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よむラジオ耕耕 #37 『生きるってそんなにオシャレじゃないんだよ』

よむラジオ耕耕はポッドキャスト「ラジオ耕耕」のバックナンバーに加筆や補足を加えた文字起こし版。過去のエピソードを過去のものとせずに振り返って改めて耕すためのコンテンツです。音声でもお楽しみいただけます。

加藤:今週は11月にみなさんから紹介してもらった『食』に関する作品、映画、本など僕らふたりが見たものがいくつかあるのでその感想を簡単に説明させていただきつつ、後半は先月11月の終わりでちょっと中途半端になっていた「北海道在住40代の匿名希望さんからの悩み相談」に答えていくという形でお送りしていけたらなと思います。

加藤:今回、東京在住の20代『もう坊主じゃない坊主マン』さんに紹介してもらった『フードインク』は2008年アメリカ映画。アメリカの食品産業に潜む問題点に切り込んだフードドキュメンタリー。まあ農薬とか、遺伝子組み換えとか、屠殺とかいろいろ手工業制の食がどんどん工業製、工場制になっていくみたいな。それのドキュメンタリー映画だったのですけど、これはおもしろかったですね。

星野:おもしろかったですね~!

加藤:一瞬で終わっちゃいましたね! あと⋯シンプルにやばい(笑) アメリカのひとたちの体が心配!っていうね。

星野:すごかったですね!結構前の映画ですもんね。

加藤:うん。2008年制作だからね。

星野:いや~その後どうアメリカの市場は変わっていったのだろうっていうところが気になりましたけど。

加藤:本当。でも変わったのかな? 徐々に徐々にオーガニックの売り場が増えてというのは映画の中でもあったけれど。基本的に中国もそうかもしれないけれどかなりの人数の人口をまかなわないといけないわけじゃん。⋯となるとやっぱりああいう工業制にするのは仕方ないのかな。でも塩素で肉を洗って出荷してみたいなさ、あんなの食べたくないよね、普通に。

星野:いや~衝撃的でしたね。

加藤:衝撃的でした。日本だとしてもちょっと肉買うときに考えるものね。本当に海外モノは結構ちょっとキツイのかもなとか。

星野:卵とか産地を気にしたことなかったです。会社とか。でもさすがに見るようになりましたもん。どこの農場から届いたのかなど。

加藤:ブラジル産とかね。まあ別に国で差別したいわけじゃないれけど、なんかまあ日本以外とか、まあ日本でも場合によってはそんなに大きく問題は変わらないとは思うんだけれど、大量生産はしないといけないから、たぶん。それに日本の流通がどういうシステムかは、あの映画ほど暴かれてはないだろうから、逆に日本もヤバいかもという話も。

星野:うんうん。

加藤:どうなんだろうね、実際のところは。中途半端なことは言えないですけども。ぼくはでも年代限らずというか、古いドキュメント映画ですけど、いま見て損はない気がしましたね。ちなみにアマゾンプライムで見られます

ちなみに、新作『フード・インク / ポスト・コロナ』の公開が2024年12月に決まりました。こちらも楽しみです。


ひとがやりたくないことを
誰かがやってくれているから
食べられているのだ

加藤:食に関しての作品として同じく『もう坊主じゃない坊主マン』さんから教えてもらったのは、福岡の筑豊やチェルノブイリの記録を発信してきた写真家・本橋成一が職業差別と身分差別に抗いながら大阪、松原の屠場で命と向き合う人々を追った渾身のドキュメント『屠場』。写真集なのですけども、ご本人がスタジオに本を持ってきてくれたので、よかったら今見ながらいろいろ話していければなと思いますが。

星野:そうですね。

加藤:まあなんかこの本を見て『フードインク』とつながるのは、やっぱりその隠されたベールの向こう側っていうか、なんていうのだろう⋯タブー視されているというか、差別につながっちゃうのだけれども、誰かが見せないようにしていることというか、ぼくらがお肉を食べるにあたって必ず必要な作業がこういう形で行われているっていうのを普段は見ることはできないことを、『フードインク』やこの写真集は見せてくれるっていうか。結構残酷でエグいというかね。モノクロじゃなかったらきついんじゃないかなっていうくらい(笑)。モノクロだからあいまいだけれど、牛が頭をハンマーで殴られているのかな。で、ちょっとこう、殺されるというか、解体されていく一連の流れをモノクロームの写真で綴っている本なのですが。感想としては「一頭」解体するだけでもこんなにも大変そうなんだなと思うのと、スーパーで並んでいる牛ってこの作業におけるどのくらいの量なのだろうとかって思うと、やっぱり大変なことをやってもらっているのだなっていうか。ひとがやりたくないことを誰かがやってくれているから食べられているのだ。って、ちょっとありきたりな言葉だけど、改めてこの『フードインク』と『屠場』のセットでグッとくるというか、日本でも目に見えないものっていっぱいあるだろうから。考えさせられましたね。トレーサビリティー(流通経路)っていうのですね。

星野:トレーサビリティー。大事ですね。毎食「いただきます」と言っているけど、どこに向けての「いただきます」だったのか、わからなくなっちゃうくらいリアルな感じですね。

