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よむラジオ耕耕 #23 「惚れて惚れられ車に轢かれて」

加藤:だんだんお便りを送ってくれるひとも増えてきましたね。ギャラリーに来てくれたひとが「ラジオ聞いてます!」と言ってくれたりして、やっててよかったです。

星野:ありがたいですね。引き続き感想やご意見のお便りを募集してますので、お気軽にお寄せください!

radiokoukou@gmail.com


ギャラリー運営と演劇は似てる

加藤:まず、先週の高校演劇部時代のエピソードが好評で、あの時、演劇をしていてよかったなと改めて。それで改めて思ったのが『演劇の特殊性』について。演劇は映画やアニメとちがって、幕が上がってしまうと『生もの』なんですよね。間違えもあるし、タイミングもその都度変わる。高校演劇なんかでも照明や音響があって、美術(大道具も小道具)もある。総合芸術として、みんなでひとつの舞台というか、世界を作っているという感動が高校生ながらにすごかった。つまりチームワーク。全員が、「ひとつのもの」を作るために動く、その感動がずっと忘れられないんですよね。それに演出家や舞台監督をしていると、みんなが頼ってくれるんですよ。手元の道具ひとつにしてもどんなものがいいのかを聞いてくれる。それで、僕の頭にあるものを共有して形を作っていく。その時のチームワークがたまらなくて、今もやりたいんだなと思う。

星野:確かに。ギャラリー運営にも通じるものがあるんですかね。

加藤:ギャラリー運営も確かにそうかも。ディレクターとして自分のジャッジで物事が進んでいくし、ギャラリーもひとつの舞台として考えてみると、スタッフや作家さんとのチームワークが求められたりするしね。

星野:展示というひとつの舞台をつくるイメージですよね。

加藤:そうそう。まぁ先週は高校演劇時代のエピソードをおもしろおかしく話したけれども、やっぱりあの3年間で鍛えられたものは大きかったと思う。だってさ、本番のベルが鳴ってしまうと、監督の僕にできることはもうない。みんなと一緒に今までコツコツやってきたことを、舞台で1時間とか2時間とか、やるのを見守ることしかできない。それを高校3年間で、平均3公演ぐらいする。でも、僕は自身で劇団とかも立ち上げてたからほかの高校生よりは多かったかも。舞台は5、6本やっていて、そうなってくると「ライブ感がある中」で自分を信じて何かを作ることや、幕明けと同時に仲間を信頼すること、感性や衝動を大切にすることなど、裏方だからこそわかるものづくりの本質とか、確かに得るものがあった気がしたな。演劇でしか得られなかった気がする。これは前回の放送で伝えきれなかったことです。

星野:高校生で、俳優や美術をやりたいというひとはいたと思うんですけれど、加藤さんみたいに「裏方」になりたいって高校生にしては渋い選択肢だと思うんです。大人だなって。でも、だからこそ、裏方のひとって本当は役者をしたかったひとなのかなと気になりました。

加藤さんも役者をやりたかったんじゃないかな⋯

加藤:確かに。でも、案外、裏方志望は多かったよ。メイクとかオシャレが好きな子は、先輩に教わりながら衣装やメイクを勉強してたし、音楽好きなやつは音響としてセンスを開花してた。照明をやりたいってひとたちは本当に裏が好きなんだなって。役者に光を当てるって裏の裏だよね。逆にいうと、俳優志望ってやつは意外と自分の能力が見えてなくて、才能が開かなかった。役者でも裏方でもなんでもいいってタイプのやつがいい演技したよね。裏がわからないと演技できない気がした。

星野:それ、なんかわかる気がします。

加藤:実は僕も3年間裏方やりながらも俳優やってみたかったんだよね。だから、卒業寸前にみんなにわがまま言わせてもらって同じ演劇部の武田ってやつと二人芝居をしたんだよね。彼は僕の脚本ではいつも主役をしてくれていたやつで。その時に選んだ本が、僕が好きだった三谷幸喜の『笑の大学』という、稲垣吾郎主演で映画にもなっている作品。

人間がふたりいて、扉とテーブルがあればできるというシンプルな舞台でした。稽古のタイミングはみんな受験の最中で、それどころじゃないんだけれど、当時山形市内の演劇部の精鋭を集めて組んでいた劇団の仲間にも声をかけてなんとか手伝ってもらった。照明はあの高校のあいつにお願いして、裏方はあいつに頼もうとか、音響は受験勉強のあいだ無理言って音楽のセンスのいい友達に頼んで⋯と、さまざまなツテを辿って、みんなに助けてもらいました。最後くらい加藤さんに花束を、とまでは言わないけれども、裏方ではなく役者として高校演劇を終えてもらおうではないかと協力してくれて。

