ワクワクとソワソワ #4 「好きなものを描く」 ー 織田知里
石川県出身の私は、常に自然が身近にあった。
家から見える景色は、山があって遠くに白山が見える。目の前は田んぼで、
田んぼが表現する春夏秋冬は本当に美しい。夏の夜のカエルの合唱は、うるさ過ぎて文句を言いたくなるレベル。でもその景色は自分にとって当たり前だったため、特になんの意識もしていなかった。
しかし東京に住むようになり、都会の景色にも慣れていった頃、帰省するために乗った新幹線の窓に映った山を見て、あれだけ山が身近な存在だったにも関わらず、なぜか「山だ!!」と珍しいものを見たかのような気分になった。それをきっかけに、山に対する興味が湧いてきた。
実家に戻ると、山を観察することが日課になった。山が近いこともあり、一本一本の木や、時間や季節で変わる色の変化、霧が発生しているところ、空や雲とのバランス、、とにかく観察すると面白くて、「あ〜この景色描きたいな〜」と強く思わせてくれる。それからというもの、私は山を描くことにハマってしまった。
山を描くときは、とにかく自由な気持ちでいられる。
形も色も、筆のタッチもその時の気分。上手いも下手もあまり関係なく、ただ夢中になれるその瞬間が大好きで、その気持ちはイラストレーションの仕事をする上でも大切にしている。
仕事の依頼がくると、毎回「ソワソワ」してしまう。嬉しさももちろんあるが、緊張や不安もある。でもそんな気持ちで描いた絵は採用されない。そのことに気づき始めてから、私は「いつも描いている山のように描こう。」と自分の中で唱えるようになった。すると不思議と、描くことへの緊張は無くなりのびのびと描けるようになった。好きなものを描くという行為は、自己満足だけではなく、絵を描く上での大切な気持ちも気づかせてくれるものなんだと強く感じた。
これだけ、山が好き。描く事が好き。と言っておきながら、登山の経験がほぼないことが少しだけ恥ずかしくなってきたので、今年こそは登山に挑戦してみたい。きっともっと山を描くことにハマるだろう。
織田知里