#01 「まずはじめにしたこと」
まずはじめに
残すところあと1週間となりました。20人の作家によるその年の『マイ・ベスト』な作品を集めたグループ・エキシビジョン『THE BEST展 2020』。
参加アーティストはこの1年の自分の作品を振り返り、見つめ直す機会として、そして会場に訪れたみなさんにとっては、全国各地から集まる様々なジャンルの、個性あふれるアーティストたちが選び抜いた『渾身の1枚』を、まとめて楽しむことができる内容となっています。
20人の作品を、この小さな空間に、どの作品も遜色なく見劣りすることなく展示するにあたって、うまくいくかどうかいつもギリギリまでシンパイなのですが、いざ設営日になるとほぼ迷いなく、設営を進めることができます。
作品が話しかけてくる
そんなアホな、と思うかもしれませんが、まず作品側が「ここ」と話しかけてきます。すべての作品を箱から取り出し、並べると、会話がはじまるんですが、人間との会話というより犬の鳴き声に近いですかね。ワンワン。両手に持つと、その意思表示がはっきりと伝わってきます。なので、このコラムでは、その会話の内容を、各作家さんの作品の紹介を交えながら伝えていきたいと思います。
残りの5、6日はこのコラムと合わせてお楽しみください。
つまり焚き火がしたかった
まずはじめにぼくを呼んだのが、この作品。
(紹介する順番に他意はないのであしからず)
『E.T』や『東京物語』、『ラ・ラ・ランド』など、自身の好きな映画のワンシーンや人物、景色を描くイラストレーター石橋瞭さんによる『桃太郎』の架空のワンシーンを描いた作品。
つい桃太郎たちのユニークな佇まいや表情に目がいきがちですが、気になったのは、今にも熱が伝わってきそうな灯のやわらかさと森と空の深さの描写でした。
パチパチと焚き火を囲むような作品展にしてみてはどうでしょうか。
そんな風に聞こえてきた気がします。
ぬくもりのあるこの作品は、迷うことなくいちばん長く大きな壁のほぼセンターに配置。パークで個展をやった人はわかるかと思うんですが、センターだから目立つか、というとそういうわけでもないのが妙なところ。でも、ここに焚き火の絵を置くのは、空間全体をあたためる。そう考えました。考えるというか、その瞬間にはもう飾られてた。
飾ってみると、パークギャラリーがしたかったのは焚き火だったんだということに気づかされました。
SNS ではなかなか伝わらないぬくもりが原画からは感じることができるので、お見逃しなく。
『円』 で考える
作品を展示する時は、水平や並行などの『線』を意識することもありますが、多くの場合は『円』で捉えています。今度は山手澄香さんの作品を手にしました。
色鮮やかで賑やかな展示にしましょう。
そんな風に聞こえた気がします。
ZINE の展示イベント COLLECTIVE ではじめて知り合ったイラストレーターの山手さん(香港のお面の ZINE が印象的)。行列のできる代々木上原の名店『按田餃子』のパッケージのイラストもそうですが、おいしい『ごはん』の絵がとてもすてきですが、今回は、かつてより山手さんがライフワークにしている『メキシコ』の世界観をモチーフにした作品での参加です。
一見、結婚式のウェルカムボードのように色鮮やかで華やかな作品ですが、描かれてる新郎新婦はメキシコの奇祭『死者の日』のアイコンでもあるガイコツ。様々な形のカラフルなモチーフが放射状に広がって賑わいを見せる不思議な魅力の作品です。
原画とゴム版画で作られたオリジナル作品
エディションは5です。お急ぎを。
石橋さんの円が、山手さんの円とシンクロして増幅するような印象で、縦に2枚、並べています。一番目立つ場所とは言い切れませんが、店に入った時の印象を無意識に操作する場所ではあると思うので、
・あったかい
・にぎやか
この2つが柱にあるといいなと思いました。
こんな風に、レイアウトは決まっていきます。どの作品も、なんとなくでは置かれていなくて、そこに置かれた理由があります。言葉にならない時もありますが、できる限り言葉にして共有できたらと思います。
今日はもう1人。平野晶さんの作品を紹介します。
立体感を大切に
円を意識して展示をするので、よく設営中に回転します。僕自身が。そうすると、まだ何も飾ってない壁に、色やかたちが浮かんできます。自然と、イラストレーターの平野晶さんの作品を手にしています。
頭の中のストーリーとしては、石橋さんの森の草木を窓際に飾るというイメージもありますが、文章を読ませるように作品見せたい、という狙いがありました。なので展示位置はステートメントの書かれた額の横。
植物のワイルドな描写を得意とする平野さんですが、今回の作品は今までの平野さんの作品とは少し違ったアプローチで、SNS や写真ではなかなかその魅力を伝えるのが難しい、というのも、アクリル絵具で描かれた草や枝を切り抜いて、貼り絵やコラージュのような技法で構成されているので、立体感がある平面作品となっています。その重なりや、その重なりの奥に想像する物語を(窓の向こうの景色を楽しむように)、読むように見て欲しいと思ったのです。つまり「窓の近くに置いて」と話しかけてくるんです。風を感じるか光を感じるか、それぞれ楽しんでみてください。
目線(高さ)も、より立体的に見えるところはないか、こだわっています。ほかの作品はもちろん、パークの店内の植物たちとも立体的にシンクロするような『円』をイメージしているので、ぜひ、会場で体験してもらえるとうれしいなと思っています。
平野 晶 instagram
こんな感じで、会期中にすべての作品を紹介していきますので、会場に来れない人も、オンラインで作品をお楽しみください。
営業は残すところ5日。大晦日まで営業していますのでそれぞれ無理のない範囲で、遊びに来てください。
感染症拡大防止のため、大晦日の営業終了後の年越イベントや22時以降の打ち上げは中止になります。楽しみにしていたみなさまごめんなさい。