大和言葉、すなわち『言霊』の力。 日本人としての目覚め〈後編〉
執筆:ラボラトリオ研究員 杉山 彰
日本語の響きの中に、“言霊の神々しさ”を感じたという
「エクサスケールの衝撃」を著した斎藤元章氏は、日本語の美しさと神秘性について、以下のように語っている。
あるとき、ヨーロッパ各国に複雑な血縁を持つ米国サン・フランシスコ市在住のある芸術家の老夫婦が、彼らのアトリエを偶然に訪れた私を捕まえて、1時間以上も熱心に力説してくれたのである。曰く「日本語の響きは、自分たちの知る限りの数十もの言語の中でも、最も美しく、特段穏やかで、平和的で、何を話しているのかは理解できないのだけれど、まるで静かに感情を抑えながら、軽やかに歌っているようだ。
「最初は、他の言語と比べて、母音がとても多いのがその一因だと考えた。でも、それだけが理由でないことはすぐにわかった」とも付け加えられていた。
とくに欧州の言語は、日本語と比べると、「忙(せわ)しなく、時に煩(うるさ)く、感情がそのまま乗り移っていて、心が休まらない場合が多いのだが、日本語の美しい響きと流れるようにスムースな調べを聞いていると、心地よく、安静な精神状態を保つことができる。そこには、神々しささえ感じられる」のだそうである。最後には「世界ですべての言語が滅(ほろ)んでしまうことがあったとしても、あなたたちの国の言葉だけは遺(のこ)ってもらいたい」とまで真顔で言われてしまった。そして、このことはヨーロッパ各国でも似たような話は、何度も何度も聞かされたという。それは欧米の人たちから見たときに、アジア圏の言語すべてに言えることではないのか、と思って尋ねてみたのだが、決してそうではなく、アジア圏の言語の中でも明確に日本語だけに言えることなのだという。
斎藤元章氏が出会った、この米国サン・フランシスコ市在住の芸術家の老夫妻は、日本語の響きの中に、かつて我が国に渡来人として百済から移り住んできた山上憶良(やまのうえのおくら)が、
神代(かみよ)より 言い伝えて来らくそらつみ 大和の国は皇神(すめかみ)の巌しき国 言霊の幸(さき)はふ国と 語り継ぎ 言い継がひけり
と歌った心持ちを、2000年の悠久の時を超えて<言霊の神々(こうごう)しさ>を同じように感じとったのであろう。上代和語と、それに密接に関連する古代の日本文化、精神性、祭祀などを総合して構築された「古層和語圏」への連結こそが、1万年を超えて蓄積・継承・保存され、埋蔵されてきた、それこそエクサスケールの知的資源へのアクセスを可能とする言語として、「日本語」が果たしていくべき役割が浮き彫り化されたのではないだろうか。
人間が創造する、文明の実体は言葉である。
最後に、古事記解義書・言霊三部作(言霊百神・言霊精義・言霊開眼)を著した小笠原孝次氏が読み解いたひとつである「人間に与えられた役割について」の一節を以下に引用して、今回の原稿の筆を置くことにする。
“人間に与えられた役割は、先天17言霊を活用して宇宙の森羅万象を創造し、次いで、その森羅万象を整理し活用して人間が住むにふさわしい文明世界を建設せよ、と云うのです。但し、此の場合宇宙を創造すると云うことは太陽や星辰(せいしん)や、河海山野動植(かかいさんやどうしょく)を作ると云うことではない。そうした物件自体を一体何者が作ったかと云うことは人間には不可知不可解(ふかちふかかい)に属することである。
これを架空の観念の神なる者が作ったと仮定し、そう信じることは自由であるが、それはそれだけに止まることで真理にはならない。古事記は不可知不可解の内容を独断した観念の遊戯ではない。古事記には、古事記のどこにも神が何かを創造したという記述は一切無いのです。人間が森羅万象のすべてに名前を付けるための言葉を言霊として与えたとしか記述されていないのです。
森羅万象が生まれると云うことはその名が出来ると云うことである。森羅万象が有ると云うことは一つひとつその名が有ると云うことである。「天津神諸の命(あまつかみもろもろのみこと)」の修理固成(つくりかためなせ)の命令はその天津神そのものである先天、天名に基づいて、宇宙間のすべての要素の名を定め、その名の原理すなわち原理の言葉を以て万物を命名し、その原理ある言葉を指導原理として国家、社会、世界を組織し、建設し、経営せよと云う生命の命令である。名は万物の母であり、言葉が万物存在の根拠である。
人間が創造する文明の実体は言葉であり、言葉として組織された世界が人間によって生み出された最初の国であり、文明の発展は言葉の発展である。この事の意義を先ず充分に弁えないと、これから先の岐美二神(きみにしん)の創造の意義を理解することが出来ない”
小笠原孝次氏が著した「人間に与えられた役割について」の一節を読み解くことによってはじめて、日本語を駆使する日本語族として、神道の本質である言霊学(げんれいがく)を理解できる緒につくことができるのである。(了)
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【杉山 彰(すぎやま あきら)プロフィール】
◎立命館大学 産業社会学部卒
1974年、(株)タイムにコピーライターとして入社。
以後(株)タイムに10年間勤務した後、杉山彰事務所を主宰。
1990年、株式会社 JCN研究所を設立
1993年、株式会社CSK関連会社
日本レジホンシステムズ(ナレッジモデリング株式会社の前身)と
マーケティング顧問契約を締結
※この時期に、七沢先生との知遇を得て、現在に至る。
1995年、松下電器産業(株)開発本部・映像音響情報研究所の
コンセプトメーカーとして顧問契約(技術支援業務契約)を締結。
2010年、株式会社 JCN研究所を休眠、現在に至る。
◎〈作成論文&レポート〉
・「マトリックス・マネージメント」
・「オープンマインド・ヒューマン・ネットワーキング」
・「コンピュータの中の日本語」
・「新・遺伝的アルゴリズム論」
・「知識社会におけるヒューマンネットワーキング経営の在り方」
・「人間と夢」 等
◎〈開発システム〉
・コンピュータにおける日本語処理機能としての
カナ漢字置換装置・JCN〈愛(ai)〉
・置換アルゴリズムの応用システム「TAO/TIME認証システム」
・TAO時計装置
◎〈出願特許〉
・「カナ漢字自動置換システム」
・「新・遺伝的アルゴリズムによる、漢字混じり文章生成装置」
・「アナログ計時とディジタル計時と絶対時間を同時共時に
計測表示できるTAO時計装置」
・「音符システムを活用した、新・中間言語アルゴリズム」
・「時間軸をキーデータとする、システム辞書の生成方法」
・「利用履歴データをID化した、新・ファイル管理システム」等
◎〈取得特許〉
「TAO時計装置」(米国特許)、
「TAO・TIME認証システム」(国際特許) 等