ロゴストロン信号 (その2)
執筆:ラボラトリオ研究員 鴨 奢摩他(かものしゃまた)
ロゴストロンという装置自体は無線通信機器ではないので、意図的に電磁波を発信する機能はありません。
しかし、今までみてきたように、あたかもラジオ放送されるかのようにロゴストロン信号が空中に飛んでいっています。このロゴストロン信号を空中に送り出している仕組みはどうなっているのでしょうか?
皆さんは、家電製品からも電磁波が出ていることを聞いたことがあると思います。電気を使う製品は、多かれ少なかれ本体から電磁波を出しています。
例えば、「+」と「−」の電気があると、この間に電圧が生じて「電界」が発生し、電流が流れると周りに「磁界」が発生します。
以下の電気スタンドの例のように、電源コンセントに繋ぐだけでコード周辺に電界が発生します。
中部電力『電気のことがわかる読本 電磁界(電磁波)ってなんだろう?』より引用
電気スタンドのスイッチを入れると電流が流れ、コードの周りに電界と磁界の両方が発生します。
中部電力 『電気のことがわかる読本 電磁界(電磁波)ってなんだろう?』より引用
そして電界や磁界は、電子機器内で発生したノイズを、空間的に離れた位置に伝える媒体となるのですが、その仕組みとして、以下の図のように、(i) 静電誘導、(ii) 電磁誘導、(iii) 電磁界放射の3つがあります。
村田製作所のウェブサイト『ノイズ対策基礎講座 第4章 空間伝導と対策』の ”【図4-2-1】ノイズの空間電動のモデル” を一部改編
(i) 静電誘導ではノイズを ”電界” で伝えます。
(ii) 電磁誘導ではノイズを ”磁界” で伝えます。
また、回路の配線周りが送信アンテナの役割を果たしてノイズが電波(電磁波)に乗って空間を飛んで、離れた場所にある他の回路の配線をアンテナとして受信されることもあります。
この辺りの仕組みについても、村田製作所のウェブサイト『ノイズ対策基礎講座 第4章 空間伝導と対策』に詳しいので、ご参照 ください。
そして、上の図の「誘導されたノイズが外部に漏えい」し、「ケーブルや筐体自身がアンテナとなって空間にノイズが放射」されたものが「漏えい電磁波(ノイズ)」ということになります。
電磁波とは電界と磁界が交互に発生しながら空間を伝わっていく波のことを言います。
波の伝わっている空間(場所)を電磁界といいますが、それを海として例えると、電磁波は、その海に生じた波といったイメージになります。
経済産業省ウェブサイト『電磁界とはどのようなものですか?』より
この漏えい電磁波によって「電子機器内の信号」が空中に放射されてしま うことがあるのですが、分かりやすく説明するために情報信号漏えいの顕著な例を、ひとつ挙げておきます。
『電磁現象に起因する情報通信機器のセキュリティ問題』- 通信ソサイエティマガジン No.10 [秋号] 2009より引用
電子機器の内部で生成・伝送される電気信号(情報信号)からは漏えい電磁波が副次的に放出されていますが、PCの例をあげると、PCディスプレーの文字表示は、RGB(Red-Green-Blue)信号のオン・オフの組み合わせによりディスプレー上のドットを光らせて文字を生成しています。 このため図1(a)に示すように、RGB信号を作る電気信号は常にオン・オフを繰り返しています。
また、図1(b)に示すように、キーボードのキー入力では押したキーの電気信号のオン・オフ信号のパターンがPCヘ送られます。
これらの電気的信号がオン・オフ変化する時に漏えい電磁波として、電磁的な信号(ノイズ)が外部に放出されます。
この時の信号は、図1(c)に示すように、オン・オフ信号の変化割合に応 じた周波数成分を持ち、その周波数成分の一部は信号生成回路や信号線をアンテナとして空間に放出されます。
このため、放出された漏えい電磁波を受信して表示すると、PCのディスプレーに表示されたりキーボードから入力する文字が、離れた場所からも分かってしまうため、「情報通信機器からの放射電磁波による情報漏えい」が問題となりました。
