部屋

夜通し渋谷で友人と飲み明かした。
そんな時間もすぐに過ぎ、僕には帰る以外の用事はないはずだった。

解散した後に道玄坂を歩く最中、あたりを不安そうに見回す男が目に入った。
酒も入っていたことだ。僕は彼に声をかけた。

日本語がほぼ喋れないがコミュニケーションは取れる。
どうやら中国から来たそうだ。

友人に連れられ近くのクラブに来たそうだが、
はぐれてしまったそうだ。
彼は日本に来たばかりでわからないと言いながら、
僕に住所の書いてあるメモを渡してきた。

神楽坂。
どうやらここから数駅程度のマンションの一室である。
調子付いて僕はそこまで送ってやると言った。

僕は神楽坂は初めてだったので、
未開の地を彼と探索しながら想像よりも時間をかけて辿り着いた。

彼は歓喜し
「こんなに優しかった人はこの国で初めて会った。」
とコンビニで買った酒を僕に渡し、家に招くと言ってくれた。

僕は嬉しかった。
朝に会った彼と昼まで飲み明かした。
互いの夢、付き合ってる彼女のこと、
二人とも実は昔武道やってたみたいな共通点も分かった。
次第に、夜通し飲んでた僕は眠くなって、少しだけ布団を借りたいと彼に伝えた。
彼は快く受け入れたくれた。

ここに言葉は通じない国際友情誕生といったところだ。

そして、凄まじい水を流す音で僕は目を覚ました。
玄関から差し込める少し傾いた日差しを背に、
包丁を持って僕の隣に座る彼が居た。

これは創作ではなく、僕が実体験した話である。

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