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万象生成のエネルギーを光に変える「土」 ─ 陰陽五行と美術作品

執筆:美術家・山梨大学大学院 教授 井坂 健一郎


芸術家が持つ泥魂(ぬるみたま)

時間と空間の推移によって生成変化する自然物や環境。それらと身体が一体化して作品制作をするリチャード・ロング。
今回は、外国人芸術家(英国生まれ)であるリチャード・ロングを取り上げ、日本的な視点からその造形を解き明かしてみます。

自然と人間との関わりの中に共通的な対話の場を探求するロングの身体には、五霊五魂という五階層による霊魂観が確立されているように思います。

泥と一体になるということは、芸術的統合でもあります。
泥魂は統合する働きであり、ロングは日本、それも京都の地を選んで、その地の土に水を加え、泥にして自身と一体化することを望みました。

ロングの泥の作品で表されるものは、「円」や「滝」といった、自然界での安定した形や現象です。
そこにロングは何を見たのでしょうか。

神秘性を醸し出す深遠なる真円

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ロングの泥による作品「京都の泥の円」は、彼が泥を手にとって壁に直接描いたものです。美術の文脈では、いわゆるフィンガーペインティングとも言えましょう。

ロングは、この制作に現地の土を選びました。その場にしかない材料で、その場でしか成立し得ない造形表現(空間表現)をするという、まさにインスタレーションの醍醐味をこの作品から体感することができます。

「円」の作品は世の中にたくさんありますが、このロングの作品はどこか違うような気がしませんか?

黒くドーナツ型に塗られた壁面の上にはロングによる泥のワークが見られますが、その中心部の白い壁面の部分に引き込まれてしまうような感覚になりませんか?

明らかに周囲の白い壁面とは異なり、中央の白い円形の壁面が「空(くう)」の領域となっているのです。
その「空」の領域に意識を入り込ませることにより、真の芸術鑑賞、真の芸術体験ができるのだと思います。

降り注ぐ泥に光をみる

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ロングが京都滞在時に制作したものには「滝の線」という作品もあります。

土と水で泥になり、さらにそこに自身が入り一体となる。ロングの表現は形の上ではフィンガーペインティングかもしれませんが、その指はロングの身体すべてであり、国津神とも一体となって表されているように見えます。

「滝の線」は、上部から泥が降り注ぐように表現されていますが、ロングのワークによる泥が壁面に付着した瞬間、それは「光」へと変化しています。

たとえば絵の具がキャンバスに付着して、画家の意志でコントロールされ、空間や物の形や色に置き換えられた時、それは絵の具という名称を離れます。

ロングの泥は、彼自身の意図的な造形行為を超えて、その場に燦々と降り注ぐ「光」となり、そこに集う人々を永遠に照らし続けるような力となっているのです。

それは、泥魂の働きによるものなのでしょう。


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【井坂 健一郎(いさか けんいちろう)プロフィール】

1966年 愛知県生まれ。美術家・国立大学法人 山梨大学大学院 教授。
東京藝術大学(油画)、筑波大学大学院修士課程(洋画)及び博士課程(芸術学)に学び、現職。2010年に公益信託 大木記念美術作家助成基金を受ける。
山梨県立美術館、伊勢丹新宿店アートギャラリー、銀座三越ギャラリー、秋山画廊、ギャルリー志門などでの個展をはじめ、国内外の企画展への出品も多数ある。病院・医院、レストラン、オフィスなどでのアートプロジェクトも手掛けている。
2010年より当時の七沢研究所に関わり、祝殿およびロゴストンセンターの建築デザインをはじめ、Nigi、ハフリ、別天水などのプロダクトデザインも手がけた。その他、和器出版の書籍の装幀も数冊担当している。

【井坂健一郎 オフィシャル・ウェブサイト】
http://isakart.com/


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