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ちぶり通信8_島の噂は光より早い
島の噂が回る速度は早い。
異常に早い。
人類が作り出したものの中で一番早いかも知れない。
自分の全く知らぬところで、背びれがついて、尾びれまでついた噂がピチピチと泳いでいる。
その噂をとっ捕まえて事実という刃で掻っ捌いても、またぴちぴちと別の個体が跳ね回っているから撲滅はなかなか手強いのである。
私は、自分の噂が回っていると聞くと、恐怖のあまりすみやかに失禁する。それくらい噂への免疫がない。隠岐の生態系並みに脆弱である。
東京の前職では、ネグレクトな部署に所属しており、「ちったぁ、こっちを気にせんかい!」と憤慨していたが、その対極である島の環境もまた一興なものである。
私の三線教室の先生の弟さんは、石垣島で二股をかけ、それが地元の波照間島まで瞬時に広がり、石垣島への2年間の出禁処分を受けたと言っていた。
島唄
島唄よ風に乗り鳥と共に海を渡れ
島唄よ風に乗り届けておくれ私の涙
島唄って噂のことだったんですね。
歌にもより一層気持ちが籠りそうです。
この島でも、八重山でも、島であれば一瞬で噂が広がるという状況は同じなのかも知れない。となれば、島国日本ならどこでも同じか、とも思ったりする。
しかし残念ながら(喜ばきことながら)、噂というのは短命である。「人の噂も七十五日」とはよく言ったもので、情報過多な現代ではさらに短命である。
噂はそのうち消える(消えろ)。
皆、事実を知りたいのではない。
人は【何時何分に〇〇をしました】という事実はいささかも興味がない。ふぁっふぁんふぁ〜んでアバウトな霞ともつかぬものをコロコロと転がしときたいだけなのである。
であれば、であればだ。
もう事実を伝えるのはやめだ、やめ。
事実の刃をそっと鞘にしまいこみ、皆んながその場の一瞬を楽しめたらそれで良いではないか、という島前カルデラより広き心で構えていたほうが楽だ。
むしろ噂に自分から、背びれ、尾びれ、胸びれ、おまけにうろこまで付けてもいいのではないか。
皆の衆、大いに楽しめ、踊らにゃソンソン。
皆んなの一瞬を楽しませなさい。三線にしても、噂にしても。
あたしゃ海辺で三線でも弾いときます。よしなに。