路地裏のほころび工房①*不思議なお店と出逢った日*
まだ、夢だったんじゃないかなぁ?と思える。
不思議な路地裏のお店にたどり着いた日のこと。
大好きなドラマ、スナックキズツキ的体験をしてしまった日のこと…。
𖠚ᐝ
久しぶりに眠れなかった。最近は不眠症もだいぶよくなっていたからこそ、ショックだった。死んだ母の言葉を思い出していた。人間は無意識に緊張すると眠れない。今年、初めて知ったこと。
絶望の中、朝を迎え、身体を起こす。こんな時は、おいしい珈琲でも飲むべし。なじみの喫茶店によろよろと向かうと、お目当てのアップルパイはなかった。その後のレジでのそっけない対応も重なり、心は泣いていた。
存在していることが恥ずかしくなり、ソソクサ…と店を出ると、冷たい雨が降っていた。え、さっきまで降っていなかったよね…?傘、持っていないよ…。
「消えたい、消えたい…」とぼそぼそと呟きながら、街を歩いた。みじめだった。
このまま家に帰っても、気持ちを引きずってしまう…。「いい記憶に、上書きせねば!」と気になっていた紅茶推しのカフェに向かう。ちゃんとお店のInstagramもチェックしたんだもんね、よし、今日はやってる……!
やってなかった。
翌日が祝日だったからか?臨時休業だった。この気持ちは、どうしたらいいんだろう?私は、次、どこに向かえばいいんだろう………。
やーいやーい、と車がたくさん通る道を、ひとりトボトボ歩く。(新潟は圧倒的な車社会なので、道を歩いているだけでも見られているような気がする)
すると、目線の下の方に、小さな立て看板が目に入った。路地裏工房??怪しい、怪しすぎる。でも、なんだか無性に気になった。
暗くて細い、路地を進む。プレハブ小屋っぽい、錆びた壁。年季の入った屋根。ここ、刑事ドラマで犯人が身を潜める場所じゃん。ぴちょん、ぴちょん…と水溜りに滴る雨も、異様な雰囲気を醸し出して、不気味だった。
恐る恐るお店をのぞいてみる。誰もいない。外にはイカツイバイク。これは、あかんやつや。やばいマスターのいる店だ。ねぇ、忘れたの?個人店はやめときなさいって。あなたが次にいくべき店は、安心安全のチェーン店だよ!
……。結局、弱虫代表の私は、大通りに引き返すことにした。そして、携帯を手に取り、LINEする。
こんなところにお店があったよ。でも入る勇気はない。
と送った、送ったのに、また足が引っ張られるように、お店の前に立っている自分がいた。こっわ!
後ろ髪をひかれる、って今使う表現じゃないのかもしれないけれど、まさにそんな感じ。え、わたし、呼ばれてる…!(誰に?)返信も待たず、気がついたらエイヤ!と、入口に手をかけていた…。
𖠚ᐝ
ドアを開けると、カランコロン〜というベルの音と、ムワッとむせかえるような不思議な匂い。(あ、こりゃ、だめだ)と思い、咄嗟に背を向ける。だって、ここ、入ったら最後。何か買わないと帰りづらい系の店だ。
シーンとした店を後にしようと思ったその時、「こんにちは〜」と、明るい声がした。ひょっこりと出てきたのは、外国のお人形さんのような女性。ちょっと驚いた。もっと男臭いお店かと思った。
「(しまった…!完全に引き返すタイミングを逃した…!)あ…あの、見るだけでも大丈夫ですか…?」
とおずおず尋ねると、
「うちは、むしろ、見ていただくだけのお店ですよ」
と微笑む女性。
あったかい。この人、大丈夫なオーラだ…!「雨、濡れなかったですか?」との気遣いに、泣きそうになる。
やっと、わたし、迎え入れてもらった……。
と、冷たかった心に暖が灯る。と、同時に、
「あの!ここ、スナック!キズツキって、あの、テレビ東京のドラマで、益田ミリさんっていう好きなエッセイストの、そこに!その雰囲気に、ピッタリです!!」
と、鼻息荒く、語るわたし。
今思い返すと、まじで不審者だった。
その後、今日あった悲しいことや、やるせない気持ちを、ドバーッ!と息つく暇もなく話す。このお店に、フラフラとたどり着いたいきさつをフンフン語りながら、バーのようなカウンター席に目をやる。
「あ、よかったら、お茶でも飲みませんか?うち、フリーでお出ししているんですよ。」
(えっ…どういうお店?いいのかなぁ…)と思いつつ、促されるままに、荷物入れに荷物を置いて、腰かけた。
どこにもなじめない系女子のわたしが、すでにこのお店になじんでいるような気がした。
𖠚ᐝ
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