よむラジオ耕耕 #06 『心の旅』
※ よむラジオ耕耕は、ラジオで話していないことも加筆しています。
加藤:パークギャラリー の加藤 淳也です。
星野:PUNIO の星野 蒼天(そら)です。
加藤:ラジオ『耕耕』ではみなさんの意見や悩みを投稿フォームや SNS の DM で募集しています。今日はせっかくなので5月の収録に向けて集まった相談やリクエストに応えられたらと思います。
小さなことからコツコツと
星野:では今週のお便りを紹介します。
加藤:うーん難しい質問だね。まぁなんだろう⋯そもそも25歳で自信を持つことの方が難しいんじゃないかなぁ⋯。あくまで僕の体験だけど、僕がそのくらいの歳、いわゆるバーテンダー時代だったんだけれど、だいたい社会人3年目までは自信なんてものはなくていわゆる『根拠のない自信』を掲げていたように思う。
星野:根拠のない自信ですか。
加藤:そう。でもそれって人から見たら滑稽だったのかもしれないし、いま冷静に考えれば自信なんてなかったから「自信があるふり」をしていただけだったのかなとも思う。でも、自信ない顔で仕事はできないじゃない。相手を困らせてしまうから、ある程度はわかっているフリしないといけない。仕事していると誰でも「嘘でも胸を張らなきゃいけない瞬間」てきっとあると思うんだよね。最初はわからないこともあると思うし、その「ハッタリ」は悪いことじゃないと思うんだよね。でも、大事なのはそのハッタリに違和感を覚えるかどうか。例えば自分のいまの仕事の状況を第三者に話してる時に、自分に嘘をついていないかどうかには敏感になった方がいい。その違和感や嘘を自分の中で正していくと、結構「自信」につながっていくのかと思ってる。「自分のことをとにかく話して現状を確認すること」と「ハッタリでもいいから何を言われても返せる能力」は自信になっていく気がするね。
星野:確かに仕事中は自身のない顔はできないですね。とはいえハッタリを言うと、言ってる自分に違和感を感じる時があります。
加藤:僕の場合、バーテン時代に社会性を完全に失ってしまっていたからね。就職してから最初の3年間はほんと手探りだった。いっつも怒られるし、怒るどころか胸ぐら掴まれたりもしたしね。もちろん自分が悪いんだけど⋯自分の至らなさで不甲斐ない思いをすることの方が多かった。その度にくじけて泣きそうだったけど、その度に「くじけてちゃダメだ」と思って自分を奮い立たせてきた。いろんなやり方でリカバーして、トライ&エラーをコツコツと積み重ねていくしかないと思ったよ。
星野:コツコツっていう表現が出るとは思いませんでした(笑)
加藤:もっと派手で大胆なアドバイスしたかったけどね(笑)。でもずっとコツコツ地道にやっているといつの間にかどんどん気がめいっちゃうから、たまに息抜きは必要だと思う。当時思っていたことだけれど「息抜き」で大事なのは「少しでも多く人と話すこと」。あとは「できるだけ自分に興味ない人と話すこと」だった。同じジャンルとか同じ属性の人としゃべっていると、ライバル同士じゃないけれど、無意識のうちにお互いを刺激しあってて、知らないうちに疲れていたり、帰ってひとりになると心が折れたりするってことが起こりやすいからね。だから、なるべく自分のやっていることと全然関係のない人たちや、あとは地元の友だちとかとしゃべると、勇気もらえたり自信につながったりすると思う。あとは褒めてもらうことも大事だと思うよ。僕の場合はまったく違うジャンルの仕事をしている友人たちと定期的に飲みに行ったり、遊んだりしてそれを実践してた。パートナーと話すのも手かもね。
『逃げ道』や『抜け道』を常に作る
