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よむラジオ耕耕 #04 『MC転校生、現る。』


加藤:こんばんは、パークギャラリーの加藤淳也です。

星野:北千住のギャラリー PUNIO の星野蒼天(そら)です。

加藤:4月からはじまったラジオ耕耕も、4週目に入りましたが、どうですか。1ヶ月を迎えて。

星野:パークギャラリーを知らない人も知ってる人も、より深くどんな場所なのかが知れたと思います。あとは加藤さんは普段、ほかの仕事をしていたりすることもあって中々パークにいないことも多いし、いたとしてもみんなとお酒を飲んでることが多いから、ここではマジメな話が聞けましたよね。意外とこんな一面もあるんだ!っていうのを知れたんじゃないかと(笑)

加藤:確かにね(笑)

星野:でも、アートのことカルチャーのことと肩肘を張らずに、自然な感じで聴けるなって思います。僕自身もですが、リスナーさんもそう感じてくれてたらうれしいですね。

加藤:そうだね。4月は自己紹介も兼ねていたので一人語りになってしまいましたが、5月はみなさんと一緒に土を耕す感覚で『ラジオ耕耕』を楽しんでいこうとと思います。

写真家のマネジメントから
ディレクター業へ


加藤:さて、前回は、僕が下北沢でドブをすするような生活をしていたところから、ある女社長のおかげで社会人に這い上がったという話だったよね。その社長のもとで写真家のマネジメントの仕事をすることになるんだけど、そこで約3年かけて写真・グラフィック・広告業界にまつわるおおよその栄養をたくさん吸収したつもり。クリエイターになりたいとか、この業界に興味があるっていう人に比べると、僕は明確な意思を持っていなかったから、入社のタイミングではなんの知識も経験もなかった。だから乾いたスポンジみたいに余計に吸収できたと思っていて。それはつまり業界に対する先入観があまりなかったから。業界的に良い悪いじゃなくて、僕個人としてこれは良い、これは悪いという感じで、だんだん生意気ながらも働いてる中で違和感に感じてることも増えてきててさ。「業界の常識とされてるけどどうなの?」「もっとこうした方がいいんじゃない?」とかね。「写真は普通こうなの」とか「雑誌といえばこう」みたいなのにすごく違和感があった。だからだんだんマネジメント業じゃなくて、もっと根本の広告業界やクリエイションの世界に飛び込みたいという強い思いがでてきて、転職を決意するんだよね。

星野:なるほど。

加藤:ただ、社会人の自分とのバランスを取るために自分のプライベートの時間を使ってライブイベントをやったり、ZINE を作ったり、表現活動はやめずに続けてた。まぁ格好よく言ってるけどずっと友達と遊んでただけなんだけどね(笑)。とにかく働く。そしてとにかく遊ぶのをやめない。

星野:社会人をしててもとにかく表現する。遊ぶ。

加藤:そう。それが良い息抜きになってたんだよね。社会と自分らしい自分を取り持つ唯一の手段というか。だから休むことなく仕事だけっていう人は見てると少し心配になるよね。自分らしさってどこに見つけているんだろうって。息抜きって言うと簡単かも知れないけど、自分の時間がない人はパンクしちゃうんじゃないかな。だから土日は思い切り遊んでたね。なんなら仕事の後も遊んでたから、休むことがなかったかな。ただ遊ぶというよりかは、みんなで何か1つの物を作ったり、見たり、感じるってことに20代は命を捧げてたなぁ。

星野:ちょうどぼくと同じ歳の頃ですかね。

加藤:そうだね。それが原因かはわからないけれど、その時に “遊び” で制作していた ZINE や音楽活動が評価されてデザイン関係の制作会社に転職できることになるんだよね。

星野:休日の活動もつながってくるんですね。

加藤:ただ仕事をしているだけの人間だったら受からなかったかもね。遊びと言いながらレーベルとかイベントも本気で主催してたから、そこがつながったと思う。そのデザイン会社はプロのミュージシャンの CD ジャケットのディレクションもしていて、僕自身も音楽活動の中でデザイナーの友人と一緒に CD を作っていたからそれもきっと評価されたんだろうね。

星野:遊びとは言え本格的だったという。

加藤:うん。それと実は前職のマネジメントの経験もつながっていて、そのデザイン会社内でちょうどマネジメントセクションを立ち上げるっていうのがたまたま重なったのがあって、そこで過去3年間のマネジメント経験を評価してもらってその会社で働くことになる。デザインの経験や知識がなかったけどデザイン会社で働くことになるんだよね。そこの3年間で得た経験もやっぱり大きかった。デスクではなく「現場」でいろんなことを引き続きみさせてもらえたっていうのと、自分が意見したり言ったことが形になってくってことを体感するんだよね。そこでの仕事はディレクションだったからデザイナーじゃないから手は動かさなかったけど、何かを見て、いろいろな選択肢がある中で自分のセンスで、より良い方を選んでその理由を説明することっていうのが仕事になってく。それは今までマネジメント会社で見てきたものだったり。バー時代のお客さんにお酒を飲んでもらうために駆使してたサービストークみたいなのも少しは役に立ったのかも知れない。飲食業界に必要な『世渡り術』とかもちょっとあったのかも知れないね。

