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【 完結 】 汽水域 #11 | 2024.11.12 午後 0:03 ー 阿部朋未
この連載は写真家の阿部朋未・今井さつきによる往復書簡です。過去のやりとりをまだ読んでいない方はバックナンバーよりお楽しみください。
今井さん、お元気ですか?
最後に便りを書いてから随分経ってしまいましたね。
展示もあっという間に終わって、まるで何事もなかったかのように昨日の続きみたいな日々を過ごしています。時の流れは目に見えないけれど急流で、その合間になんとか一瞬立ち止まって思いのままに書いてみようと思います。
改めて、この度は一緒に展示をしてくださり本当にありがとうございました。この往復書簡のやり取りにも現れていますが、決してテンションの高い展示及び制作ではなかったはずです。常にローテンションというか、結果的にお互いの身の回りでいろんなことがありすぎて、そこから普段の思考やこれまでの人生で感じたことが浮かび上がってきたゆえに一旦立ち止まざるを得なかったというか。私自身、完遂できるかとても不安でした。今井さんや PARK の加藤さん・いのうえさんと一緒じゃなきゃ、誰か一人でも欠けてしまったらこの展示は絶対に出来なかったとさえ思っています。それくらい、今回の展示は今までで最もうなだれていて弱々しい状態で向き合いました。
壁一面に展示された写真、見事に「境界が曖昧」でしたね。沢山の方が観に来てくださった中、いくつもの写真を眺めながらみな口を揃えて「二人のどちらが撮ったのかわからない」と話していました。でも、誰ひとりと困惑することなく「わからない」ことを楽しんでいる様子でした。なんだかそれが嬉しかったです。二人の写真の境界が曖昧なことで、展示作品を自分事として捉えやすくもあったのかなぁと、答えのない問いに対して一緒に考えて悩んでくれたことが嬉しかったんだと思います。
今振り返ると、無理やり綺麗にまとめて、良く見せようとしていたのかもしれません。展示も、作品も、自分自身も。見栄を張るとか取り繕うとか、無意識のうちにそんな力が働いていて、力が働けば働くほどにボロが出てくる始末でした。正直、みっともなかったし格好悪かったです。けれど、こうやって今井さんと対話を重ねていくごとに、現在の自分の状態を(時折腹をくくりながら)受け入れられるようになっていきました。まだ本調子ではなくて、こんな状態がいつまで続くか不安もありますが、今のところは素直に受け入れてぼちぼちやっていこうと思います。 “その時” が来たら自然と物事も動くだろうし、流れに身を任せながらそのタイミングに向けて力を蓄えつつ。
こんな調子だったので展示に向けての写真も沢山撮れるはずもなく、貴重なシャッターチャンスも数えきれないほど逃しました。でも、無理やり撮ったところで果たして「良い写真」になっていたかというと違う気もしたのでこれで良かったのかもしれません。今井さんと同様に、展示の方針があらかた決まりつつあった中で撮った写真はセレクトや実際の展示から外れました。やっぱりどうしてもはまらなかったんですよね。瞬間瞬間で作為的になるのではなく、自分にとっての写真作品は日常と地続きであることが必須なんだと改めて感じました。しかも、このやり取りのようにある程度言語化した上で。でないと、自分の感じたことや気持ちが上手く咀嚼出来ないまま日々の忙しなさで忘れてしまい、もやもやした感覚だけが残り、それが地層のように積み重なっていつしか心が動かなくなってしまいそうな気がしています。自分の中で鋭い核を作って磨くには、私にとって写真も言葉も同等に大切であり必要なものなのだと今回の制作と展示を経て気づきました。
それでも、展示からは外れたものの制作期間の終盤に撮ったフィルムが在廊中に現像から返ってきたので仕上がりを見てみたら、今までの写真と一味違う感じに見えたんです。もちろんこれまでの写真と地続きなんですけど「あ、次のフェーズに入ったな」ってわかるような、そんな写真でした。
今井さんと私は互いに異なるキャラクターですが、この広い世の中にこんなにも自分と近しい視点や考え方を持っている人がいるのかと驚いたのと同時に少し安心しました。お互いの寂しさや孤独、生きづらさは全く同じではないけれど、「ひとりじゃないんだな」と思いました。それは仲間意識や同志とかではなく、言うならば”真っ暗闇な海の上で自分以外の船の光を見つけた”みたいなところでしょうか。だから、いつかまた一緒に展示ができるその日まで光を絶やさずにいようと心に決めました。また一緒に展示できた時にはどんな写真が並ぶのか、今からちょっと楽しみにしています。
![](https://assets.st-note.com/img/1732531873-Sl4mGAboaNfKsge0ZyIUn1jT.jpg?width=1200)
公に行うやり取りはこれにて一区切りになるかと思いますが、これからもどうか交流(って言い方だとなんか堅苦しいですが)できたら嬉しいです。というかそもそもまだ直接会えてないし!お客さんも仰ってましたが、結局展示の最後まで会えなかったなんて面白いですよね。でも、いつまでも会えないのはさすがに寂しいので来年は今井さんに直接会いたいです。ただ、直接の対面だとこの文面の三割り増しくらい口下手になるのでそこはすみません ……。今井さんに話したいことはまだまだあるのですが、それは直接会えた時のために取っておくことにします。
年末の足音が徐々に聞こえて来ましたね。これからさらに寒くなってくると思うので、どうかお身体ご自愛ください。
また PARK でお会いしましょう。
阿部朋未
2024年10月23日(水)~ 11月3日(日)まで PARK GALLERY で開催していた、阿部朋未と今井さつきによる写真展「汽水域」は閉幕しました。ご来場いただいた皆さま、連載をご覧いただいていた皆さまありがとうございました。
阿部朋未(アベトモミ)
1994年宮城県石巻市生まれ。
尚美ミュージックカレッジ専門学校在学中にカメラを持ち始め、主にロックバンドやシンガーソングライターのライブ撮影を行う。同時期に写真店のワークショップで手にした"写ルンです"がきっかけで始めた、35mm・120mm フィルムを用いた日常のスナップ撮影をライフワークとしている。2019年には地元で開催された『Reborn Art Festival 2019』に「Ammy」名義として作品『1/143,701』を、2018年と2022年に宮城県塩竈市で開催された『塩竃フォトフェスティバル』に SGMA 写真部の一員として写真作品を発表している。2023年3月、PARK GALLERY にて個展『ゆるやかな走馬灯』を開催。
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