詳しくは『電磁現象に起因する情報通信機器のセキュリティ問題』- 通信ソサイエティマガジン No.10 [秋号] 2009をご参照ください。
以下の図は、PC画面上で表示された文字と漏えい電磁波を受信して再現した表示を対比しています。
PC画面上表示文字
漏えい電磁波を受信して再現した表示
『解説論文:情報通信機器からの放射電磁波による情報漏えい対策法』の図7、図8より引用
このように、電子機器機器からの「漏えい電磁波」は、意図せずして「情報信号」を外部に放出することがあるということがお分かりになるかと思います。
前回の「語止しめ」と言うタイトルの記事でご紹介した電波無響室(電波暗室)・電波遮蔽室で測定していた” 製品から出る電磁波” というのが、ここで説明している電気が通電した時に生じる「漏えい電磁波(ノイズ)」ですが、情報信号もその中に含まれます。
携帯電話や無線機のように通信・通話をするために意図的に発信し ている電磁波ではなくて、意図せず出て空間に飛んでいくので「非意図的放射」と呼ばれていて、他の製品に電波障害を起こさないようにするために、非常に弱いレベルになるように規制されていま す。
ロゴストロンも家庭用電源やバッテリーで動く電気製品ですので、「漏えい電磁波」が発生しています。 前回の記事の動画でお見せしたラジオ放送のように飛んでいたロゴ ストロン信号は、この漏えい電磁波の周波数で空中に飛んでいたのです。しかもその周波数はひとつではなく、いくつもの幅広い周波数で「送信」されていたのです。
最後にロゴストロン信号について、さらに考察を重ねておきたいと思います。
ロゴストロン信号は、周波数的に「疎」である母音と、周波数的に「密」である父韻で表現されていますので、波形は「疎密波」(縦波)となります。「疎密波」(縦波)は、言葉だけでは分かりにくいかも知れませんので、以下のサイトを参照して頂くとわかりやすいかと思います。
名古屋市科学館のサイト『縦波と横波』をご参照ください。
これは、音波と同じです。音波は疎密波(空気の密度)で「縦波」とも呼ばれます。「密度」に向きはありませんのでスカラー波(スカラー場の波)※と呼ばれます。空間全体に「密度差」が伝わると言った方が分かりやすいかも知れません。
※スカラー (scalar) とは、大きさのみを持つ量のことを言います。 一方「大きさ」と「向き」を持つ量を「ベクトル」と言います。
スカラー波(縦波)については、以下の動画を見て頂くとイメージが掴みやすいと思います。
これは、縦波の動きをシミュレーションした動画です。
このようにバネのが伸び縮みするように、ひとつのスケール上で順方向と逆方向の動きが混ざり合ったような動きに見えます。(そもそも「向き」がありません)
ここで、前回の記事「ロゴストロン信号(その1)」の ”ロゴストロン Lの装置内部で生成されたロゴストロン信号の波形” の動きと縦波の動きを並べてみます。
どちらも似たような動きをしているように見えませんでしょうか?
以上をまとめると、ロゴストロン装置内部で縦波状の動き(スカラー波)で生成されたロゴストロン信号が、「ベクトル場の波」である電磁波により空間に送り出されている(搬送されている)というイメージの概念となります。
次回は、この空中に飛んだロゴストロン信号が如何にして人間に作用するのかについての仮説を、最近の発表されたレポートを引用しながら展開していきたいと思います。
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【鴨 奢摩他(かものしゃまた)プロフィール】
「方丈記」が好きなことと「止観」をあらわす「奢摩他(シャマタ/サマタ) 毘鉢舍那(ヴィパシャナ)」から自戒の意味を込めて「 鴨 奢摩他」と名乗る。
専門は、EMC(Electro-Magnetic Compatibility / 電磁波両立性)試験、品質法規全般。