汽水域 #03 | 2024.8.7 午後 8:43 ー 阿部朋未
今井さん、早速のお返事うれしいです。そして、大変だった中、大切なことを綴ってくださってありがとうございます。
なんといいますか、お話ししてくださったひとつひとつに心当たりがありすぎて。というのも、私が住んでいる今の実家も、両親が将来さらに高齢になった際は、借地である実家の土地を石巻市に返さなければならないのです(震災関連のあれこれにより)。なので、いずれ私が家を出るにせよ、やっとの思いで再建した実家は、いつか更地(さらち)になってしまう未来が待っています。近くの公営住宅に引っ越す予定とはいえ、実家がなくなったら私は根無草のようになるのではないか、と思っています。
最初に書いた通り、どこにいようが「自分は自分」でしかないとも思っています。でもそれはまさに今井さんの仰る通り、実家や家族という安心できる後ろ盾があるからこそ思えたことなのかもしれません。その根幹が揺らぐ気配を感じた時、それは今すぐに起こることではなくとも、正直不安を強く感じ、同時に想像以上に自分が脆い(もろい)ことを痛感します。考えるだけでとても怖いです。
先日の展示の打ち合わせでもお話ししましたが、地元は今、急速に過疎が進んでいます。大小問わずお店が次々と閉店し、心の拠り所さえもなくなってしまいました。
実家がある。(写真以外の)仕事がある、という理由で地元にいますが、それ以外においてはもう地元にいる意味はほとんどありません。地元のことは好きではありませんし、実のところ実家の祖母との関係も良くありませんが、少しずつ寂しい気持ちになるのはどうしてでしょうね。きっと昔から「私を ”私たらしめていた” もの」や私の存在を知っていてくれていたものを失っていくことで、だんだんと自分の輪郭が消えていくようで幽霊みたいになるのかな、とも思ったりしました。幽霊になりかける前に、たとえ幽霊になったとしても、自分と世界をつなぎ止めるために私は写真を撮っているのかもしれません。
こうやって今井さんと少しでも対話することで、玉ねぎの皮が一枚一枚めくれて芯に向かっていくような、大事にしたい気持ちの純度が高まっていく気持ちになります。
今日は「立秋」だそうです。仕事終わりの夕時、外に出たら夏の日差しの中に秋の空気が少し漂っていました。
阿部朋未
阿部朋未 × 今井さつき
写真展『汽水域』開催
2024年10月23日(水)~ 11月3日(日)