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接客業でシステマの教えに救われた

接客業ではいわゆるクレーマーと呼ばれる人達を相手にする場面が起きうる。

池田清彦さんの本に「文句を言ったら、相手がなんとかしてくれるという『成功体験』を得たことが近年のクレーマー増加に繋がった」と書かれていた。成功体験も必ずしも成長に繋がるとは限らない。

さて、自分も昔、アスレチック施設の職場で働いていたとき、そんなクレーマーと向き合った経験が一度ある。正確に言えば、クレーマー、というか悪質客、という分類が正しいかもしれない。

その客は若いカップルで施設のルールを守らないで危険な遊び方をしていた。自分は彼らにまず、店のルールを説明し、それを守るようにお願いをした。しかし、相手はまったく聞き入れる様子がなく、不満を漏らし、再び同じように遊び始めた。

なぜ自分の話を聞いてもらえなかったのだろう。そう思い、自分の身体の観察をした。すると、鳩尾が硬くなったり、姿勢が猫背気味になったり、身体の状態が弱くなっていることに気付いた。思い返すと、相手に声をかけるときも、弱々しい声が出ていた。

システマには人間が強い状態でいるための四大原則がある。「呼吸」「姿勢」「リラックス」「動き続ける」だ。その原則が崩れていたのだから、あのときの自分は弱くなっていた。人間には強弱のグラデーションがあり、そのときは「弱」方面に偏った状態だった、というほうがより正確か。

こんな状態で向き合ったら、相手が強く出るのも無理はない。要するに、さきほどの客は肉食獣が自分より弱そうな草食獣を相手にしたときの態度を取ってきたのだろう。そう考えると、腑に落ちた。

そこで、私はシステマのワークをして背筋をさきほどより伸ばし、呼吸を深くしてから、再びその客に声をかけた。身体を整えれば、四大原則を守りやすくなり、相手と向き合いやすくなると思った。

すると、今度は相手をより全体的に観察することができ、若いカップルの背骨や肩にも多くの緊張があることに気付いた。システママスターは攻撃性は身体を不自然な状態にさせると言っているが、その実例が自分の前に立っていた。

自分はさきほどと同じように店側のルールを説明し、守って貰えない場合はここでは遊べない、ということをなるべく感情を込めずに伝えた。威圧的に聞こえないようにいつもよりゆっくり喋った。

すると、驚くほど変化が起きた。その客がしぶしぶ、という感じで施設から帰ったのだ。同じような内容のことを言ったのに、言う側の身体の状態が変化するだけで、これだけの対応の違いが生まれる。

身体の状態により、相手への作用はまったく変る。そのことを実践的に学ぶ体験となった。

システマは日常のあらゆる場面で活かすことができる、とマスターは語っている。接客業という武術的職業においても、その教えに救われる場面は多かった。とてもありがたい。

できれば、次に仕事を探すときも、リモートでもいいので「対人」という要素を重視したい。コントロールできない他者と向き合う経験が自分にはまだまだ圧倒的に足りてないと思っているから。

それにしても、人間はどこまでも強くなれるし、どこまでも弱くなれる、というのは興味深い。一歩道を間違えば、自分がネット上で文句ばかり言うクレーマーになっていてもおかしくなかったし、逆に努力次第で、今よりも魂を強くすることもできる。その選択肢は常にある、ということは忘れないようにしたい。



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太郎丸
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