よむラジオ耕耕 #25 「自由に楽しむためのガイド」〜あなたから出たゴミだけがあなたのオリジナル〜
※ 昨年放送された番組の文字起こし版です
完成させなくたっていいじゃん
加藤:今回もリスナーさんから創作に関するお悩み相談をお便りでいただいてますので、少しずつ回答していけたらと思っております。
加藤:なるほど。何をもって完成とするか、難しいね。「完成させる」というのが 、僕も星野くんも作家じゃないから、ちょっと曖昧な返事になってしまうかもしれないけれど⋯⋯⋯完成って⋯⋯⋯どういうことなんだろうね(笑)。
星野:こっちが聞きたいですね(笑)。
加藤:たとえば「写真」で言うと撮るだけじゃなくて写真を選んでプリントすることだと思うんだけど、絵画や彫刻表現のような0から1を生み出す表現や、素材から作り上げていくという表現の時にどう完成とみなすかということだよね。「ピリオドを打つ瞬間」、つまり多くの作家は筆を置いてサインをすることによって「これを完成とする」というか、完成にいかないまでも、ここを作家としての現時点での「定点とする」というものにしていると思うんですよね。
星野:なるほど。そうですね。
加藤:だから、サインがないものはあくまでプロセスであり習作と見られてしまうだろうし、でもだからって価値がないわけではなく、完成品ではないけれどもひとつのアートピースとして美術館に飾られたりするよね。偉大な作家の「習作」として後世に残っている。だから大きな座標軸で見てみると、完成していようがいまいが、良いものは良いし価値があるとは言えると思うんだよね。そもそも心が動くがどうか、芸術として優れているかどうかだし、あえて「完成させない美しさ」というのはあると思う。アンバランスさに寄りかかって、そこに美しさが生まれる。もしくは、イラストレーションの業界になると「ヘタウマ」のような扱いもある。
星野:確かに。
加藤:あとは、展示に向けてとか、依頼者の希望に沿って締切や納期がある場合は、どうしたって作品を完成させなければならないよね。納品という行為が生まれるからね。油絵はそれまでに乾かさないといけないしね。
星野:販売するか否かでまた変わりますよね。
加藤:そうだね。自分が買うことを考えると、完成していないのは買いたくないかも(笑)。
星野:そうなんですよね。カンヴァスの処理や、塗り損ないをみると、作品としてはどうなのかなと、思われてしまいかねないかもしれませんね。
加藤:うん。わかる。例え作家の意匠と言われても、塗りムラとかは気になってしまうよね。それはやはりギャラリーを運営する者たるゆえんというか。でも、逆に言えば、「生きてる以上は完成なんてない」とも言えるよね。他人に「未完成だろう」とか「完成には見えない」とか言われようが、作家としての強い姿勢があれば、なんともないはず。なのでまずは完成の基準を「サインを書く」ことにしてみて、納品するにあたって現時点で現在のあなたがサインができるかどうか、ということなのかなと思います。モヤモヤするならまだまだ挑戦の余白があるのだと思うし、迷いなくサインできるのであれば、もうそこで終わりでいいんだと、作品が訴えかけている気がします。日にちを置いてみてもいいかもね。やっぱ違うわとなる可能性もあるし。だから「完成」がどうこうというより、その時点で納得しないならばやめるか、もしくは「完成」を絶対的な終わりとせずに、また同じモチーフでチャレンジし続ければいいのかなと。ぼくの好きな中川一政という画家はずっと花瓶の薔薇を描き続けてました。死ぬまで。
星野:いいですね。
加藤:死ぬまで絵を描くなら、いまが出せればいいわけで、つまり「未完成」でも発表していいって考えると楽になるかもしれませんね。あとは、作家が考える作品としての完成というのは存在しなくて、鑑賞者が見ることで完成とすると考えてみるとか。作家ではない我々が言えるのは、作品は完成させなければならないということに「捉われないで」ということでしょうか。「まだ途中」というプロセスさえも受け止めてくれる寛大なギャラリーでありたいものです。
模倣することで生まれるもの
星野:次のお便りに行きます。
星野:SNS でアドバイスを集ったところ、反響が大きかったですね。たとえば、
加藤:シンプルな相談だけど、でもこれって実はこの世界に潜んでいる巨大な問題な気がします。みんな少なからず真似や模写は得意だったり、アレンジが上手だったりするだけで発明と呼べるほどのオリジナリティは見出せていないんだよね。オリジナル風なだけ。結局、この日本に生まれて育って、義務教育という社会でいろいろ学ぶことになるから、我々の環境としては卓越したオリジナリティを生み出すって難しい気がする。マスコミも過剰だし、インターネットもあるし、何かしらの影響は受けますよね。だから真似や模写はやって当然。
星野:ではその上でどうすればいいのかということですよね。
加藤:そう。というか、オリジナリティはさておき、表現する上で「模倣」って大事だと思うんですよね。一度、誰かの真似をしてみることで、描けない部分(真似できない部分)がわかってくる。何度も何度も繰り返してその過程で起きる「なんでできないんだろう」というポイントがあなたの大事な部分。模倣しようとしているのに、似ていない部分、できなかった部分は、あなたのゴミのように見えて、あなたからしか出ないゴミなんですね。あなた特有のエラーというか。オリジナルを追求するなら似る部分にフォーカスするんじゃなくて、似ない部分にフォーカスする。というか、それしか創作においてあなたの栄養にはならないというか。「あなたから出たゴミはあなたが愛しなさい」という。そのゴミをかき集めた時に浮かび上がってくるのが、あなたのオリジナリティになるんじゃないかと信じています。表現悪いけど(笑)。
星野:「あなたから出たゴミはあなたが愛しなさい」。名言ですね(笑)。
加藤:まとめると、模写が得意ならば、その回数を増やしていく。それにつれて個性が見えて来るんじゃないかなというのが僕の見解です。ただ、何度も何度もというのが大事だと思っていて、2、3回真似してわかった気になるとか、中途半端に自分に取り込んでオリジナル気取ると作家としては抜けられない負のスパイラルに入ってしまうし、命取りなので、徹底的に模倣してみてください。
星野:つまり短所が個性になりうる?
