妄想絵日記の木川田みりです #16 | 3/21(木)
磯好きな人と出会った。
彼はとにかく磯が大好きで、日本中の磯を巡っては、夜通し釣りをすることもあるらしい。彼の口からは、魚に触れるようなしなやかなトーンで、おすすめの磯や、釣れる魚、注意すべきポイントなど磯にまつわる幾つもののことが詳細に語られていく。
「磯アディクト、なんです」
そういった彼の表情は日の沈む湖畔で魚を待つ時のような、どこか寂しげなものがあった。
気がつくと、そこは波が打ち寄せるたびに白い飛沫を上げる荒々しい海岸線だった。岩肌は風化し、苔や貝殻がびっしりと付着している。潮風が絶え間なく吹き抜け、塩の香りが漂う。私は長年の波風にさらされて角が丸くなった岩に腰をかけ、釣りを始めた。じっと魚がかかるのを待っていると、突然、竿先がピクッと動いた。手元に伝わる微妙な震えが次第に大きくなり、リールを巻く手に力が入る。
「あっ」
逃げられてしまったようだった。残念、と思いふと彼の方を振り返ると、そこはさっきまで飲んでいた新宿のバーだった。彼の表情から、魚が水中で泳ぐように、アルコールが体内を自由に駆け巡っているように見える。グラスを口に運ぶたびに、彼の目にはかすかに輝きが増し、深海の奥底にある静かな幸せを垣間見るかのようだった。
ー 木川田みり
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