星野:すごい(笑)。本当に一目置かれていたんですね。

加藤:舞台は何百人も入ることができるホールで、ちゃんと興行として入場料も取ったし、公演を実現するにはお金も必要だったのでスポンサーもつけた。あとはとにかく地道に稽古もしたよね。演出家じゃなくて役者としてセリフを覚えて、自分で自分の演出をつけて。武田も受験の合間にがんばってくれたんだよね。肝心の脚本は『笑いの大学』の舞台がたまたまテレビでやってたのを録画してあったから、武田とセリフを聞きながら、パソコンなんて持ってなかったから原稿用紙に文字起こしをしてった。ふたりでずっとテレビの前に座り込んで、「いまなんて言った?」とか、巻き戻したり。本がおもしろすぎて笑い転げたり。

星野:青春映画の一幕だ⋯。

加藤、車に轢かれる

結局目立ちたがりだったのかも

加藤:そんなこんなで、みんなを巻き込んでまで計画した二人芝居の本番日は、雪の降り積もる卒業式。山形の高校生は雨だろうが雪だろうが自転車で移動するんだけれど、その日もぼくは自転車で急いで飛び出して、公民館に向かうんです。で、20分くらいかかる道かな。その道中で、ぼく、車に轢かれてしまうんですよ。

星野:ええ ⁉

加藤:まさかの。信じられないよね。『タッチ』の和也状態。死にはしなかったけれど。幸い、ぶつかった衝撃でボンネットに乗っかったらしく、さらに積もった雪の上に落ちたから、外傷はなかった。でもやっぱ普通に考えてただの「事故」だからパトカーが来て、ぼくを轢いた運転手さんに「病院行かなきゃダメだよ!」と言われ。でも、「言ってもよくわかんないかもしれないんですけど、ぼく今から舞台の本番なんで、すぐに行かなきゃいけないんで病院は結構です。」って(笑)。でも誰も信じてくれないよね「この子何言ってんの?」「打ちどころ悪いかも⋯」みたいな雰囲気になっちゃって。そのままパトカーに乗せられて近くの病院へ搬送されました。

星野:えー⋯舞台の時間も間に合わないですよね?

加藤:スタッフのみんなそれぞれ自分の学校の卒業式が終わった瞬間に飛び出て、ホールに着けば、本番さながらの「通し稽古」できる唯一の機会だったんだよね。それまでは公園で練習したり、公民館の会議室を借りて稽古してたから本番環境でやるってかなり重要で。でも、轢かれたんですよ。人生初のパトカーの中で「まじかー」と思って。病院の廊下で診察を待ってる時間にも、今すぐに帰りたいと思っていた。当時は、今みたいに LINE とかないから、PHS(当時の携帯電話)で電話して「そっちどういう状況?おれ車に轢かれて行けないかも。打ちどころ悪いのか、今ぼーっとしてて⋯」なんて伝えて。

星野:轢かれたあととは思えない冷静な対応(笑)。

加藤:そう。レントゲン撮っている間に、ようやく「俺これ間に合わないかも⋯」と思いはじめて、発狂しそうになって⋯。それでようやくこっちの状況に勘づいた警官が「今なら間に合うか?」と、検査が終わった瞬間にサイレン鳴らして走らせながら僕を送ってくれました(笑)。

星野:もうそれが映画ですね⋯。

加藤:会場につくとみんな心配してくれるんだけれども、こっちはもう必死だよね。楽屋に荷物を置く余裕もなかったと思う。リハーサルする時間なんてなくて、ただただ脚本を片手に監督と舞台上の動線や段取りを確認することに。その時、役者としてはじめて舞台に出ていくわけだけど、そのホールの大きさに感動したよね。

星野:さっきまで車に轢かれて病院にいたのに。

加藤:あ、話は前後するんだけど、その数ヶ月前に、卒業して東京に行ったひとつ学年が上の先輩からラブレターをもらうんだよね。そのひとが3年生の時、体育の時間の体育館の窓から演劇部の部室で授業サボってたぼくを見ていて想いを寄せてくれてたらしく、僕は知らなかったひとなんだけど、その手紙に「好きです」「東京から二人芝居を見に行きます」と書かれていて。写真も同封されてたんだけどかわいかったんだよね(笑)。何度か手紙を送りあって、そのうち電話したりもして。そんなの、僕も会えたらいいなという気持ちになるじゃん。でも時系列的には、僕が轢かれて病院に行ってる間に、その先輩は何も知らずに東京から山形行きの新幹線に乗ってワクワクしながら向かってる⋯。

