【この記事深めます*後編】
精神科病院に関するとんでもない事態が起こってしまいました。
前編で考察に入るための準備体操をしましたので、後半はこの記事から考えることを、自分の精神科経験目線からまとめてみます。
この事件の疑問点
1)「入院させた長男の承諾がないと退院させられない」
記事の表現の問題かもしれませんが、医療保護入院の退院は、医師の決定のみでできます。
確かに家族の意思は確認するものですが、本当に医師がこう言ったのであれば、医師が説明をサボったか、妻を遠ざけるための言い訳(=長男の行動に加担)をしたと解釈されても仕方ないと思います。
「退院の許可は出しても良いんだけど、家族の人たちで意見の食い違いが無いように家族会議してね」
と、話すのが一般的かと思います。
2)長男のハナシのみを聞き、妻や次男の聴取を行っていない
宇都宮病院は、どこかで家族の意見の齟齬に気づいたと思うんですね。
誰か「なんかおかしい」と思わなかったのだろうかと不思議に感じます。
長男からしか得ることができない情報と、本人の様子を秤にかければ、長男の言葉に違和感を覚えるものなのではないかと思います。
認知症ではない人の言葉と認知症の人の妄想的な発言は異なるもの。
3)“宇都宮病院“で起こっている
精神科の専門職をしていて知らない人がいればパチモンとも言えるほど、誰もが知っている「宇都宮病院」です。
1984年 宇都宮病院事件
精神科の看護師が患者にリンチした事件です。
精神科の専門職はこれを教訓にして、患者の人権を考えます。
教科書に載るほどの事件を起こした病院が、再び世間を震わせるような事件を起こしたことが、とにかく不思議でなりません。
認知症の検査:長谷川式
「長谷川式」という認知症の検査があります。
ペーペーでできる検査です。
30点満点で、点数が低ければ低いほど、認知症の可能性が高まるというもの。
Aさんの結果は、
21点
20点を下回ると認知症の可能性が懸念されるので、正常と言えば正常ですが個人的には低く出たなぁと感じました。
千歩譲って認知症の可能性を指摘されても強く否定はできない感じでしょうか。
ただ、長谷川式はある程度高得点が出る・出ないことは珍しくないんですね。
なぜなら、生活に強く結びついた設問があるため。
例えば、野菜の名前を答えてもらう設問。
平均的に、現代の高齢者は女性が家事を担ってきましたよね。
生活に根付いている分、女性の方が良好な傾向な回答を出し、男性が答えられないことも珍しくないもの。
こんなカラクリがあるため、長谷川式を使う際は点数に盲信することなく、問診や別の検査で慎重に状態を観察するのが定石です。
一方、画像-MRI-は…
認知症の検査:画像
MRI
SPECT
認知症を科学的に検査できるのが、これらの機器です。
どちらも設備には莫大な費用が発生しますから、検査できる病院は限られます。
その分、長谷川式より正確な診断材料となります。
そもそも認知症は、オブラートに包まずに表現すると「頭を開いて脳みそを見て」みないと確定診断が難しい病気。
頭を開かずに中を観察するのが、MRIやSPECTの技術というイメージです。
宇都宮病院は、長谷川式だけで誤診したのかな?と、思ったら…
MRI検査を行っていますね…
これは由々しきこと。
長谷川式と異なり、MRIは嘘をつきません。
これで非認知症と言い切った病院の意思の強さに衝撃を受けます。
事件のこわさ
本当に長男の陰謀・病院の近視眼的な態度によって起こったのだとしたら、日本の精神科を見直す機会を設けたほうが良いのかもしれませんね。
Aさんは自ら声をあげてくれたため、一般の人たちに実態が届いたわけですが、氷山の一角なのではないかと恐ろしくなりました。
病院は必ず自浄作用が働くものですが、経営層の方針などでそれが機能しなくなると第二・第三の宇都宮病院が生まれかねないのでしょうね、、
精神科に働くワタシたちが改めて学ばなければならない事件だと思ったのでした。
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