COLLECTIVE レビュー #24 波入る宿『なみいるやど』(富山県)
毎年、「47都道府県」をキーワードに全国各地から ZINE を募集し、展示・販売するエキシビジョン COLLECTIVE。毎年、東京に集中するにせよ、全国から個性豊かな ZINE が集まってくる。地域性や県民性に期待してはじめた企画ではあったが、思いのほか、ローカリティは出なかった。大阪から届く ZINE は派手、とか、東北の ZINE は余白が多いとか、多少感じたことはあったけれど、今となっては大きな違いはないように思う。
とは言え、その土地でしか作れない、その土地ならではの ZINE というのは毎年必ず現れるから面白い。「地域の活性化における ZINE というメディアの有効性」という報告書をまとめて某大手企業の研修で2時間講演をしたことがあるくらいだ。
その土地に暮らし、その街の魅力やそこに暮らす人々を描き、発信するというタイプの ZINE が各地に点在している。それはフリーで配られていたり、小さな書店で販売されていたり、こうした ZINE マーケットに出店されていたりする。 クライアントから制作費を預かることなく、忖度などなく、ライフワークの中から発信される情報は、まっすぐで気持ちがいい。
COLLECTIVE 2022 ZINE レビュー #24
波いる宿「なみいるやど」
ZINE を読み終えて、もっとこういうクリエイター、編集者、表現者が、全国各地に増えるといいなと心の底から思った。
富山県は滑川市を拠点に活動をする「波入る宿」は、全国各地を旅して、ゲストハウスとそこに集まる人同士の一期一会の交流に魅せられた今井悠斗さんと、大学院生としてリノベーションを中心とした建築やまちづくりを学んでいる丹羽悠華さんによるユニット。ふたりが描く架空の宿「波いる宿」の宿主として、展示やそれにまつわる ZINE を発刊するという活動を行なっている。
おもしろい。
48ページにわたる ZINE「なみいるやど」には、実際に、宿のコンセプト、名前の由来、宿を開くにあたってのビジョン、問題提起から解決のための提案などが、エッセイやコラム感覚で描かれている。荒削りではあるけれど実直なイラストやグラフィックで楽しく読める感じもあれば、もうすでに宿をはじめてるのではないかと思わせる、まるで実践者のような鋭い視点に驚く。現場でいろいろ見てきたからこその言葉たち。
読み進めていると、どんどん滑川のことが気になってきて、かつ二人がオープンさせたいと願っている架空の宿に行きたくなってくる。がんばれと心の中で応援し始めているぼくがいる。滑川で宿をやる、ということが「自分らしく生きる」ということにも重なってくるので、ゲストハウスやまちづくりに興味のない人でもすっと入ってくると思う。ぜひ共感してほしい。
そして「波いる宿」という名前が本当にすばらしいと思った。「なみいる」の意味は、ZINE の巻頭に描かれているので、ぜひ手に取って、開いてみてほしいと思う。実際に役に立ちそうなマップがついてるのも◎。
こういう ZINE 作家が、全国に増えますように。きっと街が、日本が、元気になると思います。
レビュー by 加藤 淳也
---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----
【 ZINE について 】
今井が学生時代、日本国内を旅していたときにゲストハウスと出会い、知らない人同士が一期一会に交流できるところに大きな魅力を感じた。いずれ地元富山でこんな宿を開きたい …… と思い立ち、建築のリノベーションに携わることを目標とする丹羽とともに、滑川での活動を始めた。といってもすぐに開くことは資金的にも技術的にも困難であり、まずは私たちのことを知ってもらおうと、架空の宿を「開業」した。その第一歩として2022年6月に、古本いるふの屋根裏で展示「なみいるやど」を開催。それに合わせて、私たちのいま思うことを詰め込んだ ZINE「なみいるやど」を制作した。