
猫背で小声 season2 | 第25話 | 花火の華やかさに憧れたせいで
夏のある日、地元で花火大会があった。
ぼくは長い間、この花火大会を見る機会がなかった。このイベントには実は「恨み」のような気持ちがあって、見ることさえつらかった。
小学生で引きこもりに。毎年この花火がはじまると、家を出ることもなく、部屋の窓を開けては少し花火を見て、すぐに窓を閉めるということを続けていた。
花火を見る人はきっとぼくより人生を楽しんでいて、部屋に閉じこもるぼくは「ゴミみたいな人間」「外の世界を味わうことも拒否している」、そういった思いで部屋の中に居続けた。
花火が四方八方に飛び散ろうとも、ぼくの気持ちは窮屈なまま、夏でも冬。季節は変わらないままだった。

時は経ち2024年。今年も花火大会が開催されるという数日前、ぼくの行きつけのカフェの店長さんにこんなことを言われた。
「近藤さん、今度ウチのカフェで花火を見るイベントがあるんですけど参加しませんか?」
このカフェが開催するイベントにはだいたい参加しているぼくなので、いつものように参加することにしたのだが、「あの花火」を間近で見ることはよく考えてみるとぼくにとってはすごいイベントである。
複数の人と花火を見ることは久しぶりだし、フン詰まりみたいに出ることのなかった「あの花火」への想いを解消できると思ったからだ。
花火当日、身体を清めるために夕方にはお風呂に入り「よし行くぞ!」と玄関で靴を履き、自宅周辺をパトロールしはじめた。どんな人たちがやって来るのか興味があったから。
少し歩くと、普段の地元町には相応しくない人たちがたくさんいて、若者やカップル、インスタ投稿目当てに来ているようなきらびやかな女性たちとすれ違った。今日はある意味フェスなのかもしれないという気持ちを抱いた。
不審者に思われない程度にまわりを見渡すと、パリピもいるし陰キャもいる、なかにはどれにもあてはまらない人もいて、色んな人種や思想で構成されている地元町になっているのである。
クンクンとそしてギラギラといつも以上に嗅覚と視覚を研ぎ澄まし、カフェへと着いた。
店に入ると店長さんは花火大会のための夜営業の準備をしていて、ぼくはいつもと変わらないカフェでいつものようにコーヒーを頼んでは、座り慣れた椅子に座ると花火の音が聞こえてきた。
いつもより光をまとった地元町で、光が差して眩しそうな近藤学がここにいる。

コーヒーをグビリと飲み、店横にある観賞スポットに向かっては、どんな人たちが見ているのか目を光らせる。
遠くを見渡せばみんなの光である花火はそこにあるから、ぼくの花火に対する恨みなど柔らかく消え去るかもしれなかった。
もう目が何個あっても足んない。
ふと空を見てみると大きな木があって、花火が見づらいことに気づいたのだが、ぼくが子どもの頃、この木はなかったと記憶している。
でも、そう言えば木々も人も成長していて、引きこもりという「ドぎつい」ハプニングに襲われたぼくでさえも少しづつ成長していたのだと気づいた。、花火の見えない景色から、上を見続けた自分の人生に拍手を送った。
少し場所を移動すると花火が見えた。まわりの人たちはみんな上を向いてスマホで写真を撮っている。ここに集まっている人たちはぼくが長い間この花火大会を見ていないとは知る由もない。
特別な思いで今日を迎え、過去が清算される夜、頭の中ではフジファブリックの「若者のすべて」が流れており
「何年経っても思い出してしまうな」

カフェに戻ると、今日が久しぶりの花火大会だったということは誰にも言わないまま、店に来ている人たちと緊張しながらも話を楽しんだ。なぜかいまここにいて、ここに居ることを少しでも歓迎されているぼく。今まで生きてきていろんなことがあったけど、諦めないで良かったなと心から思った。
このカフェに行くことが日常になっていることを、昔の自分では想像できない。いまは、人と場所に恵まれている。
公園と公園。いつもはただの公園の片隅のベンチに申し訳なさそうに座っているぼくだけど、この公園では、みんなが気にかけてくれる事が嬉しくてたまらない。
人生で大きな花火をあげようとは思わないけれど、社会に出はじめて10年経つとある種の「野心」というものも出てくるし、友だちにアーティストとしての仕事が来るようになって、だんだん売れはじめていくことに焦りも覚える。
両親も歳を取り、生きている間にぼくの良い知らせを伝えたいという気持ちはあるが、よくもわるくも様々なことが次々と生まれてくる今というものに挫けそうになる。
昔のぼくには想像できない環境に置かれていることに、よろこんだり焦ったり、戸惑うことは多いけれど、昔とは違う「つらさ」を生きている花火の日。
揺れて
放たれ
思われて
自分と重ねる
花火のあと

絵 : 村田遼太郎 | RYOTARO MURATA 北海道東川町出身。 奈良県の短大を卒業後、地元北海道で本格的に制作活動を開始。これまでに様々な展示に出展。生活にそっと寄り添うような絵を描いていきたいです。 https://www.instagram.com/ryoutaromurata_one

文 : 近藤 学 | MANABU KONDO
1980年生まれ。会社員。
キャッチコピーコンペ「宣伝会議賞」2次審査通過者。
オトナシクモノシズカ だが頭の中で考えていることは雄弁である。
雄弁、多弁、早弁、こんな人になりたい。
近藤学 SNS
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