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メディア関係者と「派遣社員」の距離が遠いのかもしれない、というお話

 「派遣社員」という業態を、これまで3回ほど経験したことがある。就職氷河期真っ只中で新卒採用にことごとく落ち、しばらくバイトで糊口を凌ぎながら秋から某通信会社の事務に派遣として採用されたのが、自分のはじめて履歴書に書ける職歴になった。記憶では当時の時給が1200円。3ヶ月おきの更新で「いつ切られるか」という不安の中で働いていた。

 リーマンショック後に勤めていた所を会社都合での退職した後に少しだけ派遣で働いたイベント運営の仕事ではヒドい目にあった。正社員に顎で使われ、長時間労働や休日出勤が当たり前。備品購入で大量に自腹を切らないといけなかった(後から領収証切れば払ってもらえるのだけど)のが何よりもキツかった。結局ここは数ヶ月ともたずに体調を崩して辞めることになったのだけど、数年後に派遣会社が倒産したという手紙が来た時には、さもありなんという感想しかなかったことを思い出す。

 まぁ、自分のことはここでは置いておく。ここで記しておきたいのは、泉房穂明石市長が大手派遣会社パソナグループについて言及したツイートについてのことだ。

 これに関しては、自分も『ガジェット通信』で記事にしたのだけど、正直に言えばこれらのロビーの話を耳にする機会があるし、実際に記事に対して「どこが暴露なんだ?」という反応があるのも理解できる。なので、タイトルで「煽りすぎでは」という誹りは甘んじて受けるつもりだ。

 この記事に対しては、泉市長本人から、「ぶっちゃけすぎとも暴露とも認識してない」と反応されていて、さらに「大手マスコミが報道しないのは、政治家以上にお世話になっているから、という説があるようだ」とツイートしている。

 新聞・テレビなどで派遣会社の広告が多く入っていることは確かで、それに対して忖度があるんじゃないのか、という疑念は多くの人が持っているのかもしれない。正確な事情に関しては知る立場にないけれど、少なくとも新聞の現場では編集権が担保されており、多額の広告費により「報道しない」という判断がなされることはないように見える。

 では「なぜ大きく報道されないのか」といえば、シンプルに「そこに問題意識が働いていない」、あるいはキャンペーンなど大々的に取り上げる「優先順位が低い」からのように感じざるを得ない。
 自分は2015年の労働者派遣法改正により、3年以上同じ職場で派遣社員として働くことができなくなった事による雇い止めを懸念された「2018年問題」の時に少なからず取材をした。この時には労働組合なども動いていて、発表会や勉強会の席で大手メディアの記者と顔を合わせる機会もあったのだけど、労働法制への「べき論」が飛び交っていたり、雇用情勢の展望といった本筋とはズレる話に終始したり、言い方は悪いが「熱量」が足りないように思えた(まぁ、これに関しては人のことを言えたものではなかったのだけど……)。

 その時に感じたのは「今の大手メディアの記者や編集部内で、派遣社員として働いた経験のある人は果たしてどれだけいるのだろう?」ということだった。もっと言えば「有期雇用契約」ということにピンと来てない人が取材しているように思えた。
 実際、「紹介予定派遣」として3年の間に正規雇用もしくは無期雇用転換されるケースが多かったり、当時はむしろ人手不足が深刻で「雇い止め」という事態は懸念されたほど発生しなかったということもある。
 とはいえ、そういう事態が全くなかったわけではなく、むしろ中小企業における解雇の実態はえげつないケースも起きていた。やっかいだったのは、職場の人間関係などに起因する場合も混じっていたことで、取材すればするほど「不当な雇い止めが頻発している」といった制度上の問題を突くようなピックアップができなくなっていった。ただ「不当な扱いを受けている」という事に関して「ゼロではなかった」ということは確かだ。

 やや話が逸れた。多くのメディアの編集やコンテンツ部門で働いている人は正規雇用で、非正規ならばアルバイト、もしくはフリーランスと関わりがあっても、「派遣社員」は周囲にいないので馴染みがないのでは、と感じる。さらに言うならば、有期雇用で契約が切れる事を常に心配しながら働くという感覚は、「労働契約」で常に主導権を持って働いている人と遠い位置にあるように思える。
 リーマンショック後の「派遣村」など、取材をする機会はこれまでに多々あったはずだ。ただ、「個人の不当な扱い」の集合体として扱われていて、自身が同じような境遇に置かれるかもしれない、といった危機感とは距離があったのではないか。

 そういったメディア関係者の労働環境と、派遣会社とコストカットを図る企業の問題に対して、イマイチ反応が鈍い事は多少なりとも関係があるように感じる。実際、法に反することが掴めない限り積極的に動くのは難しいし、労働市場の歪みについて深堀りするだけのモチベーションも生みづらい。
 そして、「それならお前はどうなんだ」と言われると、そこまで手が回らないし、持ち出しをしてまで取材するかといえば、言葉を濁さざるを得ない。しかし、そういった態度がいずれ自分たちに返ってくるかもしれない。以前に「(契約)延長は残念ながら……」と告げられた記憶が呼び起こしている危機感は持っておかなければいけないな、と思っているのも確かだったりする。

 そろそろお時間なのでこの辺で。


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