加藤:あとは、これは結構社会でうまく生きる「コツ」だと思っているんだけど、仕事以外の生きがいややりがいを持っているとバランス取りやすいかなと思う。僕の場合、休みの日には自分の表現活動として友だちと ZINE を作ったり、音楽活動を通じて社会性とはまた逆のアクションをしていたから、会社でミスったり自信がなくなってくじけたとしても「社会が僕を求めてなくても関係ないです」「自分の表現活動をし続けます」って姿勢を崩さなかった。ある意味、『逃げ道』や『抜け道』を常に作っていたんじゃないかなと思う。「まだ本気を出していないだけ」というか(笑)。
星野:前のラジオでもみんなで音楽やったり ZINE を作ったりしていたと話してましたね。
加藤:いま思えばだけど、創作を通じて、自分の視点に第三者の視点を取り込むことで自分のフィールドを広げるということをやっていたんだと思う。会社や仕事をしてては知り合えない人たちと、一緒に何かを作ることによって、いわば「コミュニケーションのフィールドを広げる」ことをしていたんだと思う。例えば「お前は写真を見る目がない」と会社で言われてしまったら、写真をやってる友がちと、全く写真に興味がない友だちと一晩飲んで写真について話してみると、写真のことが少しわかった気にもなるし、写真なんて見れなくても大した問題じゃないと思えたりもする。うっかり偶然、写真の中に何を見ればいいのかが見えてくる時がある。
星野:なるほど。会社の中だけが社会じゃないという感覚ですね。
加藤:会社内だけで抱えてる問題や課題を処理しようとするのではなくて、会社じゃないところに会社の事情をこっそり持ち込んでみたり、会社に自分の個人的な事情も持ち込んでみたりを繰り返していくと、ちょっとづつ「仕事のわたし」と「普段のわたし」に境界線がなくなって「自分らしさ」を取り戻すことにつながっていくと思うんだよね。オフの時もオンの時も変わらなくなっていくというか。課題が会社にあるんじゃなく、いかなる時も課題解決をするための俺がいつもいるようになる。
星野:なるほど。課題解決のためにずっと仕事のことを考えろ!って単純な話じゃなくて、それぞれのコミニティで抱えてる問題をいろいろな場所に持ち込んで常にいろいろな角度から考えてみるってことですね。
加藤:そうそう。それは休日も捧げて社畜になるってことじゃなくてね。それをしていくと仕事プライベートがピントを合わせるように段々重なってくと思うんだよね。今でも大きなプロジェクトに関わる時は自信ないし不安だけど、「ここは譲れない」「これはムカつく」ていう気持ちを積み重ねてくと、悔しいと思うこともあるけれどいつの間にか「最後までやりきる」ことに向かっていく。自信を持っていようといなくても、最後までやることの大切さに気づくと思う。だから、自信はなくていいと思う。その代わり、細かく自分の中の『譲れないこと』『ムカつくこと』『嬉しいこと』をていねいに気付いて集める俊敏さとか、自分の気持ちの細やかな調整、ストレス発散みたいなのをできればいいのかなって思ったりするけどね。
星野:自信なんてなくていいっていうのは斬新ですね。
加藤:うまく答えられたかはわからないし、これに正解はないと思うから、あくまで参考程度にしてもらえたら。ただ、僕は結局、仕事をはじめて6年くらい経たないといわゆる世間的に「自信」と言われている自信はついてこないように思うよ。それはいま僕が自信あるかないの話じゃなくて。相対的に自信があるかどうかを測るなら、アシスタントや部下ができるとかの方が重要かも。自分の下が育てば、自信があると感じるようになるんじゃないかな。つまらない答えかもだけれど⋯。でもちゃんと若い時から自信を持って自分を強く主張して成功してる例もあるはずだから、あくまで僕の話は参考程度に捉えて欲しいです。でもきっとこのラジオを今日まで心地よく聴いて感じてくれてる人は、この回答がきっと役に立つのかなと信じています。
星野:「成功するためにはこれをしろ!」というアドバイスよりも正直で、ためになりました。
加藤:ありがとう。
自信があったところで何も変わらない
加藤:ところで星野くんはいま社会人として働いていると思うけれど、自信はあるの?
