ON THE WAY TO PARK #006 『神田の異空間で、髪を切る』(びようしつ seki.)
異彩を放っている。店構えは勿論、店主自身も。
神田須田町にある美容室、その名も『びようしつ seki.』。古民家の一階、木が茂り、窓からは店内がうっすら見える。骨董品や本、アートで埋め尽くされた店内にこれまたアンティークの椅子と鏡が1台ずつ鎮座。初めて通りがかったら美容室というよりも作家のアトリエだと思うはずだ。
神田の裏通り、老舗の飲食店や昔ながらの事務所兼住居型ビルが集まる一角にまさかこんな異世界があるなんて思わない。初めて通りがかった時、思わず二度見したのを覚えている。
初めて予約をしたのは2年前の夏。内心、かなり緊張しつつもただならぬオーラに惹き寄せられていた。当然ながらホットペッパービューティーに掲載されているわけもなく、電話を掛けた。
現れたのは、胸までかかる白髪のロングヘアと天然素材の服に身を包んだ激渋な紳士、関さんだった。超然とした佇まいは空間に負けず劣らず ……!
「あっ、初めまして。相川さんですね?」
想像と違ったのは、思いのほか穏やかな声。物腰柔らかで温厚な佇まいのギャップに瞬く間に緊張がほぐれた。
彼の仕事ぶりはまさしく感性の業。こちらがイメージしているニュアンスを丁寧に汲み取り、言語化し、形にしていく。大体のイメージや気分、したいファッションや悩みを一通り話した後、ぴったりなスタイルを提案してくれる。
以前、PARK GALLERY のディレクター、加藤さんに美容室のおすすめを聞かれたら迷わず『びようしつ seki.』をおすすめした。
さて、私には関さんの元へ行くとき、一つとても楽しみにしていることがある。
パーマを待つ間の飲み物とお菓子。これがびっくりするほど美味しい。どうやら関さんのご友人である横須賀のお店のものだとか。
フロランタンとホットティーでおもてなしされている時間。どちらかといえば退屈なだけの思い出しかない空白の20〜30分がこんなに豊かになるなんて。
髪を切ることは、ファッションや身嗜みと関わりが深いことはもちろん、人間の営みでも必要不可欠。だからこそ、生活の場や慣れ親しんだ場所から近いこともなんやかんや大切だと思う。
PARK GALLERY に来る前、1つ前の駅で降りて、髪を整えてくる。そんな日があっても素敵じゃないか。PARK に並ぶ作品に触れることはまた違う、極上のインプットになること間違いなしだ。
そういえば伸ばしっぱなしで、久しく髪を切っていない。そろそろ行こうか。次の髪型は、どうしよう。
イラスト:あんずひつじ