発を支援する法整備を進めているようです。
この記事では、そうした活動がニュージーランドの先住民であるマオリの権利を考慮していないとしています。人工衛星が太陽光を反射することで、一種の光害になっているからです。早朝の空にすばる(プレアデス星団、マオリの言葉でマタリキ)が輝く日が祝日になっているなど、マオリと星空には深いつながりがあることは国も認識しています。マオリとの関係に限らず国も暗い夜空を大切にしようとしているのに、宇宙開発に対してはその考えが反映されていないのは矛盾であるという指摘です。
人工衛星による反射光については、現時点では国際的な規制がありません。米国では、衛星の認可を行う連邦通信委員会(FCC)が衛星事業者に対して天文学への影響を考慮するように要請が行われるなど、国ごとの対策は出始めています。開発に伴う経済的利益と環境への配慮、というのは宇宙に限らず様々な場面で相反する事柄として顔を出してきます。国連の宇宙空間平和利用委員会でも国際電気通信連合でも「持続可能な宇宙開発」は話題として取り上げられています。宇宙空間(少なくとも人工衛星が飛ぶ範囲)も人が暮らす「自然環境」の一部であるという考え方で、対策を考えていく必要があります。

衛星コンステレーションに対する米国の環境影響規制は不十分、という論文

こちらはニュースではなく、カナダのブリティッシュ・コロンビア大学に提出された修士論文です。米国の連邦通信委員会(FCC)による衛星メガコンステレーションの環境影響規制を検証したもので、政治学の論文ということになるでしょうか。FCCは公共の福祉や環境を犠牲にした旧来からの国の利益や経済的利益を優先させる考え方に立っており、それは現代的な考え方とは真逆であること、これが規制の穴を作ることに繋がり共有財産である地球周回軌道に危機が及ぶこと、等を主張しているようです。

SpaceXが7000基目のStarlink衛星を打ち上げ、アクティブなStarlink衛星の数が全人工衛星の約3分の2に達する

2024年9月9日にGigazineに掲載された記事。毎週のように20機近い人工衛星を打ち上げているSpaceXですが、スターリンク衛星の通算が7000機を超えたとのこと。最初のスターリンクがの打ち上げが2019年ですから、5年で7000機というのは驚異的です。最近話題の紫金山・ATLAS彗星を撮影した方々も、明け方に飛び交う人工衛星の多さに改めて気づいた方も多い様子。確実に、地球低軌道の環境は変わりつつあります。

楽天モバイルが採用の「スマホ直接衛星」5機、打ち上げ成功

2024年9月13日にUchuBizに掲載された記事。楽天モバイルも出資するアメリカのベンチャー企業AST SpaceMobileが、通信衛星BlueBirdを5機打ち上げました。スマホと直接通信する機能を持つ人工衛星で、2022年9月に打ち上げられた試験衛星BlueWalker 3での実証を経て、今回の5機は商用サービスを行う本番衛星です。BlueWalker 3は64平方メートルのアンテナを持ち、太陽光を明るく反射して1等星並みの明るさで見える、というのが話題になっていました。このnoteでも何度か取り上げています。

最近は運用の工夫で少し暗くなっているという報告もあります。今回のBlueBirdは試験機と同じサイズとのことですので、やはり明るく見える可能性は高いでしょう。スターリンクに比べれば数は圧倒的に少ないですが、とはいえ注視は必要ですね。

第2世代スターリンク衛星は従来機より30倍電波が漏れている

2024年9月18日、オランダの天文学研究所ASTRONが発表したプレスリリースです。SpaceXのスターリンク衛星から漏れ出る電波が電波天文観測の障害になるのではないか、という話は2023年に最初に話題になってこのnoteでも取り上げましたが、最近打ち上げられているスターリンクの第2世代衛星からは従来機よりも30倍も多くの電波が漏れている、という報告が新たになされました。観測は、欧州に展開されている低周波電波望遠鏡LOFARによるもの。漏れているのは通信のために使う電波ではなく、衛星本体の電子機器から漏れているものだそうです。通信に使う電波に対しては国際電気通信連合による規制があるので、それを超えて漏れることは普通はありません。が、衛星本体から漏れる電波については規制がないそうです。もちろんこれはスターリンク衛星だけに限った話ではなく、私がオーストラリアの電波天文関係者に聞いた所では、より小さなキューブサットからも結構電波が漏れているとのこと。これまで問題にならなかったのは数が少なかったからかもしれませんが、人工衛星が5年で7000機も増えてしまうとその影響が見えてくるということでしょう。

この話題、科学誌Science (‘Worst nightmare’: Elon Musk’s Starlink satellites could blind radio telescopes ) をはじめ多くのところでニュースとして取り上げられていました。

天文学者とスターリンク、電波天文観測を守るために協力

https://skyandtelescope.org/astronomy-news/astronomers-and-starlink-partner-for-quieter-radio-sky/

2024年9月10日にSky and Telescopeに掲載された記事。2024年8月の光害関連ニュースまとめでも取り上げた、スターリンク衛星と米国立電波天文台との協力に関するニュースです。電波望遠鏡が向いている方角と観測している周波数をリアルタイムにSpaceXと共有し、望遠鏡の視野に近づくスターリンク衛星から直接電波望遠鏡に電波が入らないように制御するというもの。最悪の干渉はこれで防げますが、望遠鏡の主たる視野(メインビーム)外から漏れこんでくる電波、衛星のメインビーム以外(サイドローブ)から漏れこむ電波についてはこれでは防ぐことができません。また、上でご紹介した衛星本体から漏れる不要放射についても効果はありません。すべて完璧に対応するのは難しいでしょうが、「最悪の場合の回避」だけで終わりにするのではなく、継続して協力検討が必要です。

衛星が写りこんだ天文データはAIで補正できるか

2024年9月26日にNatureに掲載された記事。ノーベル賞でも話題になった機械学習・人工知能(AI)ですが、大量のデータを扱う天文学の分野でもAIは様々に使われています。この記事では、こうしたAI技術を使うことで、天文学データに写りこんでしまう人工衛星の影響を除去できるかどうか、という話題を取り上げています。もちろんこれまでの観測でも機械的に人工衛星やデブリ、宇宙線の影響を取り除くことは行われています。AIでもう少し洗練されたデータ処理ができるかが焦点になるでしょう。記事では、チリのアタカマ大学の研究者が開発したシステムで、96%の人工衛星の軌跡を検出することに成功した、という結果を紹介しています。軌跡を同定して、それを取り除いて、その下に埋もれている天体の光の(例えば)強度を復元できればベストですが、見ている天体が普通の(予測できる)天体でなければ難しいでしょうし、研究目的に照らして必要な精度が確保できるかどうかも課題です。AIの進化はこれからも続くでしょうが、衛星の影響を除去するという観点では楽観視はとてもできません。


---

今月から、ヘッダ画像はDALL-E 3 (Microsoft Bing Image Creator)に描いてもらうことにしました。

いいなと思ったら応援しよう!