加藤:肉だけじゃなく野菜もそう、届けてくれるひとがいるから、作ってくれているひとがいるから食べられているのだっていうのを改めて考えざるを得ないっていう感じですね。

星野:そうですね。

 

カットがよければ
だいたい OK

加藤:ぼく個人調べなんですが、さっきの『フードインク』とはまた別の、真逆の話なんだけれど、オーストラリの方に行くと、もう少し食肉に対する文化が醸成されていて、まず牧場主がプロデューサーみたいな扱いになっていて、その次に農家さんがディレクターというか、立場的に偉いんですよね。牧場主は要するに、土地を持っているからお金を出しているひと。で、ディレクターは実際に動物を育てるひとたち。次に流通経路的に行くとレストランのオーナーやシェフが偉いかと思いきや、その次は「ブッチャー」っていうひとたちになるんですよね。この写真集『屠場』でいうところの屠場で働いているひとたちですね。日本だとブッチャーが一番下になっちゃうのですよね。極端に言うと差別されてきた歴史がある。

星野:なるほど。

加藤:オーストラリアとか食肉の先進国に行くとブッチャーが超重要。極端な話、ブッチャーがどうカットするかによって変わる。いかにいい環境でお肉を育てても、ブッチャーがダメだと肉はダメになる。逆にシェフの腕がなくても、サービスがそこそこでもカットが良かったら案外おいしい。

星野:へ~。

加藤:いいブッチャーがいるから次にいいシェフがいるんですよね。まあ、いい精肉店があって、いいシェフがいて、で、レストランのサービスするひとたちっていうのがいて。とはいえ、上下をつけてヒエラルキー的な話がしたいわけではなくて、全員が全員尊敬しあってるのが前提。要するにプロデューサーも自分の牧場で育った肉がどうサーブされているかまで気にするし。末端までを大事にしている。その流れの中で、一番みんなが敬意を示している立ち位置にブッチャーがいるっていうのが結構やっぱ海外のすばらしいところで。でもやっぱり健康でいいお肉がいちばん。おいしい『グラスフェッド』っていう⋯日本語だとなんていうんだろう⋯放牧かな? 牧草を放牧で食べさせて、健康な状態のボディをお肉にする、おいしくさばく。

星野:うんうん。

加藤:で、めちゃくちゃ腕のいいシェフがいる。

星野:はいはい。

加藤:その肉をおいしくもまずくもするのってブッチャーなのですよ。

星野:鮮度が下がるってことですか?

加藤;鮮度というよりも切り方ひとつで全然違うらしいんですよね。多分寿司でいうところの板前さんというか。マグロの切り方ひとつでちがうみたいなところで。

星野:なるほど。

加藤:その部位がどういう部位なのかを知っている前提で、噛み応えとか、繊維に対して沿って切るかとか筋に沿って切るかとかを判断しているんですよね、ブッチャーっていうのは。超リスペクトですよね。で、しかも海外のブッチャーとかってだいたい全身にタトゥーを入れてて自分のアイデンティティに誇りを持っているっていうか⋯オシャレなんですよね。みんなにイケてるって思われている職業だからさ⋯プライド高くなるよね。なんか⋯メッシみたいな(笑)

星野:急にメッシ(笑)ぜんぜんわかんない。でもまあタトゥーかっこいいですもんね。街歩いていても堂々としているというか。

加藤:あと、なんか刈り上げとかしていて、バーバーの人みたいな。わかる?イメージ

星野:はい(笑)。ポマードで固めている感じですよね。

加藤:ああいう感じのブッチャーがいて「この肉はこうカットしたらうまい」とか「この肉のこの部位はこうさばくとおいしいのだ」っていうのをシェフとコミュニケーションして、そこからシェフがインスピレーションを受けて料理していくっていう。固くて捨ててしまうような部位の活かし方をブッチャーならわかる。

星野:え~!なんかかっこいいですね!

加藤:「農家さんと話す」とか「牧場主と話す」とか、その知識の源とも言えるコミュニケーションが、レストランで提供するときに「サービス」として、つまりワインのソムリエがこのワインの産地の話とかを客にするように、料理をサーブするひとも「お肉の物語」が話せるっていう、自然とそういうシェフとブッチャーがつながっているお店はサービスも優秀になっていく。それがすべてのトレーサビリティーのあるべき姿っていう話。海外の最先端の肉の世界を調べるとめちゃくちゃおもしろいよ。

星野:おもしろそう!

