【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ㊵ ヤスダ リナ 『気になるあの子』(東京都杉並区)
2000年の中頃、フィルムが主流だったファッションやコマーシャルの業界にもどんどんとデジタルカメラの波が押し寄せてきた。当時、写真家の営業代行やマネジメント、プロデュースをする会社で働いていた僕にとって、写真家が1回の撮影で使用したフィルムの本数や現像数などの金額を計算して、出版社や広告代理店に提出する見積もりを作るのも1つの大事な仕事だった。ある日を境に、フィルム代の項目はなくなり、かろうじてプリント代のみを見積もりに載せるようになった。印刷をするのにどうしても、色見本が必要だったので、アナログで残った作業はそこだけだった。デジタルだから安く済む、と思われないように(実際にデジタルだからこそかかる費用というものは存在する)写真家たちは現場で写真をリアルタイムでモニタリングするためのモニターのリース料や、パソコンでのレタッチ作業代などあの手この手で、デジタルの金額を下げずに戦った。ウェブや SNS がメディアの主流となり、雑誌が売れなくなり、ファッションカタログがあまりものを言わなくなっていった、そんな時代の流れに寄り添うように、フィルムもデジタルも淘汰されていった。もう完全にフィルムの時代は終わったなと、業界の誰もが思った時期というか、そういう季節だった。デジタルでは写真に携わる仕事、燃えなくて、少ししてやめてしまった。
独りよがりだけども、その人の世界が詰まった唯一無二のもの
それから約10年後。2010年代になって状況がまた変わった。フィルムを「珍しい」と感じる若い世代が、「写ルンです」や中古のコンパクトカメラを使い始めるようになる。音楽業界でもレコードを通り越してカセットテープが流行り始める。雑誌やファッション業界も、一周したと言うか、飽きたのか、フィルムに回顧するような表現が増えた。SNS のせいで質感のない『デジタル』に嫌気をさした人たちが、人肌を求めるかのようにアナログに走ってるのだろうか。
東京からエントリーしてくれたヤスダリナさんも、フィルムカメラを愛する若者の1人だ。彼女の ZINE『気になるあの子』は、実際にヤスダさんが気になっている女の子を東京のあらゆる場所で撮影した1冊。しかもすべてフィルムで。当時ぼくらが PHOTO ZINE を作る時は、特にフィルムやデジタルといった選択肢がなかったので、当たり前のようにフィルムカメラだったから、特にフィルムだからといって新鮮に感じることはないのだけれど、改めて見て、きれいだなと思う。デジタルでは撮影できないその場所の独特の空気感のようなもの、奥行きのようなものが撮れている(場合が多い)。同じ景色でも湿度や、光の周り具合で、情報量というものが本来、違う。それをデジタルはきれいにきれいにコモディティ化してしまうので、今回の ZINE のような『ちがう街』を『同じ人物』で撮影するときに、アナログのよさが、一気に溢れ出る。3箇所すべて同じ女性とは思えないくらい、女性のアイデンティティ以外の、情報がちゃんと写ってる。街を分けて正解だ。見てて同じところに立ち会ったかのような気分にさせる。たばこのにおいも漂ってきそうだ。
80年代っぽい服、80年代から変わらぬロケーション、80年代から変わらないカメラやフィルム、なのに、2020年間が漂うのだから不思議だね。時代っていうのは。メイクかな。
今回の COLLECTIVE に参加してる作品には、#01 というのがとても多い。ワクワクする。#2 も #3 も楽しみになる。もっと見たいなと思わせる1冊でした。
もっと見たいと思ったら
https://www.instagram.com/yassan_ohyeah
こちらにいい写真たくさん載ってますよ。1ついうならば既視感のあるフィールドから1歩外に飛び出すともっともっと写真がよくなると思いました。見慣れた街もいいけれど。
レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)
作家名:ヤスダ リナ(東京都杉並区)
1995年青森生まれwebデザイナー。趣味はフィルムカメラとトイレの流すボタン集め。近所の居酒屋でもつ煮とバイスサワーと銭湯が好き。
https://www.instagram.com/yassan_ohyeah
【 街の魅力 】
居酒屋と銭湯が多い。銭湯の後、乾杯したらみんな友達になれる。
【 街のオススメ 】
① 小杉湯(銭湯) ... 仕事の疲れや悩みも交互浴で整えば解消される。
http://kosugiyu.co.jp
② バクダン(居酒屋) ... 入り辛そうな見た目とは裏腹に常連さんでアットホームなお店。その雰囲気に惚れ込んだら、リピート率高め。
https://tabelog.com/tokyo/A1319/A131904/13079108
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