海と山と展 #08 工藤愁子「えほんみたいな絵を描く想像力」
海と山というテーマで作品を募集した時、こういう作品が集まるといいなあというイメージがぼんやりとあった。具体的な作品や作家というわけではなく、毎回できるだけそういう風にイメージするようにしている。そのイメージに合うかどうかが採用の判断基準になるし、全体の(作品を並べた時の)クオリティの担保になると思ってる。でも、今回、『夜の海』が届くイメージはしていなかった(まだまだ未熟な想像力)。こんなに『夜の海』が好きなのに。
昔、どのくらい昔か忘れたけれど、好きなひとを誘って海の見える宿に泊まったことがある。昭和の香りが残る寂れたホテルとは対照的に、海は透き通るほどきれいで、その海で獲れた魚を使った料理はとてもおいしかった。恋人同士じゃあないから、部屋は別だったけれど、食事のあとはどちらかの部屋に寄って、ぼくは日本酒を、向こうは冷蔵庫にあった瓶のコーラでウイスキーを割って飲んだ。和室の、窓辺にある、板張りの椅子のある空間(この空間がとにかく好き)。カーテンをあけて、夜の海を眺めながら。群青色にオレンジ色が海に反射してゆらゆらゆれてる。夜の海は怖いと彼女が言う。そんなことない、と僕が言う。お刺身がおいしかったという彼女に対して、ぼくはフライがおいしかったと言う。ロマンチックな時間は一瞬で終わる。しばらくしてケンカになって、部屋から出てってしまった。海が好きか山が好きかくらいの些細なことだったと思うけれど、たぶん僕が彼女を言葉で傷つけた。そろそろ戻ってくるだろうという時間になっても戻ってこなくて、すこし焦ってホテルのまわりを探したら、防波堤で泣いているのを見つけた。背中に向かってごめんと謝ったけれどダメだった。たぶん追いかけるのが遅かったのだと思う。触れることも、声をかけることもできず、時間だけが過ぎた。情けない。でもなんだかぽっかり穴があいた感じというか、心のどこかで、波の音が心地よいなって思ったのと、今にも落ちてきそうな満天の星がきれいだなって思ってた。たぶんそんなに好きじゃなかったのかも。夜の海に気持ちがゆっくりはんぶん沈んでく。ぷかぷかと浮かんだ感情がなんだかあったかく、おかしくなってきた。次の日、2人はそれぞれチェックアウトして、それぞれ家まで帰った。帰りの電車の中で電話番号を消した。それから連絡がない。
工藤愁子さんの絵を見たときに、思い出した話。「夜の海に気持ちがゆっくりはんぶん沈んでく」「街が海に浸る」っていう、その感覚を、言葉だけ追えば「怖い」と思うかもしれないし、中にはあたたかく感じるひともいるかもしれない。アートっていうのは、同じものでもひとによって感じ方が違ったりするのがいい。
ちなみにこのエピソードはフィクション。工藤さんの絵には、こんな風に、その景色に描かれているもの以外を想像させる『えほん』みたいな力がある。いろいろなことを想像するのが好きなひとが描いているんだろうなって思う。本人に会ってみるとえほん作家さんみたいだった。今日、もし、会場にこれるひとがいたら、「どういう物語があると思う?」という想像の会話をしてませんか。写真の絵以外にもすてきな作品が3枚ほど、追加になっています。お楽しみに。
PARK GALLERY presents
『 海と山と 』展
2020年2月12日(水)- 2020年3月1日(日)
@ PARK GALLERY(東京・末広町)
東京都千代田区外神田3-5-20
最寄駅:末広町駅・湯島駅・秋葉原駅・御茶ノ水駅(距離順)
13時 - 20時 / 入場無料 / 月火定休
http://park-tokyo.com
【 参加者一覧 】
長 雪恵 / オサユキエ
https://www.instagram.com/yukie.osa
カワイハルナ
https://www.instagram.com/haruna_kawai
河原 奈苗 / カワハラナナエ
https://www.instagram.com/nanaekawahara
菅 風子 / カンフウコ
https://www.instagram.com/fuko_kan
工藤 愁子 / クドウシュウコ
https://www.instagram.com/shk003
SANZOKU / サンゾク
http://instagram.com/sanzoku_shokki
ナカムラ ミサキ
https://www.instagram.com/msknkmr3
nagwang / ナグウォン
https://hugmesweetparadise.tumblr.com
藤本 将綱 / フジモトマサツナ
https://www.instagram.com/fujimoto_masatsuna
山田 将志 / ヤマダマサシ
https://yamadamasashi.jimdo.com