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【 ZINE REVIEW 】 COLLECTIVE エントリー ㊹ 大月 ユリコ 『少女譚』(京都府京都市)

COLLECTIVE も残すところ、10日を切りました。あっという間。みなさんから預かった ZINE は、売れていたりいなかったりもしますが、いろいろな人の手に、目に、確実に触れられて、心を動かしています。見に来てくれた人たちも、買か買わないは別にして、きっと必ず何かしら小さな革命みたいなものが、それぞれの胸の中で起きているのではないかと信じています。ワクワクしたり、ドキドキしたり、知った気になっている人も、何も感じないフリをしているだけで、本当はたくさん並んだ、様々なジャンルの才能を前にきっと内心、動揺しているはず。ひとりひとりがここから持ち帰った『何か』を、それぞれが別の分野で花開かせる時が来るのではないかと強く思います。それだけ『パーソナル』な ZINE というメディアの集合体(COLLECTIVE)には、エネルギーが漲っている。今朝方、この COLLECTIVE への出展が憧れだったというツイートを見てうれしくなってつい、強気な書き出しからはじまってしまいましたが、ほかのイベントではたたき売られる ZINE も、このイベントでは1つ1つていねいに、発信しているつもりです。そのために結構毎日スタッフ共々がんばってるので、今日はこれくらい言わせてください。

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少女たちが主人公の、不気味な短篇集

今回紹介するのは、作家の大月ユリコさんによる ZINE『少女譚』(譚 … “たん“は物語の意味)。新旧の文化が折り重なる京都からのエントリーは2人目。しかも大月さんは2018年、2019年に引き続き3年連続のエントリー。うれしいですね。今回エントリーの『少女譚』は、『こんばんは 眠りの森』(2018)『お風呂の大野さん』(2019)に続く、3作品目。

前作『お風呂の大野さん』は特に、パークのスタッフの間でも「読みやすい」「不思議なあたたかさ」と好評でした。小説系の ZINE はなかなか難しい、読みにくいものが多いのですが、大月さんの書く物語はスラスラと心に入ってくるというか、情景が目に浮かびやすいなと思います。5歳から物語を書いているというのだからそれも納得。

「読ませる」ための英才教育と言いますか、なにか1つを伝えるのに無駄がなく(乾いてると言ってもいい)、情報がストンと切り落とされたかのようで、でもちゃんと理解できる力強い文章。女流作家特有の、または男性が女性を描く際の湿ったレトリックな言い回しはなく、サクサクと感情が切り落とされてくから読んでいて気持ちがいい。あまりにも乾いているので、フィクションとノンフィクションの境目が見えず本人の日記のよう。ZINE というパーソナル性の高いメディアだからこそなおさらで、自身の投影のようにも見えてくる。そうなると、その境目のなさが逆にヒリヒリと傷のように痛む。なんだかとてもリアルな感じがする。最後の短編「オールウェイズ・イン・ユア・ハート」など特に(まったく作り話ですよ、と言われてしまいそうですが)。乾いた世界は、どこか異国の話みたいだなと思う。16世紀イタリア美術を研究しているのが影響しているのかも。

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「少女たちが主人公の、不気味な短篇集」と、本人がいうように、キレのいい軽快な文章の中に、急に谷に落ちるような描写が時々ある。「いるわけないじゃん、お姫様なんて」。「まるっきり、悪足掻き」。「これでお終い」「仕方ないのよ、誰にでも寿命はあるの」「粘っこい汚物」。その谷に落ちるたびに度に、少女の『不気味性』を味わうことができる。ぐっと赤黒いものを見るのだが決して嫌な気持ちになるわけではなくて、復讐劇というか、ちゃんと空気の抜ける瞬間も描かれてる。救いのある文章。『本当』っていうのはこのくらいのこと。とでも言いたげな感じ。

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時々挿絵のように入ってくるコラージュもとてもセンスがよく、物語を読み進めるのにちょうどいいスパイスになってる。あと、常に BGM でピアノの音が聞こえてくるのはぼくだけの気のせいか。

読み始めると一気に読み進められます。ぜひ持ち帰って、寝る前にでも気軽に楽しんで。おすすめです。


レビュー by 加藤 淳也(PARK GALLERY)


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作家名:大月 ユリコ(京都府京都市)
京都出身。同志社大学哲学科卒業。5歳のときに物語を書きはじめる。レストランピアニストなど、音楽家として活動する傍ら、文筆活動を続ける。代表作に『こんばんは 眠りの森』『お風呂の大野さん』。現在、京都大学にて16世紀イタリア美術を研究している。桃が好き。小鳥と暮らしている。
https://twitter.com/yurico_mimosa_
【 街の魅力 】
古い文化にも新しい文化にも触れられる。
【 街のオススメ 】
① 恵文社(書店) ... 素敵な本と雑貨に出会える。
http://www.keibunsha-books.com

② 迷子(喫茶と古本) ... アンティークでレトロな不思議空間。
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