星野:すべての経験が役に立っている感じですね。

加藤:いずれにせよデザイン的なスキルやパソコンのスキルがない状態ではいったわけだけど、今の肩書きになってるディレクター業はそこで叩き込んでもらったね。

星野:でもそこからも色々あって独立するんですよね。

加藤:そう。1番大きいのは東日本大震災。こればかりはいま簡単に説明できないんだけど。そのほかにもいろいろな思いを込めて独立した。あくまでそれは「自分らしく生きていく」ことの追求でしかないんだけどね。会社というか団体行動が苦手だったとも言える。肩書きにとらわれない自分らしい発言とか、自分らしい仕事の仕方とか暮らしとかを考えたときに、どういう現場で何をしていきたいかなと思った時に独立した方がもっと広がると思ったんだよね。また今度話すけど星野くんの好きな「七色の海の話」につながっていく。

星野:七色の海の話!その話、僕大好きなんですよ。情景が浮かんで、うまく言えないですけど「この世界は素晴らしい!」って思うんです。

MC 転校生の居場所は
あの時の公園にあった

加藤:それで、今から11年前の2012年に独立するんだよね。その時に PARK INC. という名前をつけて、PARK という屋号でいろいろ活動してこうと決める。

星野:独立した時にはすでに PARK  が生まれてたんですね。

加藤:そうだね、でも、その時は PARK GALLERY  をやるなんて全く思ってなかったし、平井時代の PARK  SHOP & GALLERY という名前も、目の前に偶然公園があったのが理由で、僕が独断でつけたわけじゃなくてみんなで投票で決めた名前だからね。いまも公園が隣に。

星野:『公園』に縁があるんですね。何か原体験はあったんでしょうか? なぜ一番最初の屋号に PARK があったんでしょう。

加藤:原体験か。「公園の隣に住んでいた」みたいな直接的なことがあったわけじゃなかったんだよね。でも、小さい頃からなんとなく「公園が居場所だった」ていうのはあったかも。

星野:詳しく聞きたいです。

加藤:震災から1年経って独立したタイミングで会社名を考えると同時に『自分らしく生きる』ということを考えてて、その時に『加藤淳也』を構築してるものってなんなんだろうって考えたんだよね。そこにはバーテンとしての自分とか、ディレクターとしての自分が『要素』として入ってくるべきだと思ったんだけど、それって考えてみると後からいろんな人に教えてもらいながら影響されながら作り上げていった『新しい自分』だったんだよね。借り物の衣装というか⋯。それにしがみついてても、本当の自分らしさは見えてこないなと思って、そこで考え直して「ずっと昔から変わらず今でも好きなのってなんだっけ」って思うわけですよ。それを考えた時に、当時、僕、ラップをやってたんだよね。

星野:ラッパーだったんですか !?

加藤:そう。ある程度、タワレコとかでも CD が買えるくらいには売れてたんだよね。その時に、いま考えれば恥ずかしいけどラッパーネームってのがあって。それが『転校生』って名前で(笑)

星野:もっとイカつい名前を想像してました(笑)。そこに『本当の自分』を見つけたんですか。

加藤:そうそう。転校生って名前はなんでつけてもらったのかは忘れたんだけど、子どもの頃に転校が続いて内向的になったり、コミュニケーションや自分の見られ方に対して慎重になったり、でもそのおかげでいろいろなものを見れたし感受性が豊かになっていったりした気がして、それらの性格や経験を踏まえて言葉を紡いでくって意味で名前をつけたんだよね。まず第一段階として『転校生』って言葉が自分のアイデンティティにつながった感じがした。

星野:その後、転校生が『公園』にどうやって結びついていくんでしょうか?