加藤:『ビクターチャーチル』で検索してもらうといろいろ見られると思うよ。ビクターチャーチルはもう、肉屋さんというかブティックなのですよね。

星野:へ~。ブティック⋯。

加藤:PARK GALLERY で、ビクターチャーチルが出している肉の教本を読むことができるので、興味あるひとは加藤までお声がけください。

加藤:『食べる』をテーマにということでいうともう1本『リトルフォレスト』っていう作品の紹介がリスナーさんよりありました。五十嵐大介による日本の漫画原作。今回はその映画版です。

監督は森淳一、主演は橋本愛。春夏秋冬の4部作として2014年に映画化。映画の見どころとなる『料理』の指導はフードスタイリストの野村友理率いる EATRIP。作者自身が岩手県衣川村で生活した際の実体験を基にした、大自然に囲まれた小さな集落で暮らす一人の女性の姿が描かれている。

加藤:これもよかったですね~(笑) ご紹介ありがとうございました! 食べるよろこびというか、合鴨を殺すシーンはすごかった⋯。自分で湯煎して、毛をむしって、ちゃんと自分で食べるっていうシーンがあるのですけども、自分でちゃんと“手を使って食べる”ということのありがたみとか、そして美しいというか⋯すべての食のプロセスを駆使している美しさ。橋本愛が美しいっていうのもあるのでしょうけど。あの作業はきっと誰がやっても絵になるなっていうくらいの説得力。食べるということのすべての魅力が詰まっていたなと思いますけど。どうでしたか? 『春夏秋冬』でどの季節がすきでしたか? 例えば自分があのシーンの中に身を置くとしたら⋯。

星野:一番印象に残っているシーンが最初のシーンでした。季節は『夏』からはじまるのですよね。で、夏のはじめに『パン』を作るじゃないですか。夏で暑いのにストーブを炊くみたいな。

加藤:そうそう、湿度でカビにやられないように夏に部屋の中でストーブを炊くシーンがありましたね。その熱を効率よく無駄にしないために上でパンを焼く。

星野:あの行為自体すごくうらやましかったですね。夏に薪ストーブでパンを焼いて、その後『麹サワー』を作るじゃないですか。それをキンキンに冷やしてスッキリするっていうサウナみたいな一連の流れがすごい気持ちよさそうで! 夏が僕はいいかもしれないですね。

加藤:わかる。最初映画見はじめてすぐのインパクトで「夏っていいな~。」って思うし、あのパンがやっぱり僕も気になりましたね。パンに塗るジャムも自分で作って⋯。都会で、効率のよさが大事!とか、タイムパフォーマンスとかコストパフォーマンスって言われている中でそういう「工夫の話」ってやっぱいいなーって思ったり。せっかくこれが採れたしあれを作ろう、と日々思えるっていいなって思うよね。

星野:そうなんですよね。効率を重視してあの食事ができあがったわけじゃないというか、自然に身を置いていたらそれができたみたいなのがすごい納得いきました。

加藤:映画として見るっていうより美しい環境映像を見ているみたいじゃんね(笑)。Youtubeのネイチャーチャンネルというか、だからすごいラクに見られて、ずっと流しっぱなしにしていてもいいなって。寝る前にぼーっと見ててもいいなと思えるし。

星野:加藤さんが心に残ったシーンはありますか?

加藤:見ながらメモしたのですよ。感動した瞬間。まず「干し柿のシーン」。柿を友だちと採りすぎちゃって、仕込みをするのだけど⋯友だち役の松岡茉優とコタツでおしゃべりしながらずーっと干し柿の下処理をしてて、このシーンがすごいなあと思って。あんな若い娘ふたりが。東京じゃ考えられないというか。心の底からいいなあと思いましたね。あとぼくは田舎生まれ、田舎育ちなので、冬の雪深いシーンも好きでした。冬はいろいろな食べ物がおいしくなるし、好きな季節です。

リトルフォレストは『夏・秋』『冬・春』の2タイトルに分かれていて、有料ですがAmazonプライムで見ることができます

加藤:さて、今回はみんなが好きな『食』というテーマで少し長くなってしまったのですけど(番組内では他にも『川っぺりムコリッタ』『凪のお暇』『3月のライオン』について話しています)

こんな感じでみなさんに作品をご紹介いただいたりおすすめしてもらったのは、ぼくらできるだけ見ていこうと思っています。民放のラジオとか人気のポッドキャストって新作を紹介するじゃないですか。でもぼくらは新旧関係なく、いろいろなテーマを絞って、それらの魅力を掘り起こしてもう一度耕してスポットを当てていくっていうことをやっていけたらと思っています。

今後ともよろしくお願いします(シーズン2でも引き続きオススメの作品情報などお待ちしています)。

おしまい

よむラジオ耕耕スタッフ津谷ちゃんによる編集後記

リスナーさんから紹介していただいた作品の感想を加藤さんと星野さんが和気あいあいと話す回。最近、環境汚染と人口増加によって食糧問題が深刻化し過ぎた世界を描く SF 映画『ソイレント・グリーン』を見たということもあって最初に紹介された『フードインク』の感想話から心を掴まれた。

今回はじめてラジオの文字起こしを務めたのですが「映画だけでなく写真集などの感想会もラジオでできちゃうなんて!」とうれしい気持ち。流行りだけではなく「過去の作品」にスポットを当ててもう一度「耕して」いく。わたしも好きな作品たちについて耕し続けて、新しい情報も取り入れ、肥やしてもいきたいと強く思う。

津谷春凪
21歳 大学生 イベントの企画とかをしています。
ホラー映画が大好き。河童を探しています。

\ シーズン2はじまってます /

感想や悩み相談、オススメの作品なんかも募集しています


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