#02 「たのしい勘違い」
現在開催中の20人の作家によるその年の『マイ・ベスト』な作品を集めたグループ・エキシビジョン『THE BEST展 2020』。
参加アーティストはこの1年の自分の作品を振り返り、見つめ直す機会として、そして会場に訪れたみなさんにとっては、全国各地から集まる様々なジャンルの、個性あふれるアーティストたちが選び抜いた『渾身の1枚』を、まとめて楽しむことができる内容となっています。
このコラムでは、20人の作品が PARK GALLERY というこの小さな会場にどのように並ばれていったか、そのプロセスを語りながら、20人の作家の作品を紹介して行けたらと思っています。残り5日となりました。現地に訪れる前後に、テキストと合わせてお楽しみください。
* 作品が「話しかけてくる」という前回の話からの続きです。もしまだ前回を読んでないひとはぜひ。
4人それぞれの写真表現
20人の作家のうち、16人がイラストレーター、4人が写真家になります。とくにバランスを考えたわけではく、自然とこうなりました(今回は公募だったということもあって、何十人と申し込みがあって、お断りをさせていただいた方も多かったのですが、申し込みの比率も、2割ほどだった気がします)。
ジャンルでものごとを分けたくないっていう考えがあるのと、イラストレーターは優秀な写真作品を、写真家は優秀なアートワークを見るべきだという考えから、PARK GALLERY の企画展は、なるべくジャンルを不問に。かつ互いの立場から刺激しあえるようなレイアウトを試みています。
もともとディレクターの加藤は写真の業界で長年仕事をしていたので、今回はその経験を活かして写真の話を中心に。
まず写真のお話を
イラストレーターの石橋さん、山手さん、平野さんの順に作品を飾ると、次は俺だろうと睨んでくる作品が。
新多正典さんの作品。京都に拠点を置きながらもブラジルの伝統芸能『マラカトゥ』を現地で追ったドキュメント作品を精力的に作り続けている写真家さんで、パークの企画展や COLLECTIVE でその作品や写真集を見たことがあるという人も多いかと思います。
力強い(力強すぎる)モノクロームの写真は今回の会場内でも異彩を放っているのですが、プロダクトとして圧倒的に「美しい」のが見どころだといえます。写真だと伝わらないので特に。
新多正典さん
https://www.instagram.com/p/CDJU0f9jAfE/
👨🎓 なぜ美しいのかをかんたんに説明
さて、みなさんご存知の通り、写真は大きく、デジタル or フィルム に分かれます。そしてカメラやレンズにも多くの種類があり、それぞれメーカーの特徴を見ながら被写体に応じて組み合わせを選んでいきます。フィルムも廃れたとはいえまだまだ多くの種類があり、出したい色、明るさで選んでいく、ということになります。
機材が揃ったら思い思いに撮影をし、現像します。この『現像』。案外間違って認識してる人が多いと思うのでここで改めて説明しておきます。
現像とは
🙅♂️ 写真を紙にプリントすること
🙆♂️ フィルムに撮影したシーンを定着させること
つまり現像ののちに『プリント』の作業があって、いわゆる写真というものがあがってきます(もしくはスキャンしてデータにします)。写真屋さんにフィルムを持っていったことのある人は『同時プリント』というのを目にしたことがあると思いますが、プリントを現像と同時にしますよ、というサービスなわけです。ちなみにデジタルの場合はこの『定着』の作業がないので、撮った写真を自分の理想の色に補正して印刷用の画像にすることを現像と言います。
プリントのこだわりも写真を見る楽しみ
この『プリント』をどう処理するか、という選択が、写真の美しさ、存在感、見え方に大きく影響します。実際に、現像プリント専用のラボがあったり、『プリンター』と呼ばれる職業もあるくらいですから、職人技とも言えるプロセスなのです。
最近では業務用・家庭用もプリンターの性能があがって、いわゆる『インクジェット』という印刷技法が主流になりつつあります。紙さえこだわらなければ低コストでプリントできますし、紙にこだわれば美しさも追求できます。あとは一般的なカラー写真の『Cプリント』。カラーが一般的になる前までのモノクロームフィルム全盛の時代に主流だったのはゼラチンシルバープリント(銀塩写真)と呼ばれる技法。紙にインクを均等に吹き付けるインクジェットに対して、化学反応させながら紙の色を変えていくようなイメージでしょうか。
美しい光と影のグラデーション
話が長くなりましたが、新多さんの作品は、このゼラチンシルバープリントの技法でプリントされています。新多さんは現像もプリントも自身で行っているので(いわゆる手焼き、紙焼き、と言われるものですね)、明るさ、コントラストにこだわりぬいた1枚だといえるでしょう。
