COLLECTIVE レビュー #03 よしのさくら 『とまれみよvol.2』 (宮崎県)
好きな小説家やエッセイストの続編はもちろん待ち遠しいけれど、ごく少数の、わずかな読者に向けられた ZINE というメディアを発信する人が世に送り出す「2」ほど頼もしいものはない。
「ただただ続きを作りたい」とか、「前作の反応がうれしかった」、「言いたいことがまだある」、など、理由は様々だと思う。「はじめから続きを見越していた」というタイプのひともいれば、惰性でやる人もいると思う。人気のあまり続編が出たという人ももちろん。でも、その中にときどき
「私がやらなければ誰がやる」
という使命のようなものによって動かされている「2」がある。ぼくはその手のタイプの「2」が好きで、今回はそんな作品をレビューする。
COLLECTIVE 2022 ZINE レビュー #03
よしのさくら「とまれみよ2」
2020年 の COLLECTIVE から2年。宮崎から「とまれみよ2」が届いてうれしくなった。文・編集・発刊を務めるのは、よしのさくらさん。前作に続き、挿絵を手がけるのは実姉の小谷彩佳さん。もはや共著と言えるが、「聞き書き」をライフワークにしてるよしのさんに対して「語り手」の3人が揃ってこその作品であることは間違いない。
祖父の暮らしに向き合い、聞き書きをした「とまれみよ1」レビューはこちら👇
今回の語り手はばあちゃんだ。ばあちゃんの作る郷土料理が大好きで、いつか作り方を教えてほしいと思ったのがきっかけではじまったばあちゃんへの「聞き書き」は、2017年の末からはじまる。いつか、いつか、と先送りにしていたのを(多くの人が先送りしてしまっていることを)、よしのさんは自らの手でぐっと動かした。
静子ばあちゃんの、長く生きてきたからこその知恵。苦労しながらも生きる力。日常に潜む美しさに動く心。孫の好きな料理や手仕事をしっかりと伝承しながら、遠い過去の話も、足元にある草花の話も、同じように並べて慈しむことができる静子ばあちゃんの語りが、挿絵と混ざり、胸を打つ。
名前も知らないどこかの誰かのばあちゃんの話なんて、多くの人が興味ないと思う。でも、そこに、かすかに、わずかにでも、豊かに生きるための知恵や、ささやかな感動の種、そして未来に向かっていく気持ちが、光ってるのを、ぼくらは忘れてはいけないと思う。
その謙虚でニュートラルな光は、この「とまれみよ」という ZINE に触れた瞬間にだけ、平等に降りかかる。ここではうまく言えないけれど、 ZINE というメディアだからこその光がこの本にはあると思う。
「私がやらなければ誰がやる」。よしのさんのそんな想いが誌面から聞こえてくる。
需要はもちろん、流通経路も不安定で、かつ、手がかかるわりに対価が見合わない <ZINE>というメディアを<続ける>というエネルギーは一体どこから生まれてくるのだろうか。それを想像するだけで楽しいし、いつかよしのさんに会って、その想いを聞き書きしてみたいと思う。
まず「教えてほしい」と伝えてみること。
そして「教えてもらえる」その時をちょうどよく掴むこと。
聞き書きの大切さをそう記すよしのさんに、ぼくは何が聞けるだろうか。
レビュー by 加藤 淳也
---- 以下 ZINE の詳細とそれぞれの街のこと ----
【 ZINE について 】
ずんずん歩いて、観たことのないものを見に行くのも好きなのですが、ピタッと止まって、そこから見えるものや聞こえるもの感じることに心を寄せるのも好きです。止まってみたときに心が動いたものをじーっと見てみようと思いながら聞き書きをし、ZINE にまとめています。祖父母への聞き書きは10年ほど前から少しずつはじめました。聞いて、それをもとに調べて、考えて、また聞く、を繰り返しています。祖父母という近しい存在だからこそ見えていなかったもの、知ったつもりになっていたものを、改めて捉え直す時間として大切にしています。
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