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風のつぶやき #01 「絵を描いてる」 理由 | 小田佑二

阿佐ヶ谷美術専門学校を卒業してから20年くらい。
僕が「絵を描いてる」期間だ。
ただ、むっちゃ絵を描き続けてたわけでもなく、テレビ、漫画、ゲーム、飲み会などの娯楽や誘惑に負ける事も多かった。無駄に真面目な分、自分を律して無理やりに絵を描くこともあったが、心の中ではめんどくせ。と思いながらやってるのでたいして絵も描かず、休憩と言いながら漫画を読み、もうこんな時間かと就寝するという具合の20年だ。

そんな中、20代の頃は、自分がなぜ「絵を描いてる」のかわからなかった。
「なんで絵を描いてるの?」と聞かれると答えられなくて確かな理由を持ってる人に対してコンプレックスがあった。
まぁ、今も実際よくわかってないのだが。
「絵を描くのが好き」という全員が持ってる返答以外に答えがなかったし、娯楽や誘惑に負けていた実績から「絵を描くのが好き」とは言えない気持ちもあった。

因みにだが、
現在は当時よりも「絵を描くのが好き」だ。これは一重に、長年にわたって己にかけ続けてきた「絵を描くのが好き」催眠の成果だろう。この自己催眠とは心の中で「楽しい、好きだ、楽しい、好きだ」と連呼しながら作業を進めていくもので、1時間くらい連呼していると不思議と楽しくなってくる。絵以外にも、面倒なデスクワークでも有効なので是非お勧めしたい。

話がずれたが、
当時は「俺が表現したいのはこれだ!」というものも特になく、描きたいものもはっきりせず、ただ描いてる感じの悶々としていた時期だった。

そんな中、
25歳の冬にヨーロッパ大陸を1ヶ月半かけて周遊した。
目的は各地の美術館やギャラリーを周ること、
学生時代から大竹伸朗の本に触発されていた僕にとっては念願の旅行だった。

お金は節約で宿泊はドミトリーホテルで一番安い部屋だった。
なので、いく先々の部屋には常にバックパッカーがいたし、20人部屋で宿泊した時もあった。

昼間は街を散策しながら美術館やギャラリーを周り夕方くらいにホテルに帰る。
貧乏旅行だから夜に出歩く事も特になく、スマホなんてないから割と時間を持て余した。

旅行中に沢山スケッチをしようと考えていた僕は、それまでバイトしていた会社で廃棄となった厚紙を大量にもらい旅行に持参していたので、それに絵を描いて時間を潰していた。
訪れた場所、見た景色、看板、そこに居た人、などを記録的に描いていた。
うまく描けようが、描けなかろうが関係なく、とりあえず描いて時間を潰していた。

すると、意外とよく話しかけられるのだ。
何描いてんだ?から始まって、似顔絵を描き、持参したポートフォリオを見てもらったり、おすすめの場所を教えてもらったり、旅の話などをしているうちに仲良くなった。
お菓子をもらったり、飲み物をもらったり
ある時はご飯にも連れて行ってもらえたり。

この出来事は英語が話せない僕にとっては大きく自信になった。
相手の話がわからない時は、紙に書いてもらって意味を理解した。
話が盛り上がって気づいたら、飲み会になってたこともあった。
まだ帰ってきてない同部屋の人に向けて、地図を描いてこれから行くお店の場所を伝えた事もあった。
20人部屋に宿泊したとき、同じ宿泊客の男の子が「次はアイツを描いて」って指定した人の似顔絵を描いて二人で爆笑してた事もあった。そしてその子からはフランス語の挨拶を教えてもらった。

旅が進み色々な国の人たちと会っていく中で、
絵を描くことが、他者と自分を繋ぐコミュニケーションのツールになっている事に気づいた。
それは自分が今まで知らなかった絵の機能を体感した瞬間でもあったし、そうやって生まれるコミュニケーションを僕は楽しいと感じていた。

絵って便利だぁ!
これが素直な感想だった。

今、僕は地域の人とワークショップしながら一緒に絵を作り上げる壁画プロジェクトをしている。
コミュニケーションをとりながら地域と繋がり、その地域に合う壁画を描くプロジェクトは、ヨーロッパのホテルの一室で起きた事と似ている。
今僕がやっている事はヨーロッパでの経験が原体験になっている。
絵を描く事は僕にとってコミュケーションツールの1つだ。
ヨーロッパ旅行は「絵を描いてる」理由が見えた転機となった出来事だった。

余談だが
ニースのヌーディストビーチを訪れた際、トップレスで戯れている男女グループがいた。
当然おっぱいに目がいってしまうのだが、見てるだけだとただの怪しいヤツなので
スケッチをする事で怪しさを中和し、その場をやり過ごした。

絵って便利だぁ


絵描きの小田佑二による連載『風のつぶやき』では、絵にまつわる自分事をご紹介します(「風のつぶやき」とは父が発行していた家族新聞のタイトルです)。

小田佑二
秩序ある即興のパターン化をテーマに、見た・聞いたことからのインスピレーションや情景を線や面の構成で表現している。 六本木アートナイト、GOOUT CAMP、FUJI ROCK FESTIVAL など、イベントでのライブペイント、ペイントワークショップや国内外での壁画制作・作品発表をはじめ、書籍、音楽、ファッションなど様々なジャンルのアートワークを手がける。
https://www.instagram.com/odarian

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