写真自体が輝いているというか、光と影が『粒子』となってフレームの中に空気と一緒にとじこもっている感じは、細やかなグラデーションを再現できるゼラチンシルバープリントならではと言えます。ガラスを外した額装になっているのでそのプリントの美しさを肉眼で見るだけでも価値があると言えます。うまく言葉にならない、技術を超越した美しさが体験できるはず。気づくか気づかないかの差は大きいです。
たのしい勘違い
さて、被写体の話に移ります。
一見すると何気ない外国人のポートレート作品に見えますが、よく見ると首のないトルソー(マネキン)に頭を乗せてポーズをとっているというユニークさが溢れてきます。説明を聞くまでは、何度も通っているブラジルでの写真の中から今年改めて現像した作品なのかなと思っていたのですが、実は「京都で撮った」写真。しかも緊急事態宣言の真っ只中。
緊急事態宣言真っ只中の沸々とした熱気を静かに蒸発させていた時でした。
—— 新多正典
被写体が外国人=海外と勝手に思い込んでいた浅はかな自分にも呆れたけれど、そんな時にもカメラを持って京都大学の吉田寮に突っ込んでいく新多さんも、本当に(愛を持って)写真バカなんだなと思って呆れつつ、『たのしい勘違い』に、写真特有の喜びを見出していたのです。
文脈(コンテクスト)の話
これは京都大学でこういう理由で撮った写真です。
といった類の説明はよく『コンテクスト』(=文脈とか背景)と言われますが、写真をそのまま見たまま受け取るのももちろん楽しいし、きれいだなと思えるのですが、このコンテクストというものを通じて作者の意向を汲みながら読み取る(従うという方がしっくりくる)のも、写真作品を鑑賞する上での醍醐味となってます。
会場でも配布していますが、ここでも紹介。
ポートレイトは撮影者と被写体とのセッションだと思っています。もう少し崩して言えば、「会話、対話」です。撮影の前に、被写体の彼に、こういうのを撮りたい、と一言二言程度伝え、それを咀嚼した彼が場所やポーズを逆に提示してくれます。<ビビッときたら撮る>これを繰り返しました。
場所は京大の吉田寮です。ヤバイとこなので、よかったら検索してみてください。丁度廊下の窓際に立てかけてあったマネキンに彼が顔をはめた瞬間に、「そのまま動くなよ」と伝え何コマか撮りました。表情やポーズは何も指示していないけど、こういうのが好きであることを彼は読みとったんだと思います。 —— 新多正典
どうですか。これを読むか読まないかでは、写真の楽しみ方、変わってきませんか?
言い切ることの大切さ
この間、新多さんに会った時に「フィジカルさを大切にする」と言っていた彼らしいコンテクストだなと感じます。写真を撮るということは、その場に『行く』ということ。シンプルだけど、写真はそうじゃなきゃ撮れない。ファインダーをのぞく、シャッターを切る、というセンスは当然のことですが、その前に、「どこに行くか」「どこにいるのか」「誰と何をするのか」ということが試されます。被写体の魅力に頼ってしまったり、カメラやレンズの性能やクセに依存してしまったり、フォトジェニックな瞬間ばかりを追求してしまったりする人が多い中で、シンプルだけれど意外とおろそかにしてしまいそうな感覚です。
自分の居心地のいい場所で済ませる。たまたま撮れた、といった想像力が欠如したような作品が多いなと感じます。全部は否定できませんが<現場での選択肢の少ない写真>ほどつまらないものもないなと。たくさんの選択肢があったのに選択することに意味なんてなかった、という方がよっぽどおもしろい。
極端な話、カメラなんて持ってなくてもいい。全身、いや、心の芯が静かにでもいいから震えるような体験が優先。人生日々是ロケハン。移動の数だけ写真に味わいがでる。たまたまカメラを持っていれば運がいいというものなんですよ。そんな写真の原点に帰ってきたかのような作品に見えました。俺が行った先で、選んだ場所で、俺が撮った写真だ、と、強く言い切れるところに写真家としての魅力があるのかと思います。まさにそんな感じ。
会場で同時に発売している ZINE『ストリート・スナップ・ファイト』もいま流行りの小洒落たスナップに中指を立てるようなヒリヒリとした作品。「言い切る力」が見え隠れしていてとてもいいです(ただ新多さんはもう少し言葉に頼ってもいいのかなと、思ったり)。
かなり長くなってしまったので、今回は新多さんの紹介だけになります。すみません、完全なるえこ贔屓です。
ただこの写真の基礎を認識しておいてもらえると、次回、残りの3人の話もたのしく読めると思います。よろしくお願いします。
あ、念のために言っておきますが、インクジェットプリントは技術として劣勢なわけではないのであしからず。
パークギャラリーに居るひと
加藤淳也 👉 instagram
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