boa viagem #001 「よい旅を」 by 写真家・新多正典
ちょうど昨年の今頃、PARK GALLERY の加藤さんに「ブラジルに行こうと思うから紀行文を note に書かせてもらえないだろうか」と打診していた。
3年間中断されていたカーニバルの再開を受けて準備をしていたものの、飛行機代の高騰と、続くコロナ禍の出入国規制に参ってしまい、自身を鼓舞する理由として思いついたのが note を書くことだった。
それでも昨年は断念。
ブラジルを挟み込む余裕もないくらいにコロナ禍対応の人生を進み出した自分にとって思いつく言い訳は山のようにあった。
そして、今年は?
自分に問いかけて、取り敢えず今年は行こうと決めた。
これが最後になるのか、続くのか分からないけれど。
とにかくこのひと月の精神の浮沈は激しかった。
寒さが厳しくなって早く日本を出たいと気持ちがはやる日もあれば、向こうでの過酷さを想像して後退りする日もあった。うまくいかないことはいくらでも想像できる。
だから再度お願いしてこの日記を始めることにした。
もしかしたらそんな気持ちの浮き沈みも言語記録にしていくのかもしれない。
ブラジルの公用語であるポルトガル語の boa viagem は英訳すれば、boa = good / viagem = trip 。
つまり、「よい旅を」。
旅人へのおまじないのような言葉をこの連載のタイトルにしたのは、僕が拠点とする Pina という街と海を挟む大通りの名前が同じ『boa viagem』と名付けられているからでもある。
大西洋へは Pina から歩いて10分。海岸線に伸びる boa viagem 。
ポルトガル語で『ファベーラ』いわゆるスラム街の Pina の喧騒と穏やかなリゾートゾーンは簡単に行き交いできる。
富裕と貧困。
日本では距離のある対極は、地球の裏側ではダイレクトに背中合わせだったことを思い出す。
つづく