星野:自信がすごいある時もあればない時もあって、波打ち際みたいな…。
加藤:寄せては返す。まぁ心電図みたいな感じか。
星野:そうですね。働きはじめはその差が激しかったんですけど、今はそれがだんだん安定してきましたね。というのも仕事をしはじめると「自信があるない言ってる場合じゃない」てのが強いです。あとは「別に僕がどれだけ自信があったところで何も変わらない」ていうのは最近すごく感じています。
加藤:言い方に語弊があるかもしれないけど「社会の仕組みを前に、歯車にならなきゃいけない」っていう感じかな。
星野:それもあるかもしれないです(笑)。でも「今に見てろよ」ていう精神というか、虎視眈々とこの状況をひっくり返す時は狙ってはいます。社会の歯車の一部として働いていても「自分らしさ」を保てているの帰ると「PUNIO」があったり月に一度の「耕耕」の収録があるからだと思うんです。それが支えになって新たな自信になってるのかもしれないですね。
加藤:帰る場所があるって、大事。
星野:前までは「自分には何もないな」って思う瞬間があって、それにモチベーションが左右されていたけど、おもしろい人がそばにいてくれて話を聞けているから「そんなの対して重要じゃないな」と思えたりするんでしょうね。今は社会に出て本当に下っ端ですし、自分に興味ある人もいないですけど PUNIO も含めて「こんなにおもしろい人たちのそばで何かできてる」てことが自信になってるのかもしれないですね。
加藤:家でも仕事場でもない「サードプレイス」があると対話が弾むし自信を持ちやすいよね。
星野:結果は出さないとっていうのは思うんですがね。
加藤:やらなきゃいけないことはやらないとね。自信満々なくせに仕事できないとか最悪だからね(笑)。
星野:そうはなりたくないですね。ちゃんと自信を付けるために、やらなきゃいけないことをなんとかやろうっていう状況です。
加藤:というわけで、お便りに対する2人からの返事はこんな感じでどうでしょう。
星野:いいと思います!
加藤:お礼のコメントでもいいので送ってもらえたら。取り敢えず、ようやくラジオ耕耕でコミュニケーションができたね。
星野:耕してる感じがしましたね。
心の旅
星野:次のお便りです。
加藤:このリクエストは、おそらく僕が今の PARK GALLERY の前に障がい者支援施設の NPO と一緒に運営していた PARK SHOP&GALLERY にいたことをふまえて送ってくれたんだと思うのでそれを前提に話しますね。まず、心を通わせる前に「コミュニケーション」について答えようと思うんだけれど、“障がいの有無なんて関係なく” コミュニケーション取れないなとか、取りづらいってことは人によってあると思うんだよね。関係によるというか。だから、当時の僕のコミュニケーションが正しかったのかは置いといて、あくまでこれも僕の意見だけど、障がいの有無で「特別扱いしない」というか、普通にしゃべってた気がする。
その中で話しやすいとか話しにくいとか感じていた。それぞれ『障がい』てひとつに当てはめることはできなくて一人ひとり抱えてる問題が違うから、できる限り「自分の中の小さなルール」や「社会通念的なマナー」で、会社やバイト先の人と話すように、その関係性を捉えようとしていたかな。例えば骨折して歩けない友達がいたら何か荷物を持ってあげるじゃん。そのくらいの心意気でコミュニケーションをとっていたかな。けどあらかじめ情報として「障がいがある」というのは知ってるから何かしら工夫はするよね。例えば人によって、いろいろな事情によって言葉を選んだりするようにはなる。
星野:それも障がいの有無関係なくやることですよね。