加藤:いわゆる『転校生』の僕が『独立』するにあたって、誰にも頼らずにひとりでずっと抱えてきたものってなんだろうと考えた時に、そういえば『転校』のたびに、公園を見つけては遊びに行って、ひとりの時間を自分のものにしてたなってふと思い出して。例えるならば家はファーストプレイス、学校がセカンドプレイスだとするなら公園は僕にとってサードプレイス。つまり居心地の良い第三の居場所になってたんだよね。転校の経験がある人はわかると思うんだけど、学校で馴染むには転校生って時間かかるんですよ。それで帰り道のちょっとした公園とか週末の公園は、学年にもクラスの単位にも縛られない場所だったんだよね。そこでは自分のアイデア次第でどうにでもなるし、自分の運動能力や工夫次第でどのくらいでも駆けめぐれる。とはいえ年齢の序列もあれば、開かれた公共性が社会の縮図のようになっているフィールドな気がしていて。堅苦しい社会のシステムみたいなのもそこにあるけど、でも能力や工夫次第で打ち破れるのも社会かなっていうのをなんとなくその時感じていたんだよね。

星野:確かに。社会の縮図ですね。

加藤:田舎で育ったから運動神経も良くて、公園があったおかげで運動すれば目立てたし、その流れで応援団長も任されたりもしたし、遊びを考えるのも得意だったから、その土地土地でヒーローになれた。アイデア一個で誰でもヒーローになれるっていうのはすごい場所だなって、公園に対しては思っていたんだよね。そんなふうに自分次第でなんとでもなったり能力次第でなんとでもなるから、転校した自分でも居場所を作りやすかった。あとは公園ってベンチがあって憩いの場でもあったり、草木があってみんなが休める場所で、時にそこで遊んだり、飲んだり、喧嘩したり泣いたり、いろいろドラマが生まれる場所でもあるよね。僕の中で公園はそんなふうに、学校よりもずっと近くにあって美しい存在だったな。

星野:公園が学校よりも学ばせてくれたんですね。

加藤:そうそう。だから『公園の魂』っていうか、公園の持つ精神性をなんとなく自分の中に宿すことができれば、あの時の自分もきっと喜ぶなと思って『PARK』って屋号をつけたんだよね。当時、小学校3年の自分が公園って名前で仕事をしてるってことがわかったら「いいじゃん、お前に似合ってるよ。」って言ってもらえる気がする。あとはもともと誰かに対して開いたオープンな心を持ってる人間ではないから、お守りのような感覚で『パーク』を身につけることで、あえて前向きに開いていこうと自分を奮い立たようとしたところもあったかな。それが巡り巡って、今の PARK GALLERY のコンセプトになっている気がするね。誰でも無料で入ってこれるし、アイデア次第で活躍できるし、休める場所でもある。まとめると、多分パークってのは自分の中では子どもの頃からの居場所であり、今の自分の居場所でもあるんだと思う。

星野:転校が多くて家も学校も場所が変わる中で公園に居場所を見つけたんですね。だから加藤さんが今住んでいる場所が『パーク』っていうのはすごく腑に落ちます。

加藤:学校ではなかなか友人ができなかったけれど、公園では誰とでも仲良くなれたんだよね。例えば、貧乏や裕福、運動神経の良し悪しに関わらず、フラットになれるルールを作れば、そういうものが関係ない場所になるなって転校する度に思ってて、そういうコミュニケーションをしてきたつもりなんだよね。だからいまさらそう言うもので優劣をつけようとは思わないな。根本にあるのは、みんなフラットで好きにやればっていうか、チャイムがなったら帰ればいいし、寂しいって気持ちもあるけど、誰もつなぎとめない。期待しないというか、そういうパークっぽい生き様が僕は好きかなというのがあるかな。なんか最終回みたいな話になっちゃったね(笑)。

星野:まだまだ終わりませんよ(笑)。

公園で学んだことをギャラリーへ


星野:一通りパークの名前の原点になった話を聞いて、めちゃくちゃしっくりきました。パークに来てもらえたらもっと実感できる気がしました。例えば、いわゆるホワイトキューブのギャラリーに収まらないところとか、いろんなものが雑多に並んでるように見えるけどそのひとつひとつに意味や思い出があるところとか、いろんなものがあるけど空間全体がつながり合っていて、一体感を持った感じがパークにはあると思います。

加藤:公園もさ、禁止されることって増えてきてるじゃん。例えば球技禁止だったり花火だめとかペットが入れないとか。そういうふうに禁止事項が増えていってきれいになったふりしてもなんの感動もできないと思うんだよね。ホームレスの人が寝れないように真ん中に仕切りがあったりするベンチとか見ると「このベンチを考える能力があるなら、ホームレスが一人でも社会で自立して暮らせるようなシステムを考えたら良いじゃん!」とか、思うんだよね。そういうのが嫌いだから、皮肉をこめて『パーク』っていうのをつけてるんじゃないかって反面もある。

