boa viagem #017 『振り返り』by 写真家・新多正典
帰国の移動中。
レシーフェからサンパウロへ。
レシーフェもサンパウロも空港が随分ときれいに明るくなっていた。
これまでサンパウロでは必ず荷物のピッキングと国際線のチケット手続きをしていたのにそれがなくてめちゃくちゃスムーズ。
この国でもちゃんと合理化が進んでいる。
移動中これといった出来事もないので、今回の旅の一番の珍事を振り返る。
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コンペがまさに始まる直前、ポルトヒコ全員がスタートゲートに隊列を組んで並び出したとき、ジェシーにグッと腕を掴まれ、脇道に連れて行かれた。
女性陣のリーダーで、顔も身体の大きさも迫力のある彼女が、血相を変えて
「今穿いてるそのズボンを脱げ!!」と捲し立ててきた。
その場に居たスタッフも何言ってんのコイツ?とキョトンとしていたが、更に捲し立ててる彼女の言葉に従って、僕はズボンを脱がされることになった。
そして、ジェシーは「代わりの白系のズボン、なんでもいいからスタッフに言って借りてこい!」と。
完全にカツアゲされた中学生状態で、スタッフに連れられ、荷物置き場までの暗い市街を急いで戻った(もちろんトランクス一枚ね)。
荷物置き場のスタッフも、なんでコイツいきなりパンツ一丁やねんと飲み込めない状況で誰も白いズボンなんかないよと諦めモード。
なんならオッチャンらが穿いてる白ズボン貸してくれよ、とも言いたくなった(神聖な場なのでスタッフも白いズボンを穿いて参加しないといけない)。
とにかく急げ!コンペの写真撮れなくなるから!と今度はこちらが頭にきて連中に捲し立てまくった。
ようやく余ってたヒラっヒラの貴族が穿くバカでかいズボンを見つけ(強大な理不尽を感じながら)また走って戻って事なきを得たが、ヒラっヒラのズボン穿きながらの撮影は本当に恥ずかしかったな。
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翌日、ジェシーから詫びのメールが来た。
それでようやく真相が理解できた。
ポルトヒコは毎年このコンペ用に必ず新しい衣装を作る。
演奏部隊は、男と女でディテールが異なっていて、男は下はズボン、女はスカート。
僕は今回その衣装を着る必要はなかったんだけど、衣装担当が気を回してプレゼントしてくれた。
せっかく貰ったんだからと、僕も男の衣装を着て現場に行った。
問題は、女の衣装で、例年はスカートのみなのに、なぜか今年は男が穿くズボン+スカート、という謎なセットアップになっていて、現場に来たジェシーはズボンを家に忘れてきたことに気づき、僕を見つけて強奪に及んだのだった。
ただ彼女もパニクっていたようで、女性陣のリーダーなのにこのままだとコンペに出れないという大ピンチだったようで、
「あなたは救世主だよ」と詫びのメールに執拗に書かれていた。
衣装、貰うんじゃなかったよ。
本当に疲れる国だぜ。
つづく。