#03 「写真をより楽しむために」
このコラムでは、現在パークギャラリーで開催中の『THE BEST展』に参加してる20人のアーティストの作品が、この小さな会場にどのように並ばれていったか、そのプロセスを語りながら、20人の作家の作品を紹介しています。残り4日となりました。会場に来る前に、見た後に、どうぞ。
過去の記事も合わせてお楽しみください。
まずは「作品が話しかけてくる」というヘンな話
写真を楽しむヒント。今回の記事はこちらの続きになります。
時を刻む線
次に話しかけてきた作品は今回の『THE BEST展』が初の展示になるという小谷田大輔くん。晴れ空の下で空中ブランコを楽しむ人たちの、楽しそうな声がいまにも聞こえてきそうな、でも、どこか儚い感じもあります。スローモーションのような。
#02 で、カメラにもいろいろあると言いましたが、小谷田くんが今回使ったカメラは『ハーフカメラ』と呼ばれるカメラです。かんたんに言えば、1枚分の写真サイズに半分のサイズの写真を縦に2枚、振り分けることができるカメラ(24枚撮りなら48枚撮れる計算)です。真ん中に入った線はその境界線。日付変更線とはいいませんが『時』を刻む線です。
例えば東京でシャッターを切って、そのまま沖縄へ移動し、海の前でシャッターを切れば、左にビル群、右に海、という1枚の写真ができます。つまり移動したという情報がこの線に現れます(ちなみにそれぞれ現像して別々にプリントすることもできます)。
カメラの性能を少し知ると写真の魅力がぐっと引き上がってきますよね。改めて、彼のシャッターのタイミングは果たして。
それぞれの心象の中の遊園地
デザイナーも美しいと称賛したこの写真のコンポジション(構図)は、意図してのことか、それとも偶然か。それは小谷田くんにしかわかりません。でもそれでいいんですよね。#02 にも書いた『コンテクスト』をあえて隠すことで浮かび上がってくるイメージもあります。答えを出さずに「観賞者に想像させる」というのも写真の楽しみのひとつ。写真に落ちてないヒントは伝えて、写真にヒントが落ちてる場合は隠すというのがいいかと思います。新多さんの『京都』は伝えた方がいいけれど、小谷田くんが撮った『遊園地』がどこなのかを探るのは野暮です。
ハーフカメラで撮った写真はサイズが半分なので、よく、小さくプリントして展示されます。けれど小谷田くんのは大きく引き伸ばされています(俺は大きくするんだ!という言い切りの写真◎ *#02 参照 )。本来であれば大きくすればするほど画質が悪くなってしまうのですが、この作品の場合は、多少の画質の悪さが昔のシネマフィルムのようなノスタルジーを与えてくれてます。遊園地にいる時の気分で、少し見上げるような感じで見て欲しいと思って、この場所になりました。最初はもっと低いところに打ちつけたんですが、「いや、もっと光を感じたい」と、作品が言うので、移動となりました。はからずして #01 に書いた『円』が空間に生まれた気がします。
写真家というよりアーティスト
次に折田千秋さんの写真作品を紹介します。『写真家』というより『アーティスト』という印象を受ける人も多いと思います。今回の BEST 展がきっかけで知ったのですが、折田さんの instagram を見て即決でした。これは見たい、そしてみんなに見せたい、と思ったのでした。
ピンクの傘の柄が写るこの作品(プロジェクト)は、写真を見た人が『印象』として感じ取った『色』を選んでもらうという実験的な要素が含まれています。左が見てもらった写真、右が写真を見た自身を含む48人が選んだ『色』の集合。この2枚1組で1つの『写真』作品となります。何も景色や人だけが写真じゃない。こうなると哲学的でここで話すのは難しいのですが…(会場で話しましょう)。
#02 でかんたんに説明した『現像』という手法に近いのかな。カメラで撮った像を定着させるという現像方法が、折田さんの場合はカラーチャートだったという話。天体写真や、報道写真、ネット上の写真を加工して自身の写真作品と言い切るトーマス・ルフ的。
『プロジェクト』という切り口になってくるとよりアート的になってくると考えています。
見比べる楽しみ
2枚で1つの作品という点では小谷田くんと同じなんですが、まったく違うアプローチを楽しめるのも今回のグループ展の魅力です。個展ではなかなか見比べるということはできません。なのでここでは『見比べる楽しみ』を感じて見てください。
あと単純に傘の写真、見ていて楽しいフラミンゴみたい。カラフルでビビッドな作品は、本来モノクロームで静かな写真作品の近くに置くのは避けるのですが、あえて新多さんの隣に。まわりの色に負けない新多さんの写真と、実験的な折田さんの写真を近くで感じることで『写真』の奥深さをダイレクトに感じ取ってほしいと思った(そう聞こえた)のです。
折田さん天才だなと感じた ZINE も販売しています。茨城の風景を色で分解した作品。
まるで詩のような写真
4人目の写真家は堀千晃さん。いままで紹介した3人ともまた違う、凛とした写真。言葉(コンテクスト)を噛み締めながら見る、ある種『詩』の延長のような写真だと思いました。
写真に言葉なんて必要ない、という議論はこの先も一生続くと思うのですが、ぼくは言葉を味方につけた方が、いいと思います。写真家が自ら雄弁になる必要はないと思いますが、ある程度の距離で写真を分析してくれるような詩人のような存在は必要です。
外出を控える生活がや日常となり、部屋のなかという小さな世界に改めて目を向けるようになりました。犬の背に光が射す様子に、些細ながらも確かなことを見い出しました。このようなまなざしでどのような写真も撮り続けたい、と改めて思い、この写真を激動の年のBESTと選びました。
—— 堀千晃
きっとこの説明を読む前から、そういう写真なんだろうなと気付ける写真ではあるのですが、改めて、こうして言葉で説明してもらうと「腑に落ちる」ことができます。腑に落ちるというのが結構重要で、我々ギャラリーはいかに「腑に落ちてもらうか」というサービスをしなければいけないと思っています。腑に落ちてない状態で作品を買う人なんてほぼいないと思うので。
光の呼吸
ほかの3人に比べて、2Lサイズ(一般的な写真サイズ)と小さく見えますが、写真に宿る『生命』のエネルギーはサイズを超越しています。そこに『ある』という万物に与えられた普遍の美しさをシンプルに切り取った1枚。シャッターを切るというのは『光』を取り込むことなんだと改めて感じさせてくれる1枚です。額からアクリル板を外して写真のプリントを見せる新多さんに対して、93%ほどの透明度の<アクリル>で額装することで、光を吸い込んで、とじこめたかのような少し霞んだ透明感を生み出すことができます。
堀さんも、申し込みがあった時にすぐに直感で決めました。instagram にあがってる写真はまだ少ないのですが、もっと見たいと思わせてくれる写真家さんです。それにしてもどの写真も命と光の寄り添い方がすばらしい。
タイトルは『光の呼吸』。
まさに、光が呼吸して見える魔法のような1枚。
額装1つで作品の見え方もかわってきます。そこを意識して今回の4つの写真作品を見てみると、もっともっと楽しめると思います。
長くなりましたが、きっと写真がもっと楽しくなる、好きになるような話になったかと思います。
ではこの土日も、お待ちしてますね。
写真の話、しましょう。
パークギャラリーに居るひと
加藤淳也( instagram )