星野:実際そういった公園に対する「これが本当の公園だろ?」みたいな眼差しを送り続けるというか。

加藤:そうそう。今の公園って何もできないなって思う。その中でぼくらは『公園』っていう概念だけで、どこまで開いた空間、自由な空間にできるかって賭けでもあって。それってでも全般的にギャラリー業界でも言えることだと思うんだよね。「こうあるべき」みたいな正しさを決めつけて作家が表現してるふりをするようになっちゃうっていうのは、あんまり良くないかなとかも思っていたりしていて。どんなアートギャラリーも『公園』であるべきなんじゃないかと思うんだよね。どれだけ高い作品を扱っているギャラリーでも「社会的にアート的なものは無料で解放されるべきだ」というのがあるからきっと無料で解放されているはずだよね。でも、いまのよくあるギャラリーでは公共性の大切さみたいなのを感じにくいと思ってるんだよね。偉そうというか。緊張させない工夫とかもっと必要な気がするんだよね。

星野:わかります。

加藤: ギャラリーには「視覚」を越える「創造性」が広がっていったり、ギャラリーを通り抜けて社会にそれぞれ戻っていった時に、そこでのアート体験が日々の暮らしの栄養になるってことだったりするわけじゃん。なるべきだと思うんだよね。無料でアートが栄養に。それが芸術。長い歴史の中で開かれていったのがギャラリーだし、今僕らがこの社会で役に立てる唯一の手段なんだよね。

星野:なるほど。

加藤:じゃあアートやアートのある場所をひらいてく必要があると前提したときに、もう少し日々の生活の中に、もうちょっといい栄養価の高い野菜を食べるくらいの感覚でもう少し身近にアートやカルチャーがあって、それをみんなが気軽に摂取して、なんか昨日より今日の方がいいよねって言える方がいいんじゃないかなって。そういうことを大手プロダクションや企業、有名ギャラリーがやるべきなのにあんまりやっていないよね。損得勘定ばかりで。そんな憤りもあって「パーク」っていうできるだけ開けた空間を作ったつもりなんですよ。僕が思うのはそんな感じですね。

星野:急に尖った攻めた発言(笑)

加藤:この『耕耕』の本質も、「ひと任せにしないで自分たちで耕そうよ」ってことも含めてそうなんですけど、もっといい感じに芸術や文化を自分の中に広げたり深めたりする方法って実は山ほどあって、そのノウハウを現場から届けたいって思ってる。産地直送で、農家の顔が見える野菜みたいな感じでお届けしていければというのがラジオ耕耕です。

星野:耕耕にもそんな意味が込められているんですね。

加藤:そうね。あとは5月以降はもっとみなさんの意見や感想を取り入れていきたいね。僕ら2人にこんな話をしてほしいとか、ギャラリーをやってる僕に聞きたいこと、クリエイター目線の質問や相談などなんでも構わないので送ってくれたらうれしいです。コミュニケーション型のラジオにしていきたいので、よかったら今後 SNS でメッセージ送ってくださいね。それにもっと PUNIO の星野くんの話もしていきたいですね。

星野:ありがとうございます!

加藤:あとは PARK GALLERY に来てくれたら直接いろいろ話せるので、ぜひ遊びに来てくれたらうれしいです。収録で話さなかった裏話もいっぱいあるので。

星野:ラジオの30分では、話せなかった話もたくさんありますからね。僕だけ聞いてるのはもったいないです。

今週の1曲


加藤:ありがとう。というわけで、今週も1曲かけて終わりましょうか。4月も最後になるということで、エレファントカシマシの『四月の風』と言う曲で終わりたいと思います。

東京・末広町『パークギャラリー』から明日のカルチャーを耕すインターネットラジオ『耕耕』。

https://lit.link/radiokoukou

CULTURE(文化)≒. CULTIVATE(耕す) 文化を耕すことは、暮らしを耕すこと。

ラジオ『耕耕』は、毎日の暮らしに必要不可欠とも言えるカルチャーをより深く楽しんでもらうための30分のトーク番組です。

PARK GALLERY ディレクターで編集者の加藤が、『アート』や『ものづくり』、カルチャーの発信基地とも言える『場づくり』をキーワードに、ギャラリーでの日々の営みで感じたこと、考えたことや、様々なクリエイター・アーティストと交流して得た気づきを、種を蒔くように話していけたらと思います。

すぐに役には立たないけれど、いつか必ず実がなるようなそんなラジオを目指していけたらと思います。その時はみんなで収穫を祝うかのように乾杯をして喜べたらと思います。

アートに興味があるひともないひとも、楽しんでもらえるかと思います。ぜひ聞いてみてください。

パーソナリティ:加藤淳也(PARK GALLERY)
https://www.instagram.com/junyakato_parkgallery/

アシスタント:星野蒼天(PUNIO / PARK GALLERY)
https://www.instagram.com/sora_hoshino/

4月5日よりだいたい毎週水曜日の夜にこっそり更新予定です。



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