【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ⑱ ノブセノブヨ 『言いたくても、言えないこと。もしくは、個人的な鬼退治』（愛知県）

COLLECTIVE 開催して２週目に突入しました。開催後も毎日のように申し込みをいただいております。うれしいですね。引き続きよろしくおねがいします。この調子だと週末は密が心配されますが、換気や消毒、手袋の用意など、徹底しておりますので、ご安心してお楽しみください。50タイトル近く集まると、存在感がある表紙というのが見えてきますね。とにかくインパクトというものももちろん目立つのですが、静かにこちらを睨んでる、的な ZINE も見えてきます。できるだけ埋もれないようなレイアウトしてみてますが、たくさんのタイトルが並んでるからこそ見えてくるもの、なども見にきた時のお楽しみになるかと思います。友達と来て、私はこれが好きとか、ぼくはこういうのが好きとか言い合うのも楽しいですよ。

私は一日だって黙っていることが難しかった

この ZINE の表紙の、ZINE を作ることになった動機ともいえるステートメントに記載されたこの１行にとても共感している。そしておそらく COLLECTIVE に参加している多くの作家が、共感すると思う。

こうして表現されていてはじめて気づいたけれど、どうやらぼくも、思えば一日でも黙っているのが難しい人生だった。言葉を吐けば、誰かが受け止めてくれる（もしくは受け止めてもらった気になれる）SNS があってよかった。SNS がなかったらこの胸の（脳の？）言葉たちはどこにいっただろうか。

愛知県からエントリーしてくれたイラストレーター・文筆家のノブセノブヨさんによる ZINE『言いたくても、言えないこと。もしくは、個人的な鬼退治』は、ノブセノブヨさんが2014年から2020年7月まで instagram へ投稿し続けてきた「言いたくても言えないこと」を、自身のイラストを添えてまとめた１冊。

「言いたくても言えないこと」。それは遠慮をしてしまったり、空気を読み過ぎてしまったりして言えないとかではなく、例えば政治や宗教の話。あとは自分だけの小さな世界で起きていること。それを無意識のうちに塞いで過ごしているひともいると思うし、世間的にはそういう「パーソナルなこと」をあまり話すもんではないよ、というムードさえあると思う（だからこそ ZINE という小さなメディアがあるのだ）。仕方がないと、心の中のもう１人の自分を閉じ込めるひともいれば、ノブセさんみたいに、これをそのままにしてしまうと、いつか「鬼」みたいなものになって暴れ出してしまうのではないかと思う人もいる（ぼくも後者だ）。その鬼が暴れる前に、『言語化』してしまおう。それを『鬼退治』と言う名の『記録』としている。文章を書く人の中に、少なからず、この『鬼退治』感はあるんじゃないかなと思う。このレビューも、たくさんの ZINE を前に、ただただ見たり読んだりするだけでは消化できない『何か』を鬼退治しているようにも思えるし、そう思うとスッキリする。それを絵でやる人もいれば、写真やアートで表現する人もいるんだろうな。

何気ない思いも、少しだけ言葉（文字）にしてみると、安心したり、どうでもよいことだと思えたり、とても自分にとって必要なことだと気づけたりする。自問自答という鬼退治。ノブセさんの現実とも仮想ともいえるギリギリのふちを歩いているような日記や、本当にただただ疑問に思っていることをとりとめもなく書き連ねたもの、また、とあるレトリックな１日は、詩のようなつぶやきとなって浮かんで、それらが全部 2014-2020 という時空を跨いで、幻想的なイラストと一緒に流れていく。星の王子様のような。ときどき絵本のような。鬼退治というには穏やかな、ゆっくりとした時間が１冊の中に流れている。

時々自分のことと重ねてみたり、考察したり、といろいろな気持ちになれる１冊です。ゆっくり時間をかけてお楽しみください。

ちなみにノブセさんが地域のオススメであげてくれているブラジルコーヒーはぼくも大好きな喫茶店です。友人が店長をやってます。名古屋に行った際はよかったら遊びに行ってみてください。名古屋らしいモーニングが食べれて、名古屋らしい朝の風景に出会えますよ。

レビュー by 加藤 淳也（PARK GALLERY）

COLLECTIVE 2020 / ノブセ ノブヨ『言いたくても、言えないこと。 もしくは、個人的な鬼退治』（愛知県）

作家名：ノブセノブヨ（愛知県）
イラストレーター、文筆家。
言葉が生まれる前の状態や、意思疎通を媒介するものと阻害するもの、世界を認識する上での個人的感覚などを、空想を織り交ぜながら短い物語にしています。文章はなかなか読んでもらうのが難しいため、展示などで気軽に触れてもらえるように2018年から絵を描き始めました。
現在では、イラストの方が多いくらいになってしまいましたが、本懐は文章です。ぜひお読みいただければ幸いです。
https://www.instagram.com/nbsnby

【 街のオススメ 】
金山ブラジルコーヒー ... 名古屋に来たらぜひ立ち寄ってもらいたいお店。昔馴染みの常連さんから、若者まで幅広い客層に愛される老舗の喫茶店。
中に入ると意外なほど広く、ゆったりとした席に驚きます。
ランチはライス大盛り無料のがっつり系ですが、小盛りにも対応してくれる細やかさ。度々ライブも開催され、店主自ら出演することも…！
（*全面喫煙可のお店です）
https://twitter.com/kanayamabrazil