加藤:まさに。そう。あとは、障がいがあると思っていたからやった「工夫」っていう点だけれど、サクライさんの場合の「遊ぶ」とか「プラレールで何かを作る」とかがそうなんだけれど「1つの目標」があるとコミュニケーションしやすいと思ってた。僕の場合はそれが「みんなでギャラリーを作る」だったから、壁をみんなで白く塗ったりしてたんだよね。それは身体的な障がいがないと結構できたりする。例えば普段「多動症」の人も一定の作業は落ち着くらしく、ペンキを一定のペースで塗り続けることはできたりするんだよね。意外と僕らの方は注意力が散漫でずっとそこで同じ作業ができない。飽きたらすぐにタバコを吸いに行ってしまう。だから、僕らも含め、みんなで同じものを作ってるよみたいなモチベーションがあると、綺麗事かもしれないけど障がい者の人とやってるという課題や悩みはなくて、単純に一つのことに対して、お互いできることをもって、できないことを支え合う。そこに「小さな社会」みたいなのが形成されてた。
星野:その社会の中では障がいも特徴という感じですね。
加藤:そう。これはあくまで僕の体験や価値観だけど、学校とか社会だと感じるような「引け目」みたいなのはこの「小さな社会」では意外と気にならなかったね。このひとつの「小さな社会」の中では、誰も過激にならずに「みんなと一緒にニュートラル」ていう気持ちがあったと思う。
星野:いまのパークにも言えるような気がしますね。
加藤:もちろん障がいを抱えて辛い思いをしている人はたくさんいると思うから、一概にこの話をここで言い切るのは難しいけれど、大事だと思うな。パークギャラリーがパークであるゆえんみたいなことな気もするし、今日だけじゃなく、今後もこれをちゃんと話しきれて本当のパーク、公園的存在なんじゃないかというような気もするね。
星野:今後も話していきたいですね。ちなみに心を通わせた体験っていうと何かありますか?
加藤:うん。実はめちゃくちゃよかったエピソードがあって。それこそ今の前にやっていた平井の PARK SHOP & GALLERY が D.I.Y で完成するっていう日に、みんなで NPO の施設を借りて宴会をしたんだよね。いつも利用者さんたちがごはんを食べている食堂で、同じメニューをみんなで分け合って、服用している薬の関係でお酒を飲めないひともいたけれどお酒飲みたいひとは乾杯をしながら。もちろん障がいの重さによって意思疎通がうまくいかない人もいるし、僕らが呼んだアーティストとかそういう人たちだって必ずしも意思疎通がうまくいくとはいえない(笑)。酒に酔ったぼくが一番危ないしね。障がいの有無も関係なく、3、40人がごちゃ混ぜになって同じ場所でご飯を食べるってことがあった。あれは感動したな。
星野:その景色はすごいですね。
加藤:実はそれで終わりじゃなくてね。そこで僕の音楽やってる友人と、施設で音楽のセラピーを担当してる先生の2人にギターを弾いてもらって、みんなでカラオケ大会がはじまったの。その時に誰かが歌ったチューリップの『心の旅』がすごくよかったんだよね。世代を超えてみんな知っていたっていうこともあって、みんな歌い出して大団円になった。もう境界線はゼロだよね。ただただみんなで「 ♫ あ〜だから今夜だけは君を抱いていたい〜」って。その時、「感動」というか、心の芯が震える経験をしたんだよね。月並みだけど「音楽がみんなを一つに!国境を越える!」じゃないけど、いろいろな人がいる場所で、みんなが一つになって音楽を奏でるっていうのはすごい偉大だなって思ったかな。施設ということもあって、病院にみたいな、少しだけ消毒液の匂い強い空間で、みんなで1つの歌を歌ったんだよね。
星野:すごいいい話ですね。
加藤:今週の1曲はチューリップの『心の旅』。障がいの有無、才能の有無、世代、男女、関係なくみんなで歌っている様子を想像しながら聞いてみてください。
🙋♂️ 記事がおもしろかったらぜひサポート機能を。お気に入りの雑誌や漫画を買う感覚で、100円から作者へ寄付することができます 💁♀️