COLLECTIVE レビュー #02 reo 『ポケットにチル湯』 (奈良県)
今日からCOLLECTIVE 。レビューの執筆を再燃させる。去年までは届いた順に書いていたけれど、今年は順不同で書くことにした。理由は特にないけれど、例年より公平性とか客観性ではなく、主観と私感を含めてより感覚的にレビューしていけたらと思っている。相対的にどうか、というのは、あまり最近は重要じゃないような気がしている。たくさん言いたいことはあるけれど1000文字程度でまとめていこうと思う。続きは会場で。
COLLECTIVE 2022 ZINE レビュー #02
reo「ポケットにチル湯」
1枚の写真。少し不思議なタイトルに、おそらく作家名の reo 。そして「インスタの投稿をただただ集めました。」とポップアップされたメッセージ。全国から届いたたくさんのZINE の中、ひときわリラックスして見えたのがこの、ポケットサイズの ZINE「ポケットにチル湯」だった。思わず手に取ったのは、この「リラックス」という感覚が ZINE には大事だってことを少し忘れていた気がして、ドキッとしたからだった。2冊目に紹介するのにふさわしいと言える。
― 歴史と文化の街・奈良から届いたのは、2017年秋に、あることがきっかけでハマってしまったという「銭湯」の日記とも言える1冊。日記といっても、銭湯に行くたびにインスタに載せてきた銭湯の外観写真と、短めのキャプションで構成されたシンプルなもの。まさに紙に刷られたインスタを手でめくっているというような感覚。いいねを押したくてもボタンがない。誰かにシェアしたくてもかんたんではない。それがまた心地よくて、何人かの銭湯好きに送りたくなってウズウズしている。そんなことより200円でこれを買って、ポケットからサッと取り出し、プレゼントするのがずっといい。
内容にいたっても昨今のサウナブームに便乗した軽薄さがまるでなく、2020年の発刊とはいえ、「ととのう」という言葉も出てこないのが信頼に足る。独自の「#チル湯」という造語で、一点突破だ。キーワードを散りばめたような文体からは、番台に座る明るいおばさんや、銭湯で気持ち良さそうにしている常連の顔が浮かんでくる。みずみずしい水風呂の描写も魅力的だ。そして関西から離れ、北陸の方へと向かう旅路は、ちょっとしたロードムービー気分。「水曜どうでしょう」のくだりに強い共感を抱く。
極め付けはそれぞれの写真。風呂上がりに冷たい水を飲み干し、見上げたその視線の先の外観というような風景が並ぶ。2枚も3枚も紹介したくなりそうなところをそっと1枚といういさぎよさもたまらない。少しノスタルジックな気持ちになるのは、なんでだろう。レトロな銭湯のせいか、インスタを紙にして「返り見る」という行為のせいか。
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何にせよ、好きなことを好きなままに。思ってることを思ってるままに。できることをできる範囲で。編集もアプリと無料ソフトを使っているというから、これこそまさに2020年代の ZINE の新派。もしくは次世代の源流といってもいいと思った。もっとみんな気楽に楽しもう。もっと気楽に作ろう。そんなふうに思う。
生みの苦労はあって当然だし、少しならいいと思うけれど、ZINEってもう少し、リラックスして作れるものだと思う。作られるべきというか。いま少し作るにあたって辛い想いをしている人がいるのであれば、相談してほしい。そうじゃない方法があると思う。
ちなみに「ポケットにチル湯」は5冊しか入荷ないので、みなさんお急ぎください。COLLECTIVEでは毎年何冊かパーク的<買い>のZINEが出るのですが、今回はこれです。
レビュー by 加藤 淳也
---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----
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