加藤:そうだね。たとえば、ひとによってそれが短所に感じるかはあるかもしれないけれど、限りなくそう言えると思う。でも、短所を短所のままにしておくと意味がないので、短所を集めてふるいにかけ、優れた短所を探すというか、自分の得意と短所を掛け算してみるとか、短所の部分だけを意識しすぎず、抽象的に聞こえるかもしれませんが、ぼくが勉強している限りだと、そういうことを繰り返した人が見える景色がきっとあると思うので、がんばってみてください。
美術館の鑑賞方法について
星野:では次の悩み相談です。
加藤:星野くんはどうですか? 最近いろんな展示を見に行ったりしていると思うんですけれど。
星野:見た時の初期衝動は大事にしていますね。見た時の感覚を忘れないゆようにしています。でも、いろいろその作家について知識がついてしまうと「こういうところが作家として共通するな。ここはどうなってるんだろうな」という風に見てしまいますね。でも、なるべくキャプションは見ないようにしますね。はじめは特に。最終的には結局キャプションをずっと見てしまうことになるので。
加藤:ぼくも美術館規模だと、最初は何も読まずに一回作品をぱあっと見ちゃうかも。で、入り口に戻ってあとから気になったのをゆっくり見ることが多いかな。全然気にならなかったのはキャプションすら読まないかも。時間がもったいないって思ってしまう派。
星野:印象に残る絵ってありますもんね。
加藤:そうそう。でも大事なところを見逃してしまっていないかと思って、こないだ「マティス展」で、音声ガイドを借りて鑑賞してみました。はじめてかも。あれ、最高だね....。全員、鑑賞方法で悩んでるひとは音声ガイド必須にした方がいいよ。展示作品の横にマークが書いてあって、そこに立ってガイドを再生すると、キャプションに書いてないことも教えてくれるんだよね。作品を見ながら説明を聞くことで作品への理解が拡張されていくし、振り返りやすい。すごく良かった。もちろん見る側のイメージは自由だし、なぜ勉強しにきたわけでもないのにいちいち解説を聞くんだろうと思っちゃいそうだけれど、その縛りはあまり感じなくて、どちらかというと「自由に見るためのガイド」というかね。もう少し作家の背景を知っていた方が、絵を自由に見れますよね、というくらいで説明を止めているから、すごくエンタメとして最高でした! 僕は今後、美術館に音声ガイドがあったら全音声ガイドを借りようと思います。
星野:そこまで(笑)。斜に構えて借りていませんでしたが、音声ガイド、今度借りてみよう。
加藤:おじさんおばさんしかつけてないよね、あれ(笑)。
星野:ですね。
加藤:でも、マティスなんか60年ぶりとかに来てるわけだし、2000円とか払って観るわけじゃん。だからなんとなくで見て、何も感じずに帰ってくるより、ある程度、ここで知識を身につけて帰った方がいいよ。プラス1000円くらいでさ。
星野:そう言われればそうですね。
加藤:だから、オススメの鑑賞方法としては1周目はフィーリング。そしてガイドあるなしにせよ2周目を作ること、が大事だと思う。じっくりゆっくり1から辿って退屈するより深く楽しめると思う。もし美術館じゃなくて小さいギャラリーだった場合は、例えば展示作家に質問してみたり、ギャラリーのひとに作品について聞いてみたり。恥ずかしいし緊張するかもしれないけれど、百聞は一見にしかず。飛び込めるところには飛び込んだほうが、鑑賞の経験としていいと思います。
みなさんお便りありがとうございました!
おしまい
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