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【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ㉞ 長尾 昌樹 『いとおかし』(東京都狛江市)

ZINE の中でも、いわゆるネット印刷、プリントパックやグラフィック(個人的にはグラフィックの方がクオリティ高い印象)で刷られて、そのまま本として納品されるものもあれば、家庭用のプリンタなどで印刷して1つ1つ製本してるものと大きく2つ分かれます。どちらがいいとは一概には思わないですが、手作りで製本されてるのを手にするとあたたかみを感じますよね。ハサミやのり、テープ、様々な道具が随所で生きていて、好きです。ちょっとずれてたり、糊がはみ出て黒ずんでしまっていたり。表紙や途中で紙を変えたりする演出も、手作りならではですよね。手作りすぎて怨念さえ感じる ZINE も、世の中にはありますよ。あたたかみ超えて背筋が凍る。ナンマイダーナンマイダー。

1つ1つ手作りはむずかしいけれど、製本したものに1つだけ手をくわえるというのは誰でもはじめられますよね。表紙の題字だけ手書きにしたり、ホッチキスでおまけをつけたり。今回、高いクオリティで評判を得ている雑誌『LOCKET』も、1冊1冊、表紙にコーラの瓶をステンシルしてるというから驚きです。会場にお越しの際はぜひ、そういった作者の『手作り』に対する『工夫』もみてもらえると、楽しいかなと思います。個人的にはトレーシングペーパーを上手に使ってる作品にグッときます。

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顔を上げろ 手足を動かせ

手作りで切り貼りされた表紙が印象的な ZINE『いとおかし』。少し不器用ささえ感じるくらいの手仕事に、人肌の温度を感じることができる。最近、誰かの写真をみていてもなかなか感じることのできていないあたたかみだなと表紙の時点で思った。最近の若い写真家はどうも器用で、写真も「フィルムを使ってます」くらいの温度しか感じさせてくれない。笑顔なら楽しい。とか、泣いてたら悲しい、とか。それって単なる色温度と感情。ぼくが見たいのは撮る側と、被写体との間に流れている血や空気の、混ぜて2で割ったような温度なんだよね。『いとおかし』の作者・長尾 昌樹さんの写真からは、ぼくが見たかった『写真』の『温度』が写ってる。なんだろうね。堂々と、被写体に向かって、胸ぐらを掴むように撮る=エゴイスティックでエモーショナルな写真に見飽きてるからかもしれないけれど、少し、照れながら、静かな声でやりとりしながら、ニヤニヤと笑いながら、撮る、生々しい、初セックスみたいな写真がやっぱいいよね。「そこに立って」っていうゆっくりとした空気の中でのコミュニケーションが、写真にうつってて、まさに「いとおかし」くらいのテンション。

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ぼくも転校をしてきたからわかるけれど、誰かと向き合う時に、1枚の透明な幕みたいなのが必ずできてしまう。どれだけ仲良くなっても。ぬぐえない。それを壊さないといけないのが写真家のセオリーだったけれど、あえて逆手にとることで、こんなにやさしい写真がしあがるんだと思った。こればっかりは才能だよね。後天的に養えるモノではない。今後の彼の作品にもどんどん期待したい。その幕を、どうかこれからも壊さないで。


レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


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作家名:長尾 昌樹(東京都狛江市)
名古屋ビジュアルアーツ写真学科卒。
コマーシャルスタジオ勤務を経て独立、現在フリーランスとして活動。
https://masaki-nagao.com
【 街の魅力 】
緑が豊かで川がある。
【 街のオススメ 】
富の湯 … 昔ながらの銭湯で憩いの場です。
https://twitter.com/tominoyu_komae
【 同じ地域で活動するひと 】
いなげくん / イラストレータ
まさはるくん / 写真家






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