星野:すごい話だ。

加藤:それもプレッシャーになってたし、リハーサルができなかったこと、興奮で頭がぼーっとすることなんかが重なって急に客席を目の前に「あ、できないかも⋯」と思いはじめた。そこに武田がやってきて「いつも通りにしたら大丈夫だから」と言ってくれた。それで、なんか不思議とスイッチが入って、これは芝居だけど、武田と話すだけでいいんだと思ったらふっきれたんだよね。会話劇だから。武田が言ったことに自分が返せばいいんだと。

ショウマストゴーオン


加藤:『笑の大学』は、戦時中の話。当時、舞台を上演するとなるとその脚本は検察官に検閲されることになっていて、そこで許可が取れたら興行できていた時代。僕が、国家に従順な厳しい検閲官役で、劇団の座付作家役が武田。なんとしてでも自分の書いた喜劇を上演したいと諦めずに何度も脚本を持ってくる作家、戦争の真っ最中に喜劇なんぞと何度も無理難題とも言えるいじわるな修正を提案する検閲官。検閲、修正を繰り返しているうちに、気づいたら脚本がどんどんおもしろくなっていくという内容で⋯。

星野:おもしろそう⋯。

加藤:本番のベルが鳴って舞台の幕があがって、照明がついた瞬間、セリフと記憶が全部飛んじゃって⋯。気づいたら武田が僕の前に現れて、次に気づいた時には幕が静かに閉まっていた。さっきはじまったばかりのに(笑)。やっぱり打ちどころが悪くて途中で気絶したのかもしれないとさえ思った。でも、次に幕が上がると客席中に拍手が溢れてた。え? どういうこと? と思って立っていたら、武田が近づいてきて熱い握手。舞台は終わったんだよね。

マジで死んだと思った

星野: じゃあ、記憶がないんですか?

加藤:いや、あとで思い出すと1箇所だけあって⋯。武田が明らかにセリフを飛ばして、で、僕がそれを慌ててアドリブでフォローしたという記憶はある。で、芝居の幕が閉まったあと、また幕が開いて客があいさつするのとカーテンコールって言うんだけど、カーテンコールも終わって、再度幕が閉まって。それでようやくみんなに「できてた?」って(笑)。そしたら「稽古でうまくできていなかった部分も含めて舞台は完璧でした」って。安心したよね。無意識でやりきったんだって。それでお客さんに改めてお礼を言いにロビーに行ったら受付をしてくれてた後輩が「先ほど女性の方が花束を加藤さんにと、もう帰りましたけど」って。それで、ハッと⋯。おそらく15分くらい前に帰っちゃったって、でもその日たしか日帰りで東京へ戻る予定だったのを思い出して花束を持ってホールを飛び出して、新幹線が出る山形駅へ向かって雪の中を全力で走った。

星野:それ、頭打って作った嘘の記憶じゃないですよね(笑)

加藤:違う違う(笑)。もちろん「もういないだろうなー」と思いながら行くんだけど、着くと待ってたかのように改札の前に彼女がいて、僕はもらった花束をそのまま渡して「今日は見にきてくれてありがとうございました」と。彼女も「完璧でした」と言ってくれて。そこからは⋯えーと想像にお任せします⋯。

星野:うわ〜!気になる(笑)! 何度も言いますけどそれ本当の話ですか ⁉

加藤:もちろん本当の話。

おわり

よむラジオ耕耕スタッフかのちゃんによる文字起こし後記

卒業式、誰もが感傷に浸りがちな、ヒーロー / ヒロインになる日にメラメラと燃える男・加藤さん。そして、巻き起こるまさに喜(悲)劇的な出来事に、今回はドラマラジオを聴いているような回だった。自分の記憶のない最中、繰り広げられた最高の劇。できることならば、演じながら、もうひとりの自分として、観客で見てみることができたら加藤さんもきっとおもしろく感じたんだろうなあなんて想像しながら聞いていた。それにしても、劇に奔走する・会場まで走る・異性のもとへ走る、青春の体力は凄まじい。